第四十五話 グウェンとのお茶会 精霊とグウェンと女子会
指輪を付けて満足したグウェンに、今度はこの世界に来てから俺が何をしていたのかを説明した。既にグウェンは大体のことを調査していたので、ちょっとした補足程度だ。
「女にもなれるのか。ほう?」
「なんですかその目は。サーレに身元がバレないよう、最大限考慮した結果です。他意はありませんよ」
「ふ、何も言っておらんのだがな」
目は口程に物を言うという言葉を知らんのか?
「変装魔法は着ぐるみを着ているようなものです。この姿も魔力で作った仮初です。中身は変わっていませんよ」
「その割にはしっかり動くし、体温もあるのだな。全身式のパワードスーツのようなものか」
「陛下、マーリンは肉体そのものを変化させる魔法も持っていますわ」
「ほう?」
「……」
目は口程に物を言うという言葉をちゃんと知っているようだ。
「はいはい。やって見せればいいんですね」
「たしかマーティンとか言ったか」
マーティンもしっかり調査されていたようだ。調査官の目を欺いて、自由に行動するために用意した身分であったが、グウェンにはしっかりマークされていたのか。抜け目がないな。
「こういう姿です。マーリンの子供版といったところですね」
「なるほど。肉体が変化しているというが、体積はどこに行ったのだ?」
「おそらく魔力に変換されて保持されています」
「おそらく?」
「私も詳しい原理はわかりませんので」
「ほう?」
三度目の「ほう」がきた。これはあれだな。原理も分からんのにほいほい使って大丈夫なのか?ってやつだ。
ちなみに、大丈夫かどうかを問われているのは体ではない。頭だ。
「私が召喚した大精霊が大丈夫と言っていたので、大丈夫です」
「随分と信頼しておるのだな」
「マーガリン魔法大国からの長い付き合いですからね」
フィーネにはゲームの時の記憶もあるようだし、あながち間違いではないだろう。それに召喚に応じてくれている時点で、俺への敵意がないのはわかりきっている。ただ、敵意がなくとも面白がっている節はあるな。
「あら、マスターがそこまで信じてくれているなんて、嬉しいですわ」
ほーらな。
グウェンへの魔法の指導もどうやってか知っていただろうし、このお茶会ものぞいていると思ったんだ。だから驚きはしないよ。
「グウェン、こちらが大精霊のフィーネです。フィーネはグウェンを知っていますよね?」
「もちろんですわ」
「これは驚いた。ギデオンのような者がもう1人いるのか」
ご丁寧に、椅子に座った状態で俺の隣にフィーネが現れた。その椅子はどこから持ってきたんだ?
「こんにちは、私がフィーネですわ。マスターと同じく、グウェンと呼んでもよろしいかしら?」
「ああ。私もフィーネと呼ばせてもらおう」
「フィーネお姉ちゃんでもよろしいですわよ?」
「また変なことを……。フィーネの最近の趣味なんです。聞き流していいですよ」
「なかなか個性的なのだな」
「あら。家族ができる喜びは、グウェンならばわかると思いますわ」
「まあ、な」
なんだその意味深なやり取りは。急に深刻な雰囲気を出さないでくれますか。グウェンの生い立ちは出会ったときに少し聞いたが、それ以来全く触れてこなかった。気軽に出す話題でもないしな。
家族に対する思いは、フィーネもそれなりにあるようだ。それは、俺の姿が小さくなったマー君の件でわかっている。グウェンに対しても何か感じるものがあるのかもしれない。
「茶会でする話でもないな。それより、ギデオン……、その姿ではマーティンか、ややこしいな。もういいから元の姿に戻れ」
「グウェンが言い出したんじゃないですか。もう」
「それで、マーリンが召喚しているのはアイちゃんとフィーネだけなのか?」
マーリンの姿に戻った俺に、気を取り直したグウェンが問いかけてきた。少し強引な話題変更であるが、素直に従っておこう。
「アイちゃんとフィーネ以外にもいますよ。ウサギのようなロップ、リスのようなクルちゃん、そして最近娘になった機械の精霊のマナちゃんですね」
「お主、精霊を娘にしておるのか?」
「生まれたばかりの精霊でまだ幼いんです。ちょうど6歳くらいでしょうか。今日はママと一緒にお留守番です」
「ママ? マーリンはぽんぽんと情報を放り込んでくるな」
「そうですか?」
「そうだ。6歳でお留守番となると心細い思いをしているのではないか?」
「そうですね。クルちゃんにお願いしてきましたが、寂しい思いはしていると思います。今日はママも忙しいですから」
グループチャットで直接報告を受けているが、忙しい合間を縫ってセレナさんがマナちゃんの様子を確認してくれているようだ。今までは、ほとんどの時間を俺かセレナさんのどちらかと一緒にいたので、初めての1人の時間に少し寂しい思いをしている。
「ならばここに連れてきたらどうだ?」
「お茶会にですか?」
うーん。ありがたい申し出だが、いきなり皇帝に会わせるのはマナちゃんの負担になるかもしれない。それにこの場に相応しいドレスとか用意していないし。
「折角ですが――」
「あら。ちょうど良いじゃありませんの。マナちゃんを呼びましょう」
「ちょっとフィーネ、マナちゃんにも準備がですね」
「準備ならばセレナが終わらせていますわ。絶対グウェンと会うことになると言っていましたわね」
「ほう。才女の評に間違いはないようだな。それともマーリンへの信頼故か?」
さすがセレナさんだ。俺のやらかしも考慮して準備を整えていたんだな。って、おい。グウェンが言う信頼っていうのは、絶対に良い意味じゃないだろ。
「わかりました。けれど、マナちゃんに確認してからですよ。マナちゃんが嫌と言えば呼びませんからね」
「当然だろう。別に無理に呼びたいわけではないわ」
「さっそく聞いてくださいまし」
マナちゃん? グウェンがお茶会に来てもいいって言ってるけどどうする? え? 行く? 無理しなくていいんだよ? ママもついてきたい?
