第五十三話 魔力考察

「魔力は次元を超える、ですか?」


 学園見学を終え、しばらくはマナちゃんを魔法研究所のみんなで教育しようという方針が決まってから数日。カエデとタティアナさんから魔力についてのレポートが発表された。


「そう! 重力と同じです! でも違いもあります!」


 立ち上がったカエデにみんなの視線が集まった。初めてのレポートに、できるだけ参加を呼び掛けたところ、幸運にも全員が参加できている。


「理論的には、世界は11次元である、と考えられていました」


 タティアナさんの静かな声に、うんうん、とうなずく俺以外の参加者。ちなみにマナちゃんもうなずいている。


「マーリン君から提供のあったドラゴンのうろこ。これには別次元からの魔力が干渉していました。繋がっている、と言い換えてもいいでしょう」


「その繋がっている先、これを『アストラル界』と命名しました!」


 カエデ係のエミリさんがカエデを持ち上げた。


 アストラル界か……、くやしいがかっこいい! MFOの世界でもそういった考察はあった。確認する方法はなかったけどな。


「そのアストラル界というのは、具体的にどういった特徴があるの?」


「良い質問です、リリーナ様!」


「直接観測はできていません。ですので、この三次元空間との相互作用から推測したものになります」


 最初に調査されたのは変幻魔法だ。変幻魔法は、三次元上の物体に魔法で干渉し、何らかの作用を引き起こす。カエデが興奮しまくっていた、石を変形させるストーンフォームの魔法とかな。


 普通に考えて、石を機械的に変形させると割れる。ところが魔法で変形させると、割れることなく変形させることができる。原子単位でその変形過程を追跡すると、ストーンフォームによる変形は、『変形』というより、元からその形であった石に『変化』しているという方が適切だという結論に至った。


「したがって魔法というのは、アストラル界に干渉し、その結果が三次元空間上に表出するのだと考えられます」


「例えばストーンフォームなら、アストラル界の石が変形すると三次元空間上の石も変形するってことですね! この三次元空間上の物体に対応するアストラル界上の物体を『アストラル体』と呼称します!」


 アストラル体! またかっこいい名前がでてきたな。魔法をぶっぱなしまくるMFOなんてゲームをやってたくらいだから、俺もこういうネーミングは大好きさ。


「どちらが虚でどちらが実かはおいておくとして、アストラル界と我々の知覚できる三次元空間は重なり合っていると思われます」


「オカルトのような話になってきたわね」


「少し前までは魔法なんてオカルトでしたからね! もう何があっても驚きません!」


「そうね。他には何かある?」


「魔力自体との相互作用もあると考えています。以前から報告のあった、魔力の増加に伴う身体能力の向上の件です」


 学園見学のときにも話題に上がった、リリーナ様がつい癖でボコっちゃったやつだな。向上した身体能力を活かすために訓練はしていたんだが、研究所外の人との能力差を見誤ってしまった。


「魔法はアストラル界に影響を与えますが、人の持つ魔力自体も同様です。あるいは、魔力は人のアストラル体が持つ性質の一部とも考えられます」


「つまり、アストラル体が魔力で強化されて、その結果三次元空間の体も強化されるってことですね!」


「マーリンの馬鹿げた力は、ありえないほどの魔力の影響ってことかしら?」


 いや、それはどうだろう。俺の体は神様特性ボディだから、そのまま他の人に当てはまるかは疑問だ。


「フィーネ君の話だと、マーリン君は精霊にも近しい存在とのことです。マーリン君はマーリン君だと思っておいた方がいいかと」


「どうして皆でこちらを見るんです?」


「……そうね。マーリンだものね」


 おい。


「マーリン君はおいておいて。魔力とアストラル界が相互作用を起こす、と考えるもう一つの要因は、マーリン君の装備である機械翼です」


 部屋の中央に、以前俺の装備を確認した際の動画が投影された。杖術特化装備で、背中には補助腕にも変形する機械翼がある。


「マーリン君は自在に動かせますが、私たちには無理でした!」


 ゲームであったMFOでは、魔法の熟練度不足として表現されていた。熟練度が足りないため、機械翼を装備しても活用はできない。けれど、現実的に考えてそれは何を意味するのか?


