第十三話 続・魔法の検証をするぞ 防御魔法編 その1

 アクリティオ様が襲撃犯について情報収集をしている間、俺は俺でやることは……、特になかったので魔法の検証をする。


 言い訳をするなら、宇宙での襲撃を防いだ防御魔法について、優先的に検証をしてほしいとアクリティオ様から要望があったのだ。


 情報収集で俺が役立てることなど、マップを利用した敵味方判定や、使い魔を利用した偵察や、相手の記憶を読み取る魔法や……、いや結構あるな?


 ただ、防御魔法の検証をお願いされたように、俺はリリーナ様の護衛としての役割も求められている。ひとりでふらふらしている間に、リリーナ様が襲われました、なんてことになったら問題だ。


 そんなわけで俺たちは騎士団の演習場に来ている。


 今日検証する予定の魔法は、防御魔法だ。性能を検証するためには、当然ながら攻撃をする必要がある。そのため、広さがあり、多少暴れても良い演習場の出番というわけだな。


 演習場のあるエリアは、公爵邸がある場所から少し離れていて、車で移動する間にリリーナ様はいつもの調子に戻っていた。一安心だ。


「ここが演習場ですか。かなりの広さですね」


「そう? これは小規模な方よね、マリー」


「はい。惑星上の演習場は小規模なものに限られます。ここは20km四方ほどです」


 十分大きいよ。こういう時に例に出される東京ドームが……、何個分かはわからないがとにかく大きい。


「演習場が必要なほど、大規模な検証をするつもりはないんですが?」


「あら、急に試してみたくなることもあるでしょ?」


 それは残念ながら否定できない。というか、テンションが上がってきたら思わずやってしまう可能性が大である。


「んんっ、それは後で考えるとして、お願いしておいた標的と武器はどこにあるんですか?」


「手配はセレナにまかせてあるわ」


 今回もいきなり人で試すことはせず、標的に防御魔法をかけてそれを攻撃する予定である。


 攻撃するための武器はこの世界の物で、一般的に使われる武器をいろいろと用意してもらえるようお願いしてある。もちろん俺は扱えないので、攻撃してもらう人もセットだ。


「セレナさんの姿が見えないですね」


 演習場に来てから、セレナさんの姿が見えない。ここへは一緒に来ているので、武器の手配をしているんだろうか。


「マーリン様、セレナの準備が整ったようです」


「お待たせしました。久々なもので、少し準備に時間がかかってしまいました」


 現れたセレナさんを見て、俺は驚いて固まってしまった。


「ふふ、驚いているようね。セレナはただの侍女じゃないの。護衛としても働けるくらいのスキルを持った、ホウジョウ家の精鋭なのよ」


「いえ。何をとっても超一流には一歩及ばず、お恥ずかしい限りです」


「何をやらせても一流に熟せる、の間違いじゃない? 私も頼りにしているわ」


「恐縮です」


 セレナさんって優秀なんだね。ステータスを見たときにも思ったけど、敏捷と器用が2,000を超えていて高かったもんな。


 ちなみにだが、俺のオール9,999というステータスが異常過ぎるだけで、2,000という数値はかなり高い。MFOの世界でいうなら、一国の騎士団長クラスはあるだろう。


 だが、俺が驚いているのはそこじゃないのだ。いやこれが普通なの? セレナさんの装備が、体にぴっっったりとフィットしたボディスーツで、はっきり言って目のやり場に非常に困る。


「セレナさん、その装備は?」


「これはサイオンジ家の特製パワードスーツよ。行動補助はもちろん、防御力もすごいの」


「はい。性能はすごいのです」


 あっ、これ普通じゃないわ。微妙にセレナさんの顔に羞恥が浮かんでるわ。


 水着より露出は少ないだろうが、水着が恥ずかしくないのは皆が水着を着ているからだ。つまり街中でひとりだけ水着だと恥ずかしい。


 今のセレナさんも同じような感じなのだろう。周りは普通の恰好なのに、ひとりだけぴっっったりとフィットしたボディスーツを着ている。もう一度言うが、ぴっっったりとフィットしたボディスーツだ。


「すごい装備なんですね。それではさっそく魔法の検証に移りましょうか」


 わざわざ羞恥を煽る気もないので、早速検証を始めよう。検証が始まってしまえば、多少は羞恥も収まるはずである。


「武器は私が使用します。用意した武器を説明いたしますね」


 セレナさんが用意してくれた武器は、大きく4種類にわけられる。


 すなわち、攻撃方法が近接・遠距離の2種類と、実体武器かビーム武器かの2種類、組み合わせて4種類だ。


 それぞれにいくつかの種類の武器があるので、検証を行う武器は4つよりも多い。


「まずはこちらの武器を試しましょう。貫徹力を限界まで高めた、長距離狙撃用ライフルです。宇宙船の外装に使われる、軽装甲板も撃ち抜けます」


 セレナさんが初手に選んだのは、ひときわ大きな銃身が目立つ武器だった。あのー、武器選定は"一般的な武器"って指定したんだけど、これは一般的なの?


