第十四話 続・魔法の検証をするぞ 防御魔法編 その2
はしゃぐリリーナ様を鎮めるために、アリス(たれ耳ウサギの小妖精)を召喚し、指揮所へと戻ってもらった。まだこの方法は有効なようだ。
召喚魔法に時間制限があることは、すでにリリーナ様へ伝えてある。というか、アクリティオ様を治療した際のドタバタで伝え忘れたところ、アリスが急に消えたとマリーさんが突撃してきたのだ。
そこでマリーさんに時間制限について教えて、リリーナ様へも伝えてもらった。
最近はアリスを召喚していなかったので、リリーナ様を鎮める効果はバツグンだったようだ。助かったぜ。
「ふぅ……、武器へのバフ魔法は一旦封印しましょう」
「そういたしましょう。それと次回から魔法を試す際は、想定される被害について事前に検討しましょうね」
「はい」
気を取り直して防御魔法の検証を進めていこう。
さっきまで使用していた長距離狙撃用ライフルは、今回用意した武器の中で最も強い武器だった。それをシールド3枚で止められたことから、次はシールド1枚で防げる限界を調べよう。
「まずはこちらから」
慣れたようにハンドガンを構えるセレナさんが、シールドの中心を正確に射撃する。硬質な音を響かせるシールドは小揺るぎもせず、すべての弾丸防ぎ切った。
一瞬だけ、ハンドガンにバフ魔法をかけたらどれくらい威力が上がるか気になったが、その考えはすぐさま振り払った。
続けて試した同じハンドガンタイプのビーム武器も、すべてシールドで止められた。この威力の攻撃ならば、100発や200発でも問題なさそうだ。
「実体弾もビームも同じように弾くのですね」
「魔力のこもっていない攻撃という意味では、どちらも同じということでしょう」
攻撃の種類が、物理攻撃と魔法攻撃に大別されるとしたら、この世界の攻撃はすべて物理攻撃ということになるだろう。
「私どもが使うシールドーー、便宜上【科学シールド】とでも呼びましょうか、そちらでは飽和攻撃に弱いという欠点がありましたが、マーリン様の使う【魔法シールド】はいかがですか?」
「【魔法シールド】ですか、わかりやすいですね。私の使うものは、決められた容量まで攻撃を防ぐ、という性質のものです。1発を100回でも、100発を1回でも、シールドにかかる負荷は同じということになります」
「合点がいきました。狙撃用ライフルがあまりに簡単に止められたのは攻撃力が低かったからですね」
セレナさんの説明はこうだ。
最初に使用した狙撃用ライフルは貫徹力に重きを置いている。つまり、攻撃力と貫徹力の2つのステータスがあったとすると、攻撃力はそこそこだが、貫徹力がとても大きい武器ということになる。
攻撃力10・貫徹力10の攻撃と、攻撃力10・貫徹力100の攻撃で、魔法シールドに与える影響は同じ可能性があるということ。
実際にはそれぞれのステータスが互いに影響し合っているため一概には言えないが、貫徹力重視の攻撃は、魔法シールドに効果的ではないということになるな。
「銃器はどれも速度を武器に攻撃するものです。つまり、魔法シールドに対する攻撃力は低いという可能性があります」
「私がいた世界には強力な銃はありませんでしたし、ありえますね。それでは次は近接武器を試しますか?」
「そういたしましょう。近接武器も私が扱えますので」
遠距離武器の系統だった検証はまた後で。
次にセレナさんが手に取ったのは、細い持ち手に、直径10cmで長さ30cmくらいの円柱が付いた……、こん棒?
「特殊警棒です」
特殊こん棒の間違いでは?