『パパ、さすがにマナちゃん1人では心配です』
『そうは言ってもママは家のことがありますし』
『ふむ。そういうことなら私が戻ろう』
アクリティオ様がセレナさんの代わりに家へ戻ってくれるという。ただ、1人だけ中座となると余計な憶測を生むため、俺のテレポートでこっそりとセレナさんと交代する。
『クルちゃんは残るのだろう? 胃に回復魔法をかけてもらわないと……』
『あらあら』
そういうわけで、こちらに来るのはセレナさんとマナちゃんで、入れ替わりにアクリティオ様が家へと戻る。お茶会の終了時には、再度両者が入れ替わり、何食わぬ顔で帰宅する、と。
「パパとママの娘のマナです。よろしくお願いします!」
「生まれたばかりなのに、ちゃんと挨拶できてえらいのう」
「えへへへ」
少し緊張した様子で挨拶をしたマナちゃんに対して、グウェンのまなじりは下がりっぱなしだ。
これはあれだな。孫に会った祖母――、はっ! いや、この話はやめておこう。何か重大な事件に発展しそうだ。
とにかく、マナちゃんの可愛さにグウェンがやられてしまったという話だ。
「ほう。マナちゃんは機械の勉強をしておるのか」
「うん、そうだよ、グウェンお姉ちゃん! パパの役に立つように一杯勉強してるの!」
「そうかそうか、偉いのう。そうだ。私からマナちゃんにプレゼントを上げよう。帝国で使われている基幹アーキテクチャが網羅されたデータコアだ。帰りにママに渡そう」
「いいの! ありがとう、グウェンお姉ちゃん!」
「うむ、いっぱい勉強するんだぞ」
「陛下、ありがとうございます」
「ありがとうございます、グウェン」
「よいよい」
これは孫にお菓子を渡す祖母だ。あっ、いかんいかん。この話はやめておこうと思ったばかりなのに、グウェンの行動があまりにもソレなので、自然と頭に浮かんでしまった。
「ところで機密的なことは大丈夫なんですか?」
「別に調べればわかることで、秘密でもなんでもない。調べるのにコツはいるがな」
黒ではないが、白でもないといったところか。そして、データコアを俺に渡さず、セレナさんに渡すグウェンの行動は、残念ながら100%正しいと断言できる。
「それでフィーネは魔力検知の研究と。精霊というのは勉強熱心なものが多いのか」
「楽しいことは何でも好きでしてよ」
「ふむ。サイオンジ家は良い拾い物をしたな」
「あらあら。リリーナのおかげですわ」
「マーリンが現れたときは、このようなことになるとは全く想像できませんでした。帝国にも必ずや利益になるでしょう」
「それは間違いない。すでにサイオンジ家の優秀な者を失わずにすんでいるしな」
「パパがやったんだよね! ママがかっこよかったって言ってた!」
「あっ、マナちゃん!」
「あっ! ひみつだった」
「ほう?」
俺は何も聞いていませんよ。俺は空気だ。女性が三人寄れば姦しいというが、女性が7人寄れば何になるんだろうな? 内2人+アイちゃんは精霊だが。
話の流れが若干気まずい方向へ行きつつあるのを感じて、俺は極力気配を断っている。
「私は客観的な感想を言っただけですので」
「パパかっこよくなかった?」
「違うのよマナちゃん。パパはかっこよかったわ」
「やっぱり!」
「リリーナも同じようなことを言ってましたわね」
「え!?」
「『俺が守ります』でしたわよね」
「ほう?」
今度はリリーナ様にも飛び火したぞ。俺は空気。俺は空気。
「あらあら。リリーったら」
「二人とも若いのう」
「あら。グウェンだってギデオンの羽を――」
「せいっ!」
「大精霊を止めるには不十分ですわよ。羽を抱きしめてくんかくんかしてたではありませんの」
「今の発言はなかった。そうだな」
「あらあら。そうですわね、陛下」
「堅苦しいのは無しにして、女子会にしたいですわ。アイちゃんがやっているのを見て羨ましかったんですの」
「ふむ、それも良いか。よし、この後は他言無用の女子会だ」
あのー、俺もいるんですけど……。気配を消し過ぎたか。
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