第三章 試されるフローズンヨーグルト

第16話 耐寒性のあるベジタブルフルーツ(1)


 引き続き、魔道具工房――


「シュリー! これ、使ってみてもいいかしら?」


 面白そうなモノを見付けたので、早速、私は彼女に確認してみた。

 工房兼住居であるため台所キッチンそなわっている。


 食器も多めにあるようなので、これから、お昼の準備を始める所だ。

 都市部は屋台文化のため、お昼に料理をする家庭は珍しい。


 昼時にはファーストフードとも言うべき、屋台のお店が広場に並ぶ。

 人気店には行列が出来るほどだ。


 しかし、夕食時はもっと規模が大きくなる。

 勿論もちろん、家族がいるのなら、夕飯を家で済ませる場合もあるだろう。


 だが、大抵の住民は屋台へと出掛ける。

 私としても『庶民的な料理が食べられる』ということで屋台の方が良かった。


 しかし『目立つのでめてください』とイサベラから、お願いされてしまう。

 仕方なく献立こんだてを考え、シグリダとイルルゥに買い物を頼んだ。


 責任をとって、私は調理担当になる。


(いったい、なんの責任なのかしら?)


 私はただ、ナスの話をしただけなのに――


「構いませんが……?」


 とシュリー。戸惑っているようだ。

 私が魔道具に対し、興味がある事におどろいているのだろう。


 まあ、料理自体も本来なら料理人の仕事である。

 貴族や王族は魔力が高いため、こういった道具には然程さほど、興味がないのも事実だ。


 この時代においては、私のような存在は特殊なのだろう。

 ちなみに私が見付けたのは、魔石をエネルギーとする『コンロ』である。


 魔法の使えない私でも、これがあれば料理の幅が広がるハズだ。

 なんといっても、火の魔法が使えなくても関係ない。


 仕組みとしては『火の魔剣』と考えると分かりやすいだろうか?

 魔石とは魔力が結晶化、または魔力をたくわえることが出来る石だ。


 『魔晶石ましょうせき』ともいう。

 人間の冒険者などは、魔石にある魔力を使用し、魔法を使うこともあるらしい。


 なので、聖王国などでは、蓄えられている魔力量で魔石の価値が決まる。

 一方、魔族には魔力を気にする必要がない。


 魔力の質により、魔石の輝きがことなるので、そちらを重視する。

 強い魔力を持つ者が身に着けることで、魔石は宝石の役割を担う。


 道具として使う際は、魔法文字ルーンきざむのが基本だ。

 そうすることで、魔力を魔法として開放するが可能になる。


 この手法であれば、私のような存在でも魔法をあつかうことが出来た。

 例えば、火の魔石であれば「燃えよ」「爆ぜよ」「熱せよ」などだろうか?


 魔石をかかげ、きざまれた魔法文字ルーンを唱える。

 それだけで魔法が発動した。結構、便利なのだけれど、


「調整がむずかしいのよね……」


 出力を調整できないかしら?――私は独り言をつぶやく。

 蓄えられている魔力を一度に放出すると、大惨事にしかならない。


 よって人間の冒険者同様、魔法の武器として使用される事もあった。

 勿論もちろん、欠点をおぎなうための仕組みもある。


 それが魔鉱石だ。魔石に魔力を蓄える性質があるように、魔鉱石は金属の素であり、魔力を流し、伝える性質を持っていた。


 コンロの場合は、魔石で発生させた火を『加工された魔鉱石へと伝達する』という仕組みになる。


 魔石を埋め込んだ剣。その刃に炎をまとわせるのと仕組みは一緒だ。

 魔鉱石は円環状となっていて、魔石から発せられた炎をまとう。


 ただ、現状の仕組みだと魔力を込めすぎた場合、火柱が上がってしまうようだ。


「強火、中火、弱火の調整が出来ると有難いわね」


 魔法を使う料理人であれば、その辺は間隔で行ってしまう。

 料理には『魔法をあつかう才も必要になる』というワケだ。


 当然、そのいきに達している魔族であれば『そもそもコンロなど必要ない』という矛盾が発生する。料理人は『火の魔法の使い手』である事が多のだ。


「大きさの異なる魔石と、魔力伝導率の異なる魔鉱石を組み合わせるのがいいのかしら? それとも風の魔石を使って火の勢いを上げた方が……」


 えて、魔鉱石の質を落とすのもありかしら?――そんな私のつぶやきに、


「なるほど」


 とシュリー。なにやらスイッチが入ってしまったようで、うんうんと一人で考え込んでしまっている。これが『鏡を見ろ』という事なのだろうか?


 自分の世界に入り込んでいるようなので、私の声は届かないらしい。

 料理の話をしている時の私も、こんな感じなのだろう。


 手伝いは見込めそうにない。仕方なく、私は勝手に準備を始める。

 やがて、シグリダとイルルゥが帰ってきたようだ。


 お店の方が騒がしくなる。私は早速、買ってきてもらった食材を受け取った。

 シュリー宅にはもう一人、同居している人物がいるらしく、量も多めだ。


 イサベラに手伝いを頼み、店番を三人にお願いする。


「お昼、楽しみですね☆」


 ルンタッタ♪――とシグリダが二人の手を取って踊り始めたので、イルルゥとシュリーもそれに合わせて踊った。


「類は友を呼ぶ、ですね」


 とイサベラ。何故なぜに私を見るのだろうか?

 本当は可愛いモノが大好きで、三人の中に混ざりたいクセに素直ではない。


 そんな私の思考を読んだのか「コホンッ」と咳払せきばらいをするイサベラ。


なにを作るつもりですか?」


 ワザとらしく質問をする。

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