第四十四話 グウェンとのお茶会 本番
「本当にテレポートしてくるとはな」
「こんにちは、グウェン。この姿では初めてですね」
「そうだな。お主がギデオンの正体か。ふぅむ、顔立ちは似ておるな。少し若くした感じか。ギデオンの姿にはなれるのであろう?」
「魔法で姿を変えているのでなれますよ」
「ならば茶会の間はギデオンの姿でいろ。それで姿を偽っていた件はチャラだ」
「わかりました。これでいいですか?」
「うむ」
変装魔法でギデオン姿に変わって、グウェンの隣に用意された俺の席に着いた。
「ところで、どうしてギデオンとマーリンが同一人物だと気付いたのか、教えてもらっても良いですか? あと、アイちゃんに気付いた理由も」
「それか。別に難しいことはない。単なるブラフよ」
「え、ブラフですか?」
ブラフってことは、本当は気付いてなかったってことか?
「そうだ。サイオンジ家を最初に選んだのは一番怪しいと思っていたからだが、ダメでもしらみつぶしに茶会に呼びだす予定だったのだ」
「ということは、私はバレてもいないのに、自分から正体をバラしにきたということですか」
「そういうことだ。まったく警戒心のないやつだ。アイちゃんはそこが良いと言っておったが限度があろう」
「ちょっと待ってください。そうだとしても、アイちゃんのことはいつ知ったんですか? グウェンには会わせてないはずです」
「それも結局はお主の警戒心のなさ故だ。最初に部屋にやってきたとき、狸寝入りをしておった私の横で、べらべらとアイちゃんとしゃべっておっただろう」
え、あれって寝たふりだったの? 完全にだまされた。なんて悪辣なんだ。
「アイちゃんとは、魔法の指導後に毎回女子会をする仲だぞ」
「ということは、毎回寝たふりをしていたんですか」
「男がいるのに無防備に寝る女がいるか」
『陛下の言う通りよ』
リリーナ様からもグループチャット経由で同意が飛んできた。でもフィーネは寝てたし。あと最近だとセレナさんもぐっすり寝てるよ。二人は別? そうですか……。
寝たふりの件は一旦置いておいて、アイちゃんのことを知っていたとしても、姿を隠したアイちゃんを適切な魔法無しで発見することはできないはず。しかしグウェンはアイちゃんに気付いていた。これはどういうカラクリがあるんだ?
「この部屋の内装には気付いておらんかったか? アイちゃんが部屋全体を見回そうと思えば、最適な場所は1つしかない。あとは意味ありげに目線を向ければ、アイちゃんの存在がバレたと動揺を誘えただろう?」
「そちらもブラフでしたか……。まんまと騙されました。グウェンは意地が悪いですね」
「人聞きが悪いぞギデオン。騙される方が悪いのだ。それよりほれ、アイちゃんも出てきて茶会としよう」
部屋の隅からアイちゃんが姿を現した。確かに改めて見てみれば、背の高い家具や照明の配置が巧妙で、部屋全体を見回そうと思えばアイちゃんが隠れていた隅っこが最も良い場所だ。
つまり、このお茶会そのものが、俺のことを炙り出す罠だったわけか。いや大がかりだな。
「さて、茶飲み話として、ギデオンの話でも聞くか。オークション会場に突然現れた所まではたどれたが、それより前はどこで何をしておったのだ?」
「そのことですか。サイオンジ家の皆さんにはお伝えしていますが、別の世界のマーガリン魔法大国というところで宗主をしていました」
「宗主とな。なんぞ国の王をしておったのか?」
「そうですね。まあ王というよりは魔法使いのトップとしての性格が強かったので、なんとかやれていましたよ」
「なんだ、やはりそうか。どう考えても王は似合わないと思ったわ」
「自覚はあります」
ちゃんと自覚はある。ゲームだと思っていたから宗主をやれていたが、あれが現実と知った今、もう一度宗主をやれと言われても絶対に断るだろう。
「そして別の世界か。サイオンジ家としてはどう考えておる?」
「真偽を確かめるのは不可能かと。系外文明の品と扱いは同じです」
「ふぅむ。ギデオンは別の世界だと確信しているようだが、何か理由はあるのか?」
「一番は神様にそう言われたからですね」
「また常識の埒外の存在が出てきたな」
「これについては証明するのは無理ですね。『コールゴッド』という神様と交信する魔法がありますが、答えてくれるのが同じ神様とは限りませんし」
「はぁ……、そういうところだぞギデオン」
どういうところだ?
