第4話 初物を食べると75日寿命が延びる(2)


 今までは人間の共通の敵として、魔王国が存在していた。

 表面上だけでも聖王国と帝国は協力関係にあったといえる。


 だが、魔王国との戦いに聖王国が勝利した今、人間の国同士の争いに発展しつつあるようだ。いや、それ以前から問題はくすぶっていた。


 勇者による魔王様への強襲も、帝国との関係がくずれていた事が理由だったらしい。

 帝国が戦争の動きを見せていた事に起因する。


 すでに魔法は、人間たちにとって脅威ではなくなっていたようだ。

 それが人間の国同士で争う要因の一つといえる。


 事の始まりは帝国だ。

 魔王国を討ち滅ぼすため『聖王国へ兵士を派遣する』と申し出た。


 だが、それは聖王国の領地に帝国軍を入れることを意味する。

 当然、聖王国としては、国内に帝国軍を滞在させるワケにはいかない。


 そんな理由から、勇者による魔王様襲撃が計画された。

 遅かれ早かれ、魔王国は聖王国、帝国のいずれから襲撃を受けていた事になる。


 聖王国は魔王領の現状を考慮し、帝国との戦による兵士の派遣を免除した。

 これにはまだ『魔族が信用されていない』という背景もあるのだろう。


 魔族側としても、その辺はまだ割り切れてはいない。

 そのため、お互いに都合が良かった。


 だが同時に、それは聖王国にとって『魔王領への支援は一切しない』という事を意味する。


 魔王領の現状における生産能力だけでは、民へ十分な食料を行き渡らせることは出来ない。本来は他国から買い付けるべき案件でもあった。


 しかし、聖王国と帝国の国力の差を知っている商人たちは、こちらの足元を見て、値段を吊り上げているらしい。


 今すぐに――というワケではないが、このままではいずれ魔王領内でも暴動が起こる可能性がある。急ぎ具体的な手立てを講じる必要があった。


 だが、今の陛下が統治できているのは旧魔王国グラキエス領だけである。

 四天王の一角であった私の父が治めていた土地のみだ。


 まだまだ完全な統治にはいたっていない。

 早く旧魔王国グラキエス領を安定させ、他の地も統治する必要があった。


 そのためにも、食糧問題の解決が急務である。


「なるほど! そこでタケノコなんですね♪」


 とシグリダ。暢気のんき微笑ほほえんでいる。

 もしかして、タケノコ掘りで食料問題が解決するとでも思っているのだろうか?


「いえ、違うけど」


 そんな私の返しに「えーっ!」と彼女は衝撃ショックを受けているようだ。

 たかが山菜を採った程度で、食料問題が解決するワケがない。


 私の狙いは他にある。だが、今は――


「さあ、タケノコ掘りの時間よ!」


 クワを振り上げ、声を上げる。

 そんな私の言葉に――オオーッ!――と呼応する採掘犬コボルト主婦軍団レディース


 ノリがいいのか、気合も十分なようだ。


「まずはお弁当のおかずの確保ね☆」


 私の台詞セリフに、


「ほ、ほえ~っ⁉」


 とワケも分からず、間抜けな声を上げるシグリダ。雨後のタケノコ。

 今日みたくうららかな春の陽気の朝は、絶好のタケノコ掘り日和である。


 地中から掘り出したタケノコは皮が白くて、甘みが強い。

 アク抜きをしなくても、生でそのまま刺身さしみにすることも出来る。


 採掘犬コボルト主婦軍団レディースから相談されたのは、旦那たちのお弁当に入れる『おかずについて』である。乳酸菌飲料についてではない。


 基本は煮物だろう。途中で山菜も採って、一緒に調理すればいい。

 根菜との相性もいいハズだ。


 また、天ぷらにすることで、おやつ感覚で食べることも出来る。

 大人だけではなく、子供たちにも好評なハズだ。


 だがやはり、採掘犬コボルトには肉巻きだろう。

 豚肉を巻いて焼き、甘辛いタレで仕上げる。


 それだけで、後引く美味おいしさに変化するのだ。

 歯応はごたえもいいため『食べている』という感じがする。


 極め付けはタケノコをたっぷり入れた出汁で炊く、炊き込みご飯だ。

 鶏肉との相性もいいと聞く。


 しかし、残念ながら、お米が無いので作ることは出来ない。

 私の話に興味を示す採掘犬コボルト主婦軍団レディース


 シグリダも、だらしなく口を半開きにしている。

 陛下と違って新鮮な反応だ。


 気を良くした私は皆を連れ立って、竹林へと向かうのだった。

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