第24話 実は『カボチャ』の仲間(3)


 イルルゥの後ろに立っていたのは、大きな紙袋をかかえた青年だ。

 パッと見て、目付きの悪さ印象的だった。


 意志の強そうな三白眼にくすんだ赤髪、褐色かっしょくの肌。シュリーと似たような特徴を持っていることからイグニスの出身であることが分かる。


 だが、彼女の知り合いというワケではなさそうだ。

 特に反応する様子もない。


 むしろ、こちらの知り合いだと思っているような素振りを見せる。

 青年の方は長身ちょうしん痩躯そうくで引き締まった筋肉質の身体からだ


 背中には剣を携帯していることから、冒険者と見るのが妥当だろう。

 それが何故なぜ、イルルゥと一緒にいるのだろうか?


「遅かったので、心配していたんですよ~」


 とシグリダ。イルルゥに抱き着く。


「すみません」


 と謝る一方で、


「お店の方たちから、色々ともらってしまいまして――」


 そう言って、イルルゥは背後に立っていた青年へと視線を向ける。

 どうやら、青年が抱えている紙袋はイルルゥの荷物らしい。


「運ぶのを手伝って頂きました」


 と説明してくれる。確かに小柄な彼女が両手に抱えきれない程の荷物を持っていたのなら、声を掛ける人物がいても不思議ではないだろう。


「最近は工房の方にエレナ様がよく来られるので『新しい料理を創作している』と思われているのかもしれません……」


 それで使ってもらおうと食材を沢山もらったのでしょう――とイサベラ。

 説明を補足しつつ、青年から紙袋を受け取る。


 錬金術師の工房が料理研究所みたく思われていたようだ。

 シュリーには申し訳ないことをしてしまったのかもしれない。


 そう考え、私は工房のぬしである彼女へ謝ろうとしたのだが――それよりも先に、


「で、『バザン』……どうして貴方あなたがここに?」


 イサベラは青年へ質問する。どうやら、知り合いだったようだ。

 バザンと呼ばれた青年の方も、イサベラの存在は予想外だったのだろう。


 明らかに面倒そうな顔をしている。空気を読んだのか、


「あ、あたしがぶつかってしまって――」


 イルルゥが慌てて間に入る。

 危なっかしいので『荷物を運ぶのを手伝ってもらった』という所だろう。


 一先ひとまず、イサベラはそれで納得したようだ。

 彼から私を守るような位置に立っていたイサベラだったが、一歩下がる。私は、


「イルルゥが迷惑を掛けたようで申し訳ありません……」


 助けて頂き、ありがとうございました――とお礼を言う。

 イルルゥは私に、そんな態度を取らせてしまい『申し訳ない』と思ったのだろう。


 急いで私の方を向くと頭を下げる。

 そんな彼女をなだめる意味も込め、私は「いいのよ」と頭をでた。


 その様子を見て『逃げるには、これさいわい』と思ったのだろう。バザンは、


「じゃあ、オレはこれで――」


 と工房を後にしようとする。私はイルルゥを助けてもらった『お礼をすべきかしら?』とイサベラに視線を送ったのだが、彼女は首を横に振った。


 どういうことだろうか? 丁度、外に出ていたクラムが戻ってきたようだ。

 入口の場所で鉢合わせになる。互いに戦士であるためか一瞬、目を細めた。


 私にはその様子が、相手の力量を計ったように映る。

 一触即発の状況と思いきや、


毒蛇族ヒュドラス――」

流浪るろうの――」


 と互いにつぶやいただけで、なにも起こりはしなかった。

 いや、イルルゥがバザンへ近づくには十分な時間だったらしい。


「あ、ありがとうございました」


 と頭を下げるイルルゥに対し、毒気を抜かれたのだろう。

 毒蛇族ヒュドラスなのに?――そんな事を私は考える。


 一方で緊張を解いたバザンは、


「気にするな……」


 またな――とだけ言って、工房を出て行ってしまった。『クラムの実力を見ることが出来るかも♪』と期待して、少しワクワクしてしまった自分が少しずかしい。


 お礼を言えたことで、イルルゥは満足したようだ。

 シグリダの方は、紙袋の中にある食材に興味が移っているらしい。


 これで良かったの?――と私がイサベラを見ると『上出来です』といった態度で、彼女は澄ました表情をする。


 『またな』の意味がよく分からなかったが、イサベラの知り合いということは、また会う機会があるのだろう。


 その後は、何故なぜか私が食事を作ることになってしまったのだが――


(まあ、これもいつものことか……)


 と思い、深く考えるのをめる。

 もらった食材で昼食を作りつつ、思い付いたことがあったのでクッキーを焼いた。


 さて、いよいよ本命のドルミーレ商会へと出発だ。

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