 撤退を考えない捨て身の暗殺には使われる? あっ、ふーん、面白いじゃん。


「ぜひやりましょう」


「いいわね。私たちはあそこの指揮所にいるから、しっかりやるのよ」


 リリーナ様とマリーさんは、小高い位置に設置された指揮所へと入っていった。周囲に設置されたカメラや、ドローンによって収集されたデータが集まる場所である。


「標的はこちらの人形ですか?」


「はい。ダメージの判定機能もある一般的なものです。自立移動もできますよ」


 軽快に歩く人形にかける防御魔法を考える。


 防御魔法には、肉体の防御力を高めるものと、いわゆるシールドを張るものの2種類がある。宇宙船が襲撃されたときに使用したディバインシールドもシールド魔法のひとつだな。


 肉体の防御力を高める魔法の場合、攻撃自体は防衛対象に届いてしまう。衝撃を受ければ吹っ飛んでしまうわけだ。これでは防衛対象にダメージはなかったとしても、見栄えがいささか悪い。あと服にダメージがいく。


 というわけで、シールドを張る魔法を試していこう。


 ディバインシールドは最上級に位置する魔法なので、問題なく防いでくれるだろうから、今回の検証では最下級のシールド魔法から検証しよう。


「人形は数がありますので、壊れてしまっても大丈夫ですよ」


「いいですね。最下級の魔法から初めて、徐々に効果の高い魔法にしていきましょう」


「わかりました。私は射撃準備を始めます」


 銃身に付属していた支持脚が展開し、パイルが地中へと穿たれた。銃というより砲と言った方が、この姿を表すには適切かもしれない。


 銃身はボディスーツと有線で接続され、仮想の弾道を映し出している。今は俺にも見えているが、射手だけに見せることも可能だ。


「射撃準備完了しました」


 かっこいい。


「かっこいいですね」


 俺の方の準備はというと、「『盾』よ『守れ』、シールド!」で終わりだ。ロマン対決では完全に負けだな。


「私の方も準備できました。セレナさんの判断で射撃してください」


「わかりました。3秒後に射撃します。3、2、1、発射!」


 射撃の衝撃は、空気だけにとどまらず、支持脚を伝わって地面すらも揺るがした。


 射撃と同時に着弾した弾丸は、最下級のシールドを容易く破り、標的の人形へと襲い掛かる。立ち尽くす人形の胸には大穴が開いていた。


 遅れてやってきた暴風が枯れ木のように人形を連れ去っていき、あとには何も残らなかった。


「すごい威力ですね」


「はい。最下級の防御魔法ということですが、これほど威力が軽減されるとは」


「ん?」


「観測された結果によると、想定される威力から42%ほど軽減されています」


 なるほど。俺は銃の威力に驚いていたが、セレナさんは防御魔法の方に驚いていたようだ。


 約4割の威力を軽減できたということは、シールドが3枚あれば止めきれることになる。次はシールドを複数枚張る魔法を使ってみようか。


 銃身の冷却を待って、シールド2枚で試してみた結果、シールドは2枚とも貫通された。軽減率は89%と、単純にシールド1枚の場合を2倍した以上の軽減率であった。


 これは、弾体に施された貫徹力を増すための仕組みが、1枚目のシールドで破壊されたからだと思われる。


「このような薄いもので防げるとは、不思議なものです」


 参考として手元へ出したシールドを叩きながら、感心したようにセレナさんが感想を漏らす。


「次は3枚でやってみましょう。予想通りなら、これで弾を止められるはずです」


「はい。銃の準備も完了しました。3秒後に射撃します。3、2、1、発射!」


 三度発射された弾丸は、2枚のシールドを貫通し、3枚目のシールドに止められた。ひしゃげて平らになった弾丸がシールドに張り付いている。


「止まりましたね」


「これで軽装甲板と同等以上の防御力であることがわかりました。ふふっ、歩く装甲板ですね」


 ここでちょっとした考えが浮かんだ。デバフ魔法に対抗するために魔法防御力を上げたように、シールドに対抗するために銃の魔力を上げてみたらどうなるだろうか? エンチャント魔法というやつだ。


「よし、試してみましょう」


「マーリン様、何を試すのですか?」


「ちょっとしたバフ魔法で、銃の魔力を上げてみましょう」


「魔力というと、魔法の攻撃力でしたね」


「そうです。この世界にも魔法がありそうですし、銃への影響なども調べておいた方がいいでしょう」


「ちょうどいい機会というわけですね。わかりました」


 準備を整えて四射目。シールドの枚数は先ほどと同じく3枚で、どれくらいの差があるか見てみよう。


「3、2、1、発射!」


 発射の衝撃は変わらなかった。1枚目のシールドを貫通し、2枚目も貫通し、そのまま3枚目も貫通した弾丸は、標的を爆発四散させながら地中へと飛び込んだ。


 巻き上げられた土砂が津波のように周囲へと広がっていく、引き伸ばされた時間感覚の中で、俺はとっさに防御魔法を着弾点を覆うように発動させた。


 間一髪のところで、こちら側へ土砂がやってくることはなかったが、弾丸の進んでいく先では行き場をなくした土砂が1つの奔流となって、さながら土の龍といった様子だ。


「……」


「……」


 気まずい沈黙が俺とセレナさんの間に流れる。心なしか、若干ジトっとしている。いや完全にジト目だ!


「マーリン! 今のは何よ! すごいじゃない!」


 リリーナ様が大変はしゃいでおられる。


 封印! これは封印します! だからそんなに責めるような目で見ないでください、セレナさん!


――――――――――――――――――――

セレナさんのイメージ絵を近況ノートに掲載しています。

興味があればご覧ください。

https://kakuyomu.jp/users/kanikurabu/news/16817330661930803956


2023/10/31 文言の修正

「東京都2つ分くらいのサイズだ。」⇒「こういう時に例に出される東京ドームが……、何個分かはわからないがとにかく大きい。」

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