「そのポイントとなるのが、魔力制御です! そしてこれが、魔力じゃらし!」


 再度エミリさんによって持ち上げられたカエデの手には、猫じゃらしのような物が握られており、先端がぐねぐねと動いている。


 魔力じゃらしとは、魔力とアストラル界との相互作用を利用した、魔力によって動作する猫じゃらしであり、主に小妖精と遊ぶ際に使用される。あと魔力制御の訓練にもなる。


 魔法を使うまでもなく動かせ、逆に魔法を習得していない人(アクリティオ様に試してもらった)では動かせない。よって魔力による相互作用であると考えたわけだ。


「魔力じゃらしでの訓練の結果、シールド魔法の効果の増加が認められました。また、新たな神言である『我』の習得にも成功しています」


 そう、新しい神言だ。ゲームでも魔力制御の熟練度を上げていくことで習得できた。小妖精との激しい訓練を経て、研究所の全員が習得済みである。


「今後の目標は、アストラル界の直接観測ですね! 魔力検知器の性能が上がっていけば、十分可能だと思います!」


「順調そうね。他に報告はあるかしら」


「はい。魔石についても経過を報告します」


 前にサーレ神聖王国からもらってきたやつだな。俺はすっかり存在を忘れていたが、色々と取り組んでいたようだ。


「確か、魔法陣としても利用できるのだったわね」


「そうです! 魔力検知に成功して、いろいろなことがわかりました!」


「魔力量は魔石の大きさに概ね比例し、魔力密度は魔石の種類によって異なるようです。また、魔法陣に使用する場合、なんらかの効果によって魔力の使用に制限がかかります」


「なるほどね。魔力を電気に置き換えたら、バッテリーのようなものだと思えばいいかしら」


「そうです! さらに、使用後の魔石に魔力を充電――、充魔?とにかく再使用できるようになりました!」


 ほう。それはすごい。というか俺の知る限りMFOでは発想すらなかった。魔石が潤沢にあったが故の固定観念だな。


 わざわざ充電するまでもなく、魔石の供給は十分にあった。逆に魔石の再使用が可能になると、需要が減少し、魔物を狩るメリットが薄れてしまう。


 一方この世界では、魔石の供給が著しく少ない可能性が高いため、魔石の再使用は重要だな。


「現在、繰り返し使用回数の試験中ですが、総魔力量、魔力密度ともに変化はみられません」


「それはすごいわね。どこかに限界があるかもしれないし、試験は続けて頂戴」


「わかりました」


 ただし、魔石が再利用できるようになっても問題はまだある。魔石の利用法は魔法陣だけではないからだ。


 魔力源にするだけなら魔石の形は残るが、魔法陣を描くためのインクの材料にすれば目減りしていく。また、魔法の装備を作る際にも消費していく。したがって――、


「魔石の代替品については、もうしばらく魔石の調査が進んでからになります!」


 そう、魔石の代替品の開発だ。


 これもMFOでは研究の進んでいない分野だ。何せそこら中に魔物が居て、魔石があるからな。代替品を探す必要がなかった。


「マーリンは何か思い当たる物はないかしら?」


「そうですねぇ……。魔石にはいろいろな利用法がありますから、これひとつで魔石をすべて代替できる、そんな物はなかなか見つからないのではないでしょうか」


「個別に対応するしかないということね」


「そうなりますね」


 例えば、魔法陣のインクに用いるには、魔力が通れば最低限の機能を発揮できる。魔法の装備を作るには、別に魔石でなくとも、それこそドラゴンのうろこであればより上質な装備になるだろう。まあ俺の持つ在庫以外にドラゴンのうろこがないんだけどな。


「いいわ。今後の方針をまとめましょう」


 一つ、魔法の鍛錬。これは継続だな。

 一つ、魔力検知器の改良。核となる技術だ。

 一つ、魔石の調査及び代替品の開発。調査は継続し、代替品は魔力検知器の進捗次第。

 一つ、新たな神言の習得方法の模索。こっちは考えがある。けれど少し時間がかかる。


「まだまだ始まったばかりだけど、帝国初となる魔法研究、しっかりと進めていくわよ」


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