第九話 え? 私の魔法防御力、低すぎっ!?

 アクリティオ様の寝室を出た俺は、セレナさんに案内されて小さなサロンで緑茶を飲んでいた。


 最初は紅茶を飲んでいたんだが、ふと緑茶が飲みたくなり、聞いてみたらあるというから用意してもらった。種類とか入れ方とかはわからないが、べらぼうにうまい。


 落ち着いたところで考えることは、アクリティオ様にかけられたデバフ魔法がどこからきたかということだ。


 素直に考えるなら、この世界にも魔法が存在したという可能性だろう。アクリティオ様のステータスにMPがあったことから、魔法を使える可能性はある。


 少しひねった考えだと、俺と同じように異世界から来た可能性だ。この場合、魔法を使える存在が来たのか、魔法を使えるようにする存在が来たのかが問題だ。


 前に説明したが、魔法陣というものがある。威力を求めるなら大型になるが、簡単なデバフ魔法の魔法陣ならそこまで大きくはない。


 俺が入っていた棺のような系外文明品は、一般に知られているくらいには存在している。そのひとつが使用できる魔法陣であった可能性はあるだろ。


 どういう理由にせよ、魔法は俺の専売特許ではないということが重要だ。慢心しないように気を付けよう。


 まあそれはそれとして。


「この世界の魔法を研究したいですねー」


「まあ。この世界にも魔法があったのですか?」


「詳細は言えませんが、この世界にもありそうですよ」


「そうなのですね。ということは、私どもにも魔法が使えるのでしょうか?」


 ふーむ。MFOの魔法をこの世界の人たちが使えるかどうか、これも興味深いテーマだな。


 魔法に限らず研究というのは、とかく色々な発想というのが大事だ。十人十色というように、人が多ければそれだけ異なる発想が出てくるというもの。


 俺の手で魔法使いを育てて、一緒に魔法の研究をする。ありだな。


「魔法を使うエネルギーとなるものをMPというんですが、この世界の人たちにもMPがあることは確認できています。つまり魔法が使える可能性があるということですね」


「すごいです! あの、私にもそのMPというものがあるのか、見ていただけますか?」


「ええ、いいですよ」


 以下がセレナさんのステータスだ。


―――――――――――――――

名前:セレナ・ホウジョウ

HP:2,031/2,156 (現在値/最大値)

MP:50/50 (現在値/最大値)

付与効果:なし

―――――――――――――――


「これがステータスなのですね」


「MPという項目がありますから、セレナさんも魔法が使えるかもしれませんね」


 セレナさんにもMPがあった。アクリティオ様と同じく、最大値は50だな。


 50という値は、MFOでキャラメイクするときの初期値と一致する。魔法的な素養を伸ばせばもう少しMPは増えるものだが、この世界の人たちの魔法的素養は初期値なのかもしれない。


「50という数値は少ない方なのですね」


「そうですね。といっても、私がいた世界でもそういった人はいました。その人たちでも問題なく魔法を使っていましたよ」


「さきほどおっしゃっていた、魔法の素養というものを確認する方法はないのですか?」


「ありますよ。このステータス魔法と同じようなものです。ただ、能力などをつまびらかにしますので、許可を得ずに他人に使用するのはマナー違反とされています」


「でしたら、私に使ってみていただけませんか?」


「いいんですか?」


「かまいません。マーリン様のお役にも立てそうですし」


 これはありがたい。サンプル数は多いに越したことがないし、単純にこの世界の人たちのステータスというものも気になる。


 使うのは、ひとつランクが上のステータス魔法だ。これでゲームでよくあるステータス的なものが確認できる。


 そして、セレナさんのステータスがこれだ!


―――――――――――――――

名前:セレナ・ホウジョウ

HP:2,031/2,156 (現在値/最大値)

MP:50/50 (現在値/最大値)

付与効果:なし


筋力:1,979

魔力:5

敏捷:2,248

器用:2,693


物理防御力:1,020

魔法防御力:0

―――――――――――――――


 魔法防御力が……、ゼロ……、だと……!?


