第8話 秋茄子は嫁に食わすな(2)


 北方のグラキエス領の魔族は、土地に流れる魔力の関係からか――白や灰色グレーなど――色素の薄い種族が目立つ。


 南方のイグニス領は――赤や褐色かっしょくなど――色素が濃い種族が多かった。

 最初にお店に入った時は『店員かな?』と思ったのだが、そうではないらしい。


 彼女は錬金術師で祖父の代に、この街へと移り住んできたそうだ。

 恐らく、魔石や鉱石の関係だろう。


 その土地の魔力によって、採取できる魔石や鉱石は異なる。

 イグニス領においては火の魔石や熱に強い鉱石が採れた。


 当然、加工には強い炎が必要だ。火に耐性のある種族はイグニス領に多いため、熱を使った加工においては自然と競争がきびしくなるのだろう。


 競争相手の少ないグラキエス領へ移り住んだ――と考えるのなら合点が行く。

 人間たちにとっては、魔石はエネルギーのようだ。


 だが、魔力を持つ魔族にとっては装飾品としての価値の方が高い。

 職人の少ないグラキエス領へ移り住むのも納得が出来る。


 どうやら、彼女は火竜サラマンドラ族のようだ。

 年齢も私と同じくらいだろう。


 名前を『シュリー』といった。緊張しているようで動きがかたい。私に近しい人たちは気さくに話し掛けてくるので、ちょっと新鮮な感覚だったりもする。


「そう緊張しなくても大丈夫よ」


 と言ってはみるモノの、それで緊張が解ければ苦労はしない。

 こういう時は世間話をしよう。


「シュリーは暑さに強い種族なのよね?」


 私の台詞セリフに彼女はコクリとうなずいた後、慌てて首を振り、


「は、はひっ!」


 と返事をする。これは手強そうだ。

 一旦、出直した方がいいかもしれない。


 若い職人に機会を作りたいから『素直でヤル気のある職人がいる工房を紹介して欲しい』と顔役に頼んだのだが、想定していたよりも子供だった。


 聞けば祖父が亡くなり、工房を引き継いだばかりだという。

 イルルゥよりは上だが、どう見ても私たちより年下だ。


(まあ、年が近い方が話しやすくはあるのだれど……)


 選手交代した方がいいだろうか? 私がシグリダへ視線を向けると、


「はい、わたしは寒さに強いですぅ♪ 好物はニンジンです」


 雪の下で育ったニンジンは甘いのです!――と余計な知識を披露ひろうする。

 私の影響なのだろう。随分ずいぶんと得意気だ。


「あ、あたしは寒いのは苦手で――」


 とシュリー。一歩前進といった所だ。

 このまま、魔道具の話へ持っていきたいのだが、


「エレナ様、暑い時はやはり、冷たい食べ物ですか?」


 シグリダは私に話を振る。仕方がないので答えて進ぜよう。


「冷たい物ばかり食べていても、胃腸の調子が狂うわよ」


 やはり、私のオススメはナスである。

 秋ナスが美味おいしい――と言われているが、カリウムが豊富で夏バテ対策にもなるのだ。


 また、身体を冷やす作用があって、内側から余分な熱をしずめてくれる。

 夏に起こりがちな不調にぴったりの夏野菜だ。


 真夏の太陽の光を浴びて、旨味をたくわえたナスは最高である。

 だが、ここはえて『白ナス』をそう。


 その名の通り、真っ白なナス。

 採れたてを生でかじると、皮が柔らかく、えぐみが少なくいことにおどろくだろう。


 口に皮が残らず、旨味も強い。

 メロンがそうであるように、生ハムとの相性も良さそうだ。


 生ハムの塩気とナスの甘みがお互いを引き立て合う。

 しかし、ナスは油とも相性のいい食材だ。


 羊肉といためたナスというのも、なかなかに美味おいしそうである。

 酒蒸しや焼きナスにして、バター醤油やポン酢というのもありだ。


 勿論もちろん、王道の『天麩羅てんぷら』にしてもいいだろう。

 だが、ここは味噌だ。


 開発に成功したあかつきには『油味噌炒め』をいつかご馳走したいモノである。

 そんな私の話が終わると同時に、


「エレナ様」


 とイサベラ。何故なぜうらめしそうな表情で私を見詰めている。

 周囲を見回すと、他の皆も同様だ。


 きゅ~♪と可愛らしい音が聞こえた。

 けれど、犯人探しはしない。


 どうやら、魔道具開発の話よりも先に、食事を作った方が良さそうだ。

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