第27話 腐敗しにくく保存性が高い(3)


 イサベラの知り合い――というのも関係しているのだろう。

 元々、動物や人形の貸出レンタルについては考えていたようだ。


 人形に対して特殊な感情を持つ客も多いらしく、そういった連中は金に糸目は付けないらしい。だが、定期的に新しい商品を開発する必要があった。


 客の心をつなめておくのも大変なようだ。勿論もちろん、商会を短期間で大きくすることが出来たのも、そういった連中を相手にしたからなのだろう。


 ただ、現在の手法が『いつまでも通用する』とは考えていなかった。

 商売が上手く行っている今の内に――安定した利益を得ることが出来る商売はないか?――と考えていた所だったようだ。


 私が持ち掛けた話は『渡りに船』というワケである。

 最初は心配していたが、思ったよりも協力的な姿勢を示してくれた。


 現状、正攻法での商売は既得権益があり、参入が難しい。デメリットはあるが、彼にとっても魅力のある事業だと世間話を交え、簡単に伝えておいた。


 手応えを感じたので本題へと入る。だが、その前に――

 私は持って来ていたクッキーを用意させる。


 これは?――と頭に疑問符を浮かべるキルデベルト。

 商人相手に普通の交渉をするつもりは最初からない。


「『野菜クッキー』です……」


 色取取いろとりどりのクッキーは男性でも興味を引くだろう。

 だが、彼は商人である。私の意図とクッキーの用途を計算しているようだ。


「最近は紅茶の流通も戻りましたからね」


 と私は前置きをした後、美容関連の事業についても説明する。

 魔道具の工房についても、彼は情報は持っているのだろう。


 キルデベルトの頭の中で、色々と条件がつながったようだ。


「つまり、こちらの販売も『任せてくれる』ということで?」


 と彼は微笑ほほえむ。

 ノウハウがあるといっても魔道具の開発にはお金が掛かる。


 パトロン集めは必要だ。支援してくれるのなら『美容機器や化粧品、健康食品などを優先的に贈らせて頂く』という話である。


 彼の生い立ちと容姿から考えるに、貴族の女性たちとのコネを持っているハズだ。

 魔力がないことも原因だけれど、残念なことに私の社交性は低い。


 商売を機に『多くの女性を味方に付けたい』というのが、私の本音である。

 丁度、沢山の野菜をもらったので『野菜クッキーを焼いた』というワケだ。


 普通のクッキーよりもカラフルなので、見た目も可愛い。

 様々な形への加工も可能だ。


 テーブルの上に置いてあるだけでも十分に目を引くだろう。

 それに野菜の数だけ、色々な味が楽しめる。


 今回はニンジンとゴボウ、ホウレンソウも試してみた。

 味を考慮するのなら、最初の内はクリやカボチャ、サツマイモなどが良さそうだ。


 手に取ってもらうには、味を想像できる方がいいだろう。

 更にピーナッツ、炒りゴマ、レーズンを加えることも可能だ。


 香ばしさや甘みが増し、見た目に美味おいしさがプラスされる。

 本格的な夏になれば、野菜ジェラートも出す予定だ。


 お菓子を食べている感覚で、野菜を摂取できる。

 『美味しくて身体からだにもいい』と宣伝すれば、興味を持つ女性は多いだろう。


「先程、焼いたばかりですので、どうぞ食べてみてください」


 私は説明も程々に、キルデベルトに試食を勧める。

 お菓子に野菜を混ぜて『味を誤魔化ごまかしているだけだ』と思っているのだろう。


 けれど、優しい甘みがクセになるハズだ。


「養生菓子として『お子様や野菜嫌いの方にも喜んでいただけるのでは?』と考えております」


 と私はここで情報を追加する。薬膳やくぜんの発想に近い。

 アイディアだけなら、簡単に盗まれてしまうだろう。


 だが、美容機器や野菜はこちらが生産元だ。キルデベルトには、労働力になる骸骨兵スケルトンのレンタル、販路の拡大をお願いする形となる。


 双方に利益があるハズだ。彼は少しの間、無言で考え込んだ後、


流石さすがはエレナ様、その慧眼けいがん、恐れ入ります」


 そう言って、私に握手を求めた。当然のようにイサベラはその手をたたき落とすワケだが、それも彼にはご褒美ほうびなのだろう。


 交渉は上手くいったようだ。

 後は詳細を詰めるとして、人材の育成や海外への展開も視野に入れよう。


 そうなると骸骨兵スケルトンを使った輸送業も考えなくてはならない。


いそがしくなるわね!)


 今度、人形愛好家たちによる会食が行われるそうだ。

 キルデベルトが主催したモノで、いつもなら簡単な情報交換の場となる。


 私たちは貴族の女性へ向けた商品を作り、気に入ってもらわなければならない。

 早速、シュリーたちのもとへ戻って作戦会議だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る