「さきほどよりも項目が増えておりますね」


 この衝撃を共有できていない!


 ふう、まずは落ち着くんだ。すーはー、すーはー……、よし。まず新たに増えた項目について説明しよう。


 この魔法で開示できるステータスは、おおざっぱにいうと、パワー(力)・スピード(敏捷)・テクニック(器用)、そして防御力となる。ステータスの最大値はすべて9,999だったが、この世界でもそうかはわからない。


 パワーと防御力には、それぞれ物理的なものと魔法的なものの2種類があり、物理のパワーなら筋力、魔法のパワーなら魔力となる。防御力は表示されている通りだ。


 このステータスの中で魔法的素養を表しているのが魔力だ。思った通り、セレナさんの魔法的素養は初期値である5であった。


 いやこれはいいんだ。低くはあるが予想通りの結果なんだ。


 問題は魔法防御力だ。なんだゼロって。


 MFOの初期装備である『布の服』でさえ、魔法防御力は5あるんだよ? 肉体的な魔法防御力がゼロだったとしても、ゼロはないよゼロは。


「それほどまでに、魔法防御力の数値がゼロというのは珍しいものなのですか?」


「そうですね。私のいた世界では"ありえない"と言っていいでしょう」


「防御力がゼロということは、それだけ魔法の影響を受けやすいということでしょうか」


「ええ。魔法の様々な効果は魔法防御力の影響を受けます。例えばデバフ魔法ですと、効果時間が伸びたり……」


 ん? これって、アクリティオ様にかかっていたデバフ魔法の効果がおかしかった理由になるんじゃないか?


 魔法防御力の1と0にどれだけ差があるか検証したこともない。MFOでは、"裸"になれなかったため、最低の魔法防御力は5だったのだ。


 魔法防御力が文字通りゼロだった場合、魔法が一切軽減されないわけだから、超電導材料に流れる電流のように体内をデバフ魔法がずっとぐるぐるして、効果が永続化したりするのか? ありえるのか?


「マーリン様? どうかされましたか?」


「ああすみません、少し考え込んでしまいました。セレナさんのおかげでこの世界の魔法について理解が深まった気がします」


「まあ。お役に立てましたか」


 やはり誰かと一緒に研究するのは良さそうだ。これは本格的にリリーナ様やアクリティオ様にお願いしてみるか。


「セレナさんは、自分で魔法が使えるとしたら使ってみたいですか?」


「それはもちろんです。魔法というのは空想のものとばかり思っていましたが、こうして現実のものとしてあるなら、ぜひとも使ってみたいですね」


 うんうん。目がきらきらしている。落ち着きのあるセレナさんでこれなのだから、リリーナ様に提案すれば、一発オーケーがもらえるんじゃなかろうか。


 どうやれば魔法が使えるようになるのか考えておくか。


 ――――――

 ――――

 ――


「いいわね。面白そうだわ」


「ふむ。魔法と魔法防御力か。魔法的な脅威は身に染みて理解できた。自衛の一助になるならば、しっかりとした人員と設備を用意しよう。それに面白そうだ」


 面白そう、という意見が2票得られて、俺の提案が受け入れられた。まだどうやって、の部分が未定ではあるが、この世界の人たちに魔法を覚えてもらおう。


 余談だが、後から確認した俺のステータスはこんな感じだった。


―――――――――――――――

名前:マーリン・マーガリン

HP:9,999/9,999 (現在値/最大値)

MP:99,999/99,999 (現在値/最大値)

付与効果:なし


筋力:9,999

魔力:9,999

敏捷:9,999

器用:9,999


物理防御力:9,999

魔法防御力:9,999


地球のあなたと、MFOのあなた

二人分の能力が合わさってこうなったんだよ。

だからチートじゃないよ。

by神


だからチートじゃないって。

by神


見てはいないよ。

by神

―――――――――――――――


 いややっぱチートじゃねえか! あれもしかして神様見てるんですか?


 神様のコメントがどんどん増えていく! やっぱ見てるでしょ神様ー!

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