第25話 腐敗しにくく保存性が高い(1)


 イサベラの幼馴染おさななじみが設立したという『ドルミーレ商会』。

 規模は大きくないが、中堅に手が届く程度には商売が成功しているようだ。


 マニア向けの商材をあつかっているため、ライバルが少ない。

 その点が優位に働いているのだろう。


 また、イサベラの話によると貴族の出身であるようだ。

 そのため、コネを上手く使っているらしい。


 希少種の動物や特殊な趣味の人形を販売しているようで、盗品や密輸品の心配はなく、品質の良いモノを『安全に買える』というのが人気なのだろう。


 最初は『犯罪にでも手を染めているのかな?』と危惧きぐしていたのだが、その心配はなさそうだ。


「あまりオススメはしませんが――」


 そう言って、彼女は「わふぅ」と溜息をいた。

 商会の建物の中にまで来ておいて、往生際おうじょうぎわが悪い。


 幼馴染みだと聞いていたので『仲が良いのね♪』と思っていたのだが、違ったのだろうか? 貴族の出身だが、爵位は継がなかったらしい。


 現在、魔王国は聖王国の属国のようなあつかいになってしまっている。

 ある意味、正しい判断といえた。ただ、イサベラの反応を見る限り――


(この場合、能力よりも性格に問題があるのかしら?)


 と勘繰かんぐってしまう。ドルミーレ商会自体は新規の商会だが、マニアックな商品を取りあつかっているため、一部から絶大な支持を受けているようだ。


 都市には大手の商会が多く存在しているため目立たないが、成長する可能性は十分にめている。


 一階のエントランスには様々な衣装がズラリと並んでいた。

 バリエーションも豊富なようだけれど、なにに使うのかしら?


(ああ、人形やペット用か……)


 愛好家の間では、そういうのを『自慢する』と聞いたことがある。

 着飾きかざった人形やペットを互いに見せびらかすのだろう。


 石人形ストーンゴーレム木人形ウッドゴーレムとは違い『愛玩用の形状をしている』と聞いている。

 店内の商品に興味津々といった様子のシグリダに対し、緊張した様子のイルルゥ。


 私はそんなイルルゥに対し、手をつなごうと差し出したのだが「メモが取れません」と断られてしまった。仕事熱心なのはいい事なのだが、少しさびしい。


 イサベラに受付での対応をしてもらい、待っていると初老の執事が現れ「こちらです」と店の奥へ案内してくれた。


 別に人形を買いに来たワケではない。

 ちょっとした事業計画がある。


「農耕用魔道具の代わりに『骸骨兵スケルトンを使おう』と考えるとは……」


 流石さすがはエレナ様です!――とイルルゥ。

 素直に感心していた。農耕用魔道具が質なら、骸骨兵スケルトンは量だろうか?


 シュリーの話から、農耕用魔道具の開発には時間とお金が掛かることが分かった。

 お金が掛かる理由は『ノウハウがない』ことにある。


 更に必要としているのは農夫たちだ。だが、彼らにはお金がない。

 どうしても、開発費を考えると高額での販売となってしまう。


 それよりも、すでにノウハウのある美容関連の商品や化粧品を『改良する方がいい』とも提案された。


 確かに錬金術師の数も限られている。

 リソースは収益が見込める美容関連へと回す方が良さそうだ。


 しかし、そうなると農業は別の方法で発展させなければならない。


「代案は常に考えておかないとね♪」


 と言って、私はイルルゥにウインクをする。

 農耕用魔道具の代わりに骸骨兵スケルトンを農夫たちへと貸し出す計画に変更した。


 元々、魔道具と骸骨兵スケルトンに掛かるコストを比較するつもりではいたのだ。

 事の発端ほったんは魔王様が勇者に負けたことに起因きいんする。


 魔王国は聖王国から、武力解除の要請を受けていた。

 敗戦国に対して、当然の要求である。


 ただ一度に兵士たちを解雇かいこしてまっては『代わりとなる職の斡旋あっせん』や『治安の悪化』などへの対処が必要だ。更に地下組織への人材流出が懸念けねんされた。


 そこで骸骨兵スケルトンなどの意思のない兵士たちを廃棄させることにしたのだ。

 本来は城の警備や魔迷宮ダンジョンの探索に使われていた人形たち。


 魔王国からすれば、損失は少なく、聖王国から見れば、自我の無い人形も立派な兵力に数えられる。


 そのため、骸骨兵スケルトンの数を減らすことで、要求を飲んだように見せる事にしたのだ。

 ただ、言われた通りに廃棄するのも勿体もったい無い。


 そこで一時的に国で預かり、後で買い取る形にしている。

 しかし、買い取るにしても、お金が必要だ。


 その費用を何処どこから捻出ねんしゅつするのか?

 ここは骸骨兵スケルトンを使って、別の事業を始めるべきだろう。


 私は農業組合を発足ほっそくし、労働力としての骸骨兵スケルトンを買い取ってもらう計画を実行しようと考えたのだが――


骸骨兵スケルトンのメンテナンスに、詳しい人材がいないのよね……)


 そこで『餅は餅屋』というワケだ。

 だが、お金が無いのは何処どこも同じである。


 大量の骸骨兵スケルトンを買い取る資金は、簡単に都合できるモノではない。

 よって一度、商人に買い取ってもらうことにした。


 更に『彼らから農夫へレンタルする形に出来ないか?』と相談しにきた次第である。農作物の収穫で黒字になれば、骸骨兵スケルトンを貸し出す量も増えるだろう。


 辺境伯がバックに付いているのなら、商人としても安心だ。大手と組むのがいいのだろうが、大量の骸骨兵スケルトンを所有されると暴動に使われる危険もある。


 ある程度、国で管理し、出回る数を制御コントロールしなければならなかった。

 まずは畑の規模に対して、適切な骸骨兵スケルトンの数を把握する必要がある。


 法整備をしつつ、全国へ農業に特化した骸骨兵スケルトンを貸し出すのだ。

 これで大規模農業が展開できる。


 魔迷宮ダンジョンでの地下農業と合わせ、錬金術師による新規事業。

 最初は赤字だが、上手く軌道に乗せることが出来れば、十分な収益が見込める。


 商人の持つ『先見の明』とやらで、上手く話しに乗ってもらえると有難ありがたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る