「非殺傷武器です」
詳しく説明すると、非殺傷モードがある特殊こんぼ……、特殊警棒だという。あの太い円柱の中には衝撃を吸収する機構が入っている。
殺傷モードだと、衝撃を増幅する機構に早変わりするんですけどね。
「ふっ、せいっ!」
人の背丈ほどに飛び上がったセレナさんが、標的の脳天へ特殊警棒を振り下ろした。内部機構により増幅された衝撃がシールドへと殺到し、その余波が標的の人形を中心とした土埃によって視認できる。
シールドは変わらずそこにあった。
「ふぅ、これでも破壊できませんでしたか」
「狙撃用ライフルは別として、シールドへの負荷は一番ですよ。もう一度同じ攻撃を受ければ破壊されるでしょう」
「実戦ではとても無理ですね。そもそも最初の一撃も難しいのですが……、ていっ! あら」
よほど残念だったのか、セレナさんが追加でシールドを殴りつけた結果、シールドは割れた。結構ぎりぎりだったみたいだ。
「魔法シールドには近接武器が効果的のようですね」
そう考えると、MFOの世界が剣と魔法のファンタジーだったのは一定の合理性があったわけだな。あの世界の敵にはシールドを張ってくるやつもいたし、それに対抗するためには近接武器が効率的だったのか。
「効果的と言っても一撃は確実に防げるとしたら十分です。その間に対処できますから。ふふっ」
ちょいワル笑顔は、サイオンジ家の関係者のデフォルト装備なのかな? 対処って、ねえ?
その後、ステータス魔法で武器のステータスを見られることを思い出し、詳細な検証ができるようになった。
セレナさんの予想通り、狙撃用ライフルの攻撃力は、この世界での破壊力に比べてかなり低かった。逆に近接武器は高めの攻撃力だった。
あくまでMFOを基準にしたステータスであって、この世界基準ではないということなんだろう。ステータスの項目もMFOそのままだしな。
「魔法シールドの破壊に効率の良い武器は、狙撃ライフルを除けば大槌という結果になりましたね」
「シールドを1枚でも破壊できたのが狙撃ライフルと大槌だけでしたから、よほどのことがなければ、シールド1枚で事足りるとわかったのは朗報です」
「ふふっ、大槌を持ってお嬢様に近付く者がいれば、すぐに取り押さえなければいけませんね」
そんな不審者がいれば、すぐにわかるだろう。
「さて、一通り検証も終わったので、リリーナ様のところへ戻りましょう」
「私は着替えてから参りますので、マーリン様は先にお戻りください」
「ええ、わかりました」
しまった、検証に夢中になりすぎた。何がとは言わないが残念だ。大人しく指揮所に戻ろう。
指揮所のリリーナ様たちは真面目に防御魔法について議論していた。主題は、敵が防御魔法を使ってきたらどう対処するのか、ということ。
俺が魔法を使えることは公爵家の多くの人が知っているが、アクリティオ様に魔法がかけられていたこと、つまり、俺以外に魔法を使える人物または物品があることは、ここにいる人たちを含めて一部にしか知らされていない。
銃弾を容易く弾く魔法シールドを相手にするかも、と考えるのは、実に頭が痛い問題だろう。
「マーリン、魔法シールドには何か弱点はないの?」
「明確な弱点はいくつかあります。ひとつはデバフ魔法ですね。シールドは攻撃にしか反応しないので、デバフ魔法は素通しになるんです」
「デバフ魔法は攻撃じゃないの? 難しいわね……。そもそも私たちが魔法を使えないから、その方法はとれないわね」
「もうひとつは解除魔法です。アクリティオ様にかかっていた魔法を解除したのと同じ魔法ですね」
「そっちも無理じゃない」
「それ以外だと、シールドを無視して攻撃するしかないですね。例えば、酸素を消費して酸欠にさせる、何らかのガスを充満させる、などは効果的かもしれません」
「できるかできないかで言えばできると思うわ。けれど耐環境スーツや酸素ボンベを準備されていればダメね」
科学技術も合わせて対策されると、ますます対処が難しくなる。俺なら魔法で一発なのだが、最下級の魔法シールドでも1枚あるだけでやっかいだな。
「魔法の重要性がどんどん上がってくわね。マーリン、私たちが魔法を使えるようになる方法について、真剣に考えて頂戴。これはサイオンジ家としての依頼と考えていいわ」
昨日今日の検証で、魔法に対するにはやはり魔法、という結果が明確になった。リリーナ様の考えは理解できる。
俺の身体は、この世界の人たちとほぼ同じだということがわかっているし、この世界の人たちがMPを持っていることもわかっている。
MFO基準のステータスが、MFO基準の効果を発揮することは、防御魔法の検証で確認できたから、原理的にはこの世界の人たちも魔法が使えるはずだ。
いくつか案はあるので、それを試してみよう。
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