第29話 九里四里うまい十三里(2)


「問題は『骸骨兵スケルトンに仕事をうばわれる』と心配している魔族たちよね」


 と言って、今度は私が溜息をく。

 あちら立てれば、こちらが立たぬ。


 現状は農業など、限定的な運用だけを行うことで様子を見よう。

 結局は最初の案に戻ってくるワケだ。


 そう、魔道具の開発である。

 魔石さえあれば、誰でもあつかえる魔道具。


 開発に成功すれば、魔法の適性に関係なく、あらゆる魔族が農業や土木工事に従事することが出来る。


 そうなれば、今の状況が変わるだろう。基本的に林業や鉱業に従事した方がお金になるので、魔王国では、この辺の技術が発展していなかったらしい。


 魔力至上主義のため、強い魔力を持つ魔族の意見が尊重そんちょうされていた。

 魔力の低い、立場の弱い者たちは苦労してきたのだろう。


 ここ――元グラキエス領――は魔王領内でも北に位置し、寒さのきびしい土地だ。

 無理をして『畑を開拓しよう』と考える魔族も少なかった。


 父上を筆頭に、歴代の四天王も武闘派だったのだろう。

 まだ封建社会の考え方も根強い。人間の国では『農奴制』というモノが存在する。


 そのため、大陸では農業に対して、あまり印象イメージが良くなかった。力ある魔族が協力してくれると早いのだが、矜持プライドゆえに率先して農業へ従事することもない。


 ゆえに、魔法が使える魔王国では農業に対する知識や経験がとぼしく、樹花族ドリュアスなど、植物にゆかりのある魔族に頼りきりになっていた。


 強力な魔法を使える存在が一人居れば、土地を切り開くことも可能なので『先祖代々の土地』という考え方も浸透しにくいようだ。


(これは教育が必要よね……)


 どうやら、学校教育というモノを強化した方が良さそうだ。

 子供たちに魔法を教える施設はあるので、魔法学校の設立を視野に入れたい。


「ホント、いもづる式に問題が出てくるわよね……」


 農業だけに――という私の冗談に対して、陛下の受けはいまいちのようだった。


「そうそう、おいもといえば、やっぱり秋の味覚よね!」


 いい事を思いついたわ♡――そんな表情で手を合わせる私。

 陛下は『またか』という顔をする。


 確かにサツマイモは低温に弱い。

 この土地で育てるのはむずかしかった。


 陛下の言いたい事は理解できる。

 けれど、私は気にせずに言葉をつむぐ――


 ほくほく甘〜いサツマイモ♪ ほろほろ優しい秋の味覚♪

 女性や子供には人気よね。


 魔王領で採れるサツマイモは魔力が影響している所為せいか、なめらかで、ねっとりとした触感が持ち味なの!


 魔力量を調整すれば、絹のように滑らかな食感になるかも!

 基本は『焼き芋』だけど、ここはえて『かき揚げ』をオススメするね。


 細長く切ったサツマイモに、タコやエビなんかの魚介類を合わせて、一緒に揚げるの♡ 不思議なことに芋と合わせることで、うまみが増すみたい。


 錬金術師さんたちには、味噌の研究もしてもらっているから、今年の秋には豚汁を作れるかもしれないわ!


 本来はジャガイモを使うのだけれど、サイツマイモを入れてみるのも、いいかもしれないわね♪ でも待って! 商品展開を考えた場合、コロッケも捨てがたい。


 パン粉をつけて、しっかりと揚げたコロッケもいいけれど――


「衣には、こまかく切った四角いサツマイモを使うのはどうかしら? あっ! 会食があるから、サツマイモのスイーツを考える方が先かも⁉」


 どうしましょう!――とあわてる私に対して、


「カレーはいいのか?」


 と陛下。ますます困惑する私を見て、楽しそうに笑うのだった。ちょっとひどいと思いつつも、彼の笑顔を見ることが出来て『嬉しい』と思う自分もいる。


「もう、陛下っ!」


 そう言って、私は頬をふくらませた。そんな芝居がかった私の表情を見て、


「悪かった」


 陛下は素直に謝る。少しを置き、真面目まじめな顔に切り替えると彼は、


『求賢令』きゅうけんれいを出そうと思う」


 そう告げた。以前もそんな話をしていた気がする。

 『たださいのみをげよ』というヤツだ。


 【無限書庫】にあった物語の一つ。私はそれを陛下に語ったことがある。

 ただ才のみ、れを挙げよ――という命令を発した王の話。


 でも『そう簡単には行かなかった』と記録にはあった。

 辞令を受けた部下が、王の考えをみ取れなかったようだ。


 品行方正で、そこそこの才能がある人材が集まってしまった。

 結局、その王様は『求賢令』を何度なんども出す事となる。


 果たして、陛下の望む人材とは、どのような人物なのだろう?

 魔王国内に、そのような人物がいるのかも疑問だ。


 正直、不安はあるけれど『面白そうだ!』と思う自分もいる。

 きっと陛下となら、この気持ちを何度なんどだって味わえるのだろう。


 ――世界を滅ぼすという勇者は、まだ誕生してはいない。


 でも、それは勇者を兵器として使った人間がまねいた結果だ。

 恐らくは、勇者が根本的な原因ではない。


 陛下は滅びを招いた原因が――人々の心にある――そう考えているようだ。

 どうやら、私と陛下の革命はここから始まるらしい。


 きっと、この物語の結末を決めるのは、人々の心の在り方なのだろう。

 だったら、私に出来ることは決まっている。


 世界が救済されるその日まで、人々の心をつなぐのだ。

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