第19話 美容にオススメ?でも食べ過ぎは危険!(2)


 まずは魔王国を立て直しつつ、聖王国を支援して、帝国の侵攻を遅らせる。

 その流れを作らなくてはいけない。


 同時に諜報員スパイや工作員を聖王国へ送り込むのだ。

 聖王教の武器は信者の数であり、その情報網にある。


 脅威であると同時に情報が集まる聖王国は、魔王国にとっても『利用価値が高い』といえた。だが、それを行うには旧グラキエス領だけでは難しい。


 他の魔王領の領主たちを仲間に引き入れる必要がある。四天王が健在であったのなら、面識のある私が直接交渉できるのだが、勇者との戦いで命を落としてしまった。


 陛下は『勇者にはまだ自我があり、命を奪うまではしないハズだ』と見ている。

 勇者が直接、魔王様を狙えたことにも違和感がある様子だった。


 魔王の配下の中に裏切り者がいる――と考えているのだろう。

 口にはしないが、その件も併せて調査を進めているようだ。


 勇者に敗れた四天王。その四天王にとどめを刺した人物がいる。

 魔王様と、その四天王が無くなって得をする存在。


 陛下がそうであったように、私と婚姻することで理論上は魔王国を手に入れることが可能だ。


 もしかすると父上は、その存在に気付いていて、私を【無限書庫】へ閉じ込めたのかもしれない。


(つまり、次に裏切り者が狙っているのは私か陛下?)


「ごめんなさい」


 と私は謝ると同時に、


「やっぱり、イサベラがいてくれると助かるわ♡」


 両手を合わせ、ニコニコと微笑ほほえむ。

 イサベラは「仕方のない人ですね」そんな視線を私へと向けた。


 どうやら、魔道具計画は見送らなければならないようだ。

 それは別として、


「ねぇ、これって『ドライヤー』?」


 私はシュリーへと質問する。髪を乾かすための必需品だ。

 風の魔法が使えると必要ないのかもしれないが、冬などは寒い。


 温風が出る魔道具は、さぞかし重宝されるだろう。


「はい、温風が出るモノは既に商品化されているのですが、これは髪を乾かすためのモノで試作段階です」


 とシュリーは説明してくれる。仕組みとしては『コンロ』とあまり変わらない。

 加工した魔鉱石を火の魔石で温め、風の魔石を使って熱を送る。


「アイロン型やブラシ型も作れそうね♪」


 活性や治癒の魔石を組み込んで、スキンケアの効果を追加するのはどうかしら?

 防御魔法を使って、うるおいをキープする方法もあるかもしれないわ。


 適度に魔力を回復する機能を付ければ、キューティクルを守ることが出来そうね。

 料理の時と一緒で、つい私は色々と語ってしまった。誤魔化す意味も込め、


「ほら、魔力の高い魔族は身体能力にも影響が出るでしょ? だから、魔力を補充する機能を付ければ――」


 そんな事を言い掛けた私の手を――シュリーはガッチリと――両手でつかむ。

 意外なことに力は強いようだ。


流石さすがです、エレナ様!」


 とイルルゥが急いでメモを取っている。

 確かに『魔力を込めた風を送る』というのは、農業にも応用できそうだ。


 ドライヤーの他にもスチーマーや超音波を使った美顔器があった。

 錬金術師なので化粧品なども、あつかっているのかもしれない。


 ただ、女性は地位が低いため――美容に興味があっても――お金を自由に使えないのが欠点だろう。


「だったら、お金じゃなくて魔力をもらえばいいのかも――」


 なにやら商売のニオイがしてきた。

 農業もそうだったが潤沢じゅんたくな魔力があれば、色々と出来ることが増える。


「綺麗になりたいのですか?」


 とシグリダ。いまいち状況が飲み込めていないようだが、それ程ズレた質問でもない。いつものスイッチが入る。


「そうね、美容の話ね。美容にいい食品も併せて売ればいいのかも――」


 なら『サーモン』かな? 魚なので加工もしやすい。

 高カロリーできびしい食糧事情にも、エネルギー源としては合っていそうだ。


 魔王国でも育てやすいタマネギとキャベツ。一緒に煮込めば、野菜の甘みがサーモンの旨味と融合し、身も心も温めてくれるだろう。


 炭火で焼いたサーモンにプチプチとした食感が楽しいイクラ。シンプルだからこそ、サーモンの味わいを最大限に引き出して――いや、今回はそこじゃない!


 サーモンを食べることで、身体からだを作るのに必要なタンパク質をることが出来る。

 それに抗酸化作用や血管年齢を若く保つ栄養素も含まれていた。


 同時に肌にとっても嬉しい食材だ。サーモンの皮にはコラーゲンやビタミンB2が多く含まれていて、肌荒れも防いでくれる。


 栄養もあって美味しいとは、まさに美肌のための食品。また、サーモンに含まれる栄養素は大人だけではなく、成長期の子供にとっても必要なモノばかりだ。


 ビタミンDやビタミンB群が豊富で、疲労改善や運動能力の維持に効果的なアンセリンも含まれている。


「別の意味で食べたくなるような事を言うのはめてください」


 とイサベラに注意されてしまった。同時に、


「シグリダ、料理長へ今夜はサーモンを出すように連絡を!」


 そんな指示を出す。ビシッ!――と敬礼し、


「分かったのです☆」


 とシグリダは居なくなってしまった。

 まだ若いのに、肌でも気になるのだろうか? まあいい。


 きっと誰かがイサベラに心労を掛けているのかもしれない。

 疲労回復にも効果があるので、食べ過ぎなければ問題ないだろう。


 部下のモチベーションを保つのも、大事なことである。

 取りえず、魔道具開発の計画は見直した方が良さそうだ。


「よし! 一旦、農耕用の魔道具の開発は中止ね☆」


 私は人差し指を立て、言い放った。

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