第十二話 襲撃の犯人はだれ?

 昨日の魔法の検証は良かった。


 現実になった魔法と、MFOとこの世界の違い、仮説を立てて実験し考察する。もう最高!


「おはようございます、マーリン様。ずいぶんご機嫌が良さそうですね」


「ああセレナさん、おはようございます。昨日の魔法の検証のことを思い出していまして……、ちょっと恥ずかしいですね」


「ふふっ、私も学生のときを思い出して楽しかったです」


 学生か。そういえばこの世界の教育機関がどうなっているのか知らないな。仮想現実の教室に集まって、ネット授業でもしているんだろうか。


「貴族の子弟は、首都惑星ターブラに集まって教育を受けるのです」


「光速通信技術があるのに、わざわざ集まるんですか?」


「はい。その理由も教わるのですが、代役を立てて不正に授業を受けなかった貴族がおりまして、その結果コロニーのひとつが帝国に対して暴動を起こしました」


 簡単に言っているが、コロニーには大国の1つや2つに相当する人口がある。それが反旗を翻したとなると、かなりの損失だったろう。


「確実に教育を行うには、実際に集まるのが一番簡単ですからね」


「なるほど。そういえば、リリーナ様がターブラにいたのも教育のためですか?」


「ええ、そうです。12歳から6年間学ぶ基礎教育課程の5年目で、今ターブラを離れているのは期末休暇ですね」


 この世界には四季がない。いや正確に言えば、惑星ごとに季節はある。しかし、統一した季節として春夏秋冬などを割り当ててしまえば、この惑星は夏なのに雪降ってるとか、こっちの惑星は冬なのに収穫期とか、いろいろと面倒くさくなる。


 なので、情緒の欠片もないことだが、一年を四等分して第一期から第四期と呼んでいる。ちなみに今は第二期の期末。


「マーリン様の国ではどのような教育が行われていたのですか?」


 これは少々自慢になるのだが、MFOでのマーガリン魔法大国は、魔法大国という名に恥じないほど魔法教育に力を入れていた。


 悪い意味で閉鎖的だった徒弟制度を解体し、熟練度別に基礎、応用、先進教育課程を作り、広く国民に魔法を教育していった。その原動力となったのは、まだ見ぬ魔法が知りたい、研究したい、というのは秘密だ。


 転生するとき神様に褒められたし、神様的にも良いことだったんだろう。


「魔法の教育機関ですか。この世界で再現することはできないのですか?」


「これがなかなか難しいです。これは初歩の初歩なのですが……、セレナさん、私の右手に魔力を集めていますが、感じとれますか?」


「え、魔力、ですか? ……いいえ、感じ取れません。予想がつきました。魔力を感じ取れないと、そもそも教育できるモノがないということですね」


「そういうことです」


 これが大問題だった。


 MFOでは魔力を感じ取る技能――あたり前すぎて技能とも呼べない――は誰でも持っていた。なので教育ができたわけだ。


 一方この世界の人たちは、魔力を感じ取る技能がない。少なくとも、これまで会ったことのある人には、魔力を感じ取れる人はいなかった。


 これで魔法の教育といっても、それは単なる妄想とそれほど違いはないだろう。


「なんとかできないかと、いろいろ考えてはいるんですが……、良い方法はまだですね」


「簡単にはいかないのですね。あっ、そろそろ朝食の時間です」


 セレナさんと話しているうちにいい時間になったので朝食へ。アクリティオ様も一緒だ。夕食は時間があわなかったので、昨日の朝食ぶりだな。


――――――

――――

――


 食事はなごやかに終了し、アクリティオ様から話があるということで、そのままサロンへ移動した。俺もアクリティオ様に渡したいものがあったので、ちょうど良かったな。


「先にマーリン殿の用件から聞こうか。何か渡したいものがあるとか?」


「ええ。アクリティオ様とリリーナ様に」


「私も?」


 そうして俺が取り出したのは、2つの指輪。1つは武骨な銀の指輪で、もう1つは小さなサファイアがついた細身の銀の指輪だ。どちらがリリーナ様用なのかは言わなくてもわかるよな。


