第6話 薬草として栽培されていた(2)


「ゴメンなさい。今度、餃子ギョウザパーティーに招待するね」


 と私は謝った。菜花を使った餃子もいいが、キャベツ餃子も捨てがたい。

 実は料理長と相談して近々、餃子パーティーを計画していた。


「ぜんぜん反省していませんね」


 アルテミシアは再度、溜息をく。


「大丈夫よ、餃子だけじゃなく、キャベツ焼きそばも考えてあるから!」


 切り干し大根を使った焼きそばがあると聞く。

 美味しいらしいので、ためしてみようと思っていた所だ。


 やはり、キャベツは万能である。


「エレナ様、そろそろ本題の方に……」


 アルテミシア様が困っております――とイサベラに耳打ちをされた。

 おっと、いけない! いつものクセで、つい話を脱線させてしまったようだ。


 私の考えは単純である。

 魔迷宮ダンジョンを利用して『食糧問題を解決できないか?』というモノだ。


 魔力の多い魔王領には、魔迷宮ダンジョンがよく出現した。

 放って置くと魔物が出現し、周辺に毒の沼や濃霧が発生することもある。


 通常は迷惑な代物でしかない。

 だが、それを『産業に活かせないか?』というのが、私の考えだ。


 恐らくは、陛下も同じようなことを考えているのだろう。私が把握している歴史によると、魔迷宮ダンジョンに対して、先代の魔王様たちは魔石や鉱石などの発掘のみに着目していた。


 後は『天然の砦』としてや『居住区』などとして使われていることがほとんどだ。

 戦が終わった今――他に活用方法はないのか?――と考えるのは普通の流れだろう。


 そこで魔石や鉱石ではなく、『土』そのモノに着目してみたワケだ。

 食糧問題と併せて考えれば、その利用方法は一つだろう。


 農業である。

 まずは魔迷宮ダンジョン内で、キノコやモヤシを栽培してみるのが良さそうだ。


 魔力を豊富に含んでいるので『堆肥たいひのように使えないか?』という実験をお願いしてみる。


 日光で土を殺菌した後、いくつかの畑にいてみて、植物の成長を比べてみればいいだろう。


 もしくは採掘してもらった魔迷宮ダンジョンの階層毎に分けてプランターを作り、より適した土を探し出す。


 これにより、生産の効率を上げることが出来るハズだ。

 勿論もちろん、今まで作れなかった作物を育てることも可能になるかもしれない。


 また、魔迷宮ダンジョン内へ地下農場を作る計画を進めることも出来る。

 薬草となる葉物野菜の生産を視野に入れても良さそうだ。


 上手くいけば、ブランド化も夢ではない。

 世はまさに魔迷宮ダンジョン農業時代の始まりだ。


 ただ、そのためには人材の育成――つまりは研究機関――が必要になる。


「軌道に乗せるのは難しそうね……」


 当面は安定した生産に重点を置きましょう――そんな私の言葉にアルテミシアは色々と考え込んでいるようで、


「『イルルゥ』、こちらに来なさい」


 と彼女は妹の名前を呼んだ。


「はい、お姉様」


 イルルゥと一緒にシグリダも駆けってくる。


「エレナ様、どうか妹を側仕そばづかえ――いえ、秘書官としてそばに置いて頂けないでしょうか?」


 とアルテミシア。その表情は真面目だ。

 お願いしにきたのはこちらなのだが、何故なぜかお願いされる立場になってしまった。


 イルルゥも突然のことに戸惑っている。

 私はイサベラを見たが『どうぞ、お好きに』という態度で澄ましていた。


(また、勝手な事をして陛下に怒られないだろうか?)


 そんなことをイサベラに耳打ちすると、


「すでに色々とらかしていますので、手遅れです」


 と返されてしまった。ガーン!といった心境である。

 まあ、手遅れなら仕方がない。


 政治的側面に対して、補佐役がいるのは有難いともいえる。

 シグリダは一生懸命だが、まだまだ半人前だ。


 イサベラは補佐というより、私の護衛としての役割の方が『重要だ』と考えているのだろう。反対する様子は見受けられなかった。


 確かに今後は樹花族ドリュアスと話し合う機会も増えるだろう。

 彼女をそばに置いておく利点メリットは十分にあった。


「いいわよ、イルルゥ。よろしくね!」


 と挨拶あいさつをすると、


「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします」


 そう言って、勢いよく彼女はお辞儀をした。

 仲良くなったのか、シグリダは嬉しそうにしている。


 一方で提案したアルテミシアは、


「いいですか、イルルゥ」


 と妹になにやら言い聞かせている。


「エレナ様の発想は奇抜です。例え、おろかしいと思ったことでも……」


 一言一句、わたしへ知らせるのです!――と妹の両肩に手を乗せた。

 なんだろう? 諜報員スパイを送り込まれた気分だ。

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