第15話 紀元前からあって、和食にも合う(3)


「一緒に過去へ飛んでくれ」


 と再度、真摯しんしな眼差しで彼に頼まれた。

 こんな時に不謹慎ふきんしんかもしれないが、顔が赤くなっているのが自分でも分かる。


 久し振りに出会った人間。それが美男子であり『自分を必要としている』と言ってくれたのだ。


 少しは恋というモノを意識してしまっても、仕方のない話だろう。

 しかし、彼にはそういった下心はないらしい。


(まあ、普通にモテそうだしね……)


 リュートは女としての私には関心がないらしい。一人で変な歌を歌っていたし、カレーライスに妙なこだわりを見せてしまったので、当然の反応だろう。


 私は一度、彼を席へと座らせることにした。

 そのあいだもリュートは淡々と話しをしてくれる。


 気を抜くと、また意識を失ってしまうのかもしれない。彼の説明によると、私が【無限書庫】へとらわれた時間軸まで、戻ることが出来るらしい。


「正確には、それに近い『時間へ』だ……」


 恐らくは1、2年の誤差が出るだろう――と語る。

 過去へ戻れるだけでも『すごい』と考えてしまう私だけれど、


「残念だが、君の父や魔王を助けることは出来ない」


 とつぶやく。どうやら、責任を感じているらしい。

 私としては【無限書庫ここ】に閉じ込められた時点で、あきらめていたことだ。


 彼が責任を感じることはない。それに『永遠に【無限書庫ここ】へ独りでいる』そんな現状よりも、過去へと飛んだ方がいいに決まっている。


 父上や魔王様を助けられる事は出来ない。それでも――


貴方あなたなにおびえているの?」


 無理をしているのは『世界を救いたい』そんな正義感からではないハズだ。

 常に動き続けなければ、不安で仕方がない。


 そんな子供のような瞳をしている。

 リュートは『まいったな』といった表情で一度、私から視線をらした後、


「隠すつもりはない」


 と答えた。体調は良くないようだ。


「今の勇者は『第二世代』――」


 彼はゆっくりと語り始めた。『第二世代』とは、短時間しか活動できなかった『第一世代』の勇者を改良したモノらしい。


 どうやら『第一世代』の勇者は時間限定で能力を極限まで引き出せる消耗品のようだ。まさに人間兵器である。


 そして、リュートは『第三世代』の勇者。

 『第二世代』ほど因子の力は強くはなく、万能ではない。


 得意な能力も個体によって違うのだという。『第二世代』のような単機による運用はできないが、チームを組むことにより、長時間の安定した活動が可能になった。


 リュートは魔法に特化した『杖の勇者』といった所のようだ。

 そして、今暴走している勇者は『第二世代』で彼の兄だという。


 正確には『兄のような存在だった』そうだ。

 リュートは人工的に造られた人間。


 もしくは貴族の血を引きながら、望まれずに生まれた子供。

 血統に恵まれながらも、継承者の予備スペアにもなれない子供たちである。


 リュートに現勇者と遺伝子的なつながりは無いのかもしれない。

 だが『そんな事は関係ない!』と彼は言う。


 聖王教の施設で一緒に育った家族であり、苦楽を共にした仲間。

 そんな勇者を『助けたい』と思っているだけ――


(うーん、そういう話をされると弱い……)


 もっと冷酷な人間かと思っていたのだけれど、聖王国を憎んでいただけだったらしい。


 過去に戻って――勇者が暴走する前にめる――その算段が、彼にはあるのだろうか?


「さっきはひさりに星空を見た気がするわ……」


 基本は五芒星よね?――そう問い掛ける私に対し、リュートは首をかしげた。


「きっと、昔の偉い人がそう決めたのよ」


 三芒星や八芒星、十二芒星だってあるモノ!――と私は声を上げる。

 広がる星空。それを誰と見るのか? 何時いつ何処どこで見るのか?


 星の輝きは、その時々によって違うハズだ。

 なにが言いたいのか? というと――


「星型の野菜といえば『オクラ』よね?」


 レディースフィンガーもあるけれど、え物にしたり、ねばり気のある食材と混ぜたり、食卓ではすっかりお馴染なじみの夏野菜。


 魔王国では、あまり食べないけれど『ガンボ』という料理もあるわね。

 具がたっぷり入っているスパイシーなシチューよ。


 質より量を重視する国があって、その国の料理の中でも『特に美味おいしい』といわれているの。でもね、実は奴隷どれいとしてあつかわれていた人たちが持ち込んだ料理なのよ。


 ブイヤベースが基礎となっているみたいで、お米にかける形で食されるみたい。

 スープの場合もあるけれど、肉や甲殻類を入れるの。


 それと野菜――セロリ、ピーマン、タマネギ――で構成されているらしいわ。

 で、欠かせないのが


 つまりオクラよ。台所に乾燥させたオクラが常備されていたりするんですって。

 まあ、私たちの国では固くなる前に収穫するのが基本ね。


 さっとでて、柔らかな食感を楽しむの。

 勿論もちろん、オクラカレーも美味しいわよ。


 思わず、汗が出るくらい『ピリッ!』とした辛さ。

 それがオクラの優しい風味と絶妙にマッチして、活力をくれるの!


「さあ、行きましょう!」


 私はそう言って、彼の手を取った。


「美味しいモノが待っているのなら、何処どこにだって付いていってあげる☆」

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