第10話 草本性なので野菜に分類されます(2)


 もし外に出られたら、絶対にイチゴ狩りへ行こう!

 そんなちかいを立てながら、私は『イチゴのショートケーキ』へと勝負を挑む。


 元々は、とある農村地方が発祥はっしょうで、大きなクッキーのようなお菓子だったらしい。『ショートブレッド』ともいったようだ。


 だが、これは違う。スポンジケーキに生クリームをり、真っ赤なイチゴを乗せた可愛らしくも、堂々とした存在感。


 まずはイチゴが乗っていない部分を一口。


「こ、これは……」


 どうやら、私は勘違いをしていたらしい。

 これはスポンジケーキではない! スポンジカステラだ。


 まるでカステラのようなタマゴ風味のしっとりとしたスポンジケーキ。

 ふわりとした食感も好きだが、生地のしっとり感が絶妙である。


 いや、までショートケーキの主役はイチゴであるべきだ。

 予想外の不意打ちに心を乱してしまった。いかん、いかん。


 私はケーキの上に乗ったイチゴに全集中する。

 食の呼吸――壱の型『ちょっと一口』!


 食べ方にルールはないが、最後まで残しておくのも違う気がする。

 ケーキを倒さずに食べるのが、ショートケーキのマナーではないだろうか?


 食べると甘酸あまずっぱい果汁が口の中へと広がった。

 甘スパイ教室。


「うん、極上だ」


 材料は何処どこから調達しているのか?

 パティシエは存在しているのか?


 分からない事を考えても仕方がない。

 一度、取り出したお菓子は時間を置くと、再び取り出せるようになる。


 料理や紅茶も同じで、本から取り出すことが出来た。

 一先ひとまず、これでえることはない。


 トイレやお風呂、寝所も同じ要領だ。

 この場合は、私が本の中に入ることになる。


 ただ、本を置いたままにしておくと、精霊に片付けられてしまう。

 そのため、司書精霊とは仲良くなっておく必要がある。


 そうすることで毎日、本の中にある好きな部屋へ、寝泊まり出来るようになった。

 お風呂や寝台ベッドの問題も解決である。


 毎日好きな物を食べ、好きな部屋で寝る。


(父上のことだ……)


 私がすぐに【無限書庫】での暮らしに『順応する』と思っていたのだろう。

 その通りである。


 ちなみにが父『ソリコミー・グラキエス』は、魔王様に仕える四天王の一人だ。

 凍結とうけつ爆走ばくそうのソリコミー。


 父が通り過ぎた後は『すべてが凍り付く』と恐れられている。

 父上、カッコイイ♡――そんな風に思っていた時期が私にもありました。


 今となっては、なつかしくも恥ずかしい過去である。

 だが、魔族は大体そんな感じだ。


(だから、勇者に負けたのかもしれないけど……)


 誰も私を助けに来ない――という事は、そういう事なのだろう。

 煉獄最強『マルボーズ』、雷鳴上等『リゼント』、烈風特攻『モヒカーン』。


 父を含め、四天王として選ばれるには独特の感性センスが必要となる。

 歌にすると面白いかもしれない。


 お菓子を食べ終わった私は立ち上がると、


「さあ、イカれた四天王メンバーを紹介するぜ!」


 まずは煉獄(レンゴク)♪ 最強(サイキョー)♪

 炎の使い手だ。すべてを焼き尽くすぜ!


 奥さんに「アイス買ってきて」って頼まれるけど、家に着く前に溶けちゃうから、家に入れてもらえない事もあるんだYO!


 続いて雷鳴(ライメー)♪ 上等(ジョートー)♪

 雷の使い手だ。攻撃がド派手だぜ!


 でも、かかあ天下で尻に敷かれていて、奥さんから雷を落とされているらしいから、家では大人しいYO!


 調子が出てきたので、次は烈風(レップー)♪ 特攻(トッコー)♪

 風の使い手だ。四天王の特攻隊長だぜ!


 独身で家事もするけど、干してある洗濯物を風で飛ばしちゃうらしくて、拾いに行ってる姿を見掛けるYO!


 さあ、最後は凍結(トーケツ)♪ 暴走(ボーソー)♪

 氷の使い手だ。すべてを凍らせるぜ!


 でも、ホントは足元の氷で滑って止まれないから、爆走しているフリをしているのは秘密だYO!


「まあ、全部私の妄想だけどね☆」


 ふぅ〜、すっきりした!――彼らが勇者に負けた所為せいで私が閉じ込められているのだから、これ位の仕返しはいいだろう。


 いつものように、無人である【無限書庫】へ私の声だけがむなしく響き渡る――そのハズだった。パチパチパチパチ、と拍手の音が聞こえる。

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