「これは魔法防御の効果を付与した指輪です」


 効果はどちらも、【魔法防御力 +200】で、昨夜試しに変化魔法で作ったものだ。この世界ではまだ試していなかったから、確認の意味も込めてな。


 試して分かったのだが、MFOの頃より格段に自由度が上がっている。画一的な指輪しか作れなかった魔法は、自由な形状に宝石なんかも付けられた。その分MPはとられたけど。


 いきなり自由度が上がって少々面食らったが、急ごしらえにしてはまあまあな出来栄えになった。


「ほう。魔法防御力か」


「ええ。これ1つで、私がいた世界での一般的な大人程度の魔法防御力があります」


「報告は聞いていたが、魔法への対策ということかな?」


「はい。量産はできないので、一時的なものとなりますが」


「おお! 指にはめた途端、自動でサイズが調整されたぞ!」


「魔法の装備ですので」


 これは地味にフレーバーテキストに書かれていた。作った装備が、誰でもぴったり装備できることへの理由付けだな。


「これは面白い。なんの機械的ギミックもないのに、どの指にも合うぞ」


 スポスポと、付けては外し付けては外しで楽しそうだ。万が一またデバフ魔法をかけられても、これで安心だな。


「マーリン殿、ありがとう。恥を忍んでお願いしたいのだが、同じものをもう2つ用意してもらえないだろうか」


「2つ程度でしたら大丈夫ですよ」


「ありがとう。私には兄がいてな、あと1つは、妻にだ」


 なるほどな。リリーナ様以外の家族も狙われる可能性があるし、奥さんをのけ者にするのは賢い選択ではない。


 奥様用に、デザインを変更するか聞いたが、それは別にいいとのこと。


「私に劣らず珍しいものに目がなくてな、デザインの変更だけで何日かかることやら……、いや何週間か?」


 と不穏な言葉をつぶやいていたので、アクリティオ様とお揃い――便利な言葉だ!――にしておいた。代わりにアクリティオ様の兄用の方のデザインを少し細身に変えておいた。


 ところで、先ほどからリリーナ様が指輪を凝視して固まっている。何かあったのだろうか?


「リリーナ様? 何か問題がありましたか?」


「いえ、マーリン様。お嬢様はこのままで問題ありません」


「マリーさん。そうは言っても様子が――」


「大丈夫ですので」


 マリーさんに断言されてしまった。指輪に何か問題があったらあとで言ってもらおう。この世界特有の慣習があるのかもしれないし、深く突っ込んで聞くのもためらわれる。


 俺の用件は済んだので、次はアクリティオ様のお話だ。


「襲撃の犯人がサイオンジ星系にいる、ですか?」


「正確には、サイオンジ星系からAIに命令が送信されていた」


 灯台下暗し、というのだろうか。リリーナ様を狙った襲撃は、サイオンジ星系からの可能性が高い。


 俺が回収した【AIコア】は、自壊などせずほぼ完ぺきな状態だった。一部、時刻や襲撃のタイミングなどの整合性が取れなかったとのことだが、これは予想がつく。インベントリの時間停止機能だ。


 神様パワーで実装されたインベントリのチート具合が良くわかるな。


「詳しい送信元はわからないのですか?」


「いや。送信といっても、探知を恐れて物理的接触によって命令が与えられている。通信より足が付きにくい。襲撃犯はよほど慎重らしい」


 広い宇宙で、ピンポイントで接触している場面に遭遇するのは不可能に近い。主要な地点は監視しているとはいえ、そこを外れてしまえばな。


 ただし、監視エリアは一般には公開されていない。また、監視エリアは流動的に変化する。


「アンチフィールドジャマーの使用も考えれば、相当上の者が関与しているだろう」


 ここで少し騎士団の組織について触れると、まず、すべてを統括する【総隊】というものがある。その下に、サイオンジ星系の各惑星をまとめる【惑星隊】があり、さらに【方面隊】へと分けられる。


 方面隊にはいくつかの師団が所属し、この師団の長は、アンチフィールドジャマーの使用を許可する立場にある。


 師団長の権限の強さを貴族的に表現すると、侯爵と同等以上で一部では公爵に迫る、といった感じ。


 サイオンジ公爵家の足元に迫っていると言っても過言ではない。


「慎重なようだから、まずはジャマーを使ってまで行った襲撃の後始末に拘泥するだろう。その間に、尻尾を掴んでおくさ」


 そう言って笑うアクリティオ様のちょいワル顔は、リリーナ様にそっくりだ。

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