「アクリティオも大変だな」
「いえ。それ以上にリリーナともども助けていただいていますので」
「そうであったな。ふう。気を取り直して、宗主をしていたのがどうして我が国に来ることになったのだ?」
「テレポートで移動しようとしたところ、神様の失敗に巻き込まれ世界から弾き飛ばされてしまいまして。そのまま消滅を待つ身だったのを神様に救ってもらいました。この国に来たのも神様の思し召しですね」
正直に説明すると、地球やゲームなどのことも話さないといけなくなるが、ややこしくなるだけなのでそこは省いていいだろう。
「思し召しって本当に冗談じゃなかったのね……」
リリーナ様が思わずといった感じでつぶやいた。
「良い子のところに送る、と神様は言っていましたね」
「神様も認める娘か。国が国なら聖女だなんだと祭り上げられるかもしれんな」
「聖女は別にしてもサイオンジ家には良くしてもらっています」
「別に心配せんでもサイオンジ家から移れなどとは言わんよ。我が国に組しても良いと考えているようだしの」
そんなつもりはなかったんだが、どうやら俺はサイオンジ家にいていいようだ。俺の力を最大限国に活かそうと考えると、中央で囲ってしまった方が効率はいい。それをせずにある程度自由にさせてくれると考えていいのだろう。
「性急な変化は歪みを生むものだ。特に国が大きくなればなおさらな。今はサイオンジ家と私に指導しているくらいでちょうど良い」
「色々と考えているんですね。そうしていると皇帝のようです」
「失礼なやつだ。私は最初から皇帝よ。むしろお主が宗主をやれていた方が驚きだ」
「ふふん。何せ国一番の魔法使いでしたからね」
「そこを誇ってどうするそこを」
いや、マーガリン魔法大国では重要だったんだ。何せプレイヤーが建国した国だからな。まあこれをグウェンに説明しても頭に?が浮かぶだけだろう。
「あの世界には魔物と呼ばれる敵対生物がいましたから、強いということは重要だったんです」
「その魔物とはどういう生き物なのだ?」
「基本的には普通の生物と同じですが、体内に魔石と呼ばれる石を持っていて、魔法を使ってきますね。あとは魔力が豊富な場所、私たちはダンジョンと呼んでいましたが、そこでは自然発生したりもします」
「そんな危険生物がおるのか。自然発生するとなると根絶やしにもできんな。定期的な間引きができるほどに経済的に旨味がある。となると魔石や魔物そのものが素材として活用できることも考えられるな。魔力の影響が魔物だけとも考えにくい。ふぅむ」
めっちゃ考察するな。
「グウェンが言うように、魔物の素材は色々なものに活用されていました。従属魔法がこめられたペンダントを見たことがありますよね。あれに付いていた石は、私がいた世界の魔石とほとんど性質が同じです」
「あれか」
「そうだ。サイオンジ家で魔法を教えている人たちには魔法の装備を渡しているんですが、グウェンにも何か渡しておきましょう。とりあえず、指輪なんてどうでしょうか。邪魔にもなりませんよ?」
「あらあら。マーリンさんったら」
「ふぅ……。なるほどな。警戒心が無いのは世界が違うからでもあるのだな。いいかギデオン。この世界では指輪は基本的には既婚者が付けるものだ。つまり、指輪を送る行為とはそういうことだ」
「あっ、え? ええと、ちょっと待ってください。私にそういう意図はありませんから」
「わかっておる」
まじか。結構いろんな人に指輪をあげちゃったぞ? まずはリリーナ様でしょ。魔法研究所の皆にも、共通装備にしよう、なんて渡したし、もちろんセレナさんにも皆の物よりちょっと良い物を渡した。
え、あの行動って皆からどう思われてたの? 見境なしに求婚しまくるクズ野郎とか?
「家の皆はちゃんとわかっているから安心してほしい。それはそれとして、あまりにも常識的な内容だったからマーリン殿には何も言わずにいた。すまないな」
「いえ、事情を理解してくれているならいいんです。とにかく、そういう意図はありませんから」
「陛下も申し訳ありませんでした。当家の不手際です」
「世界の差がこんな些事で良かったではないか。まあ折角だからギデオンから指輪は貰っておこう」
「え、指輪を付けるんですか?」
「魔法の指導のときだけだがな。ほれ、どんな物があるか出してみよ。私に相応しい物をな」
なんと難しい注文だろうか。今インベントリに入っている指輪は、魔法研究所用に量産した武骨な物だけだ。これを出したら怒られる気がする。いや、絶対怒られる。
そうなると、今ここで新しい物を作る方が良いな。オーダーメイドですって言っておけばそれっぽい。グウェンの希望も聞いて、好みの物を作ろう。
「手持ちにはグウェンに合いそうなものはありませんので、新しく作ります。どんなデザインが良いか教えてもらえますか?」
「ギデオンは細工もできるのか。我が国では専門職だぞ」
「魔法で加工しますよ。これでも国一番の魔法使いでしたので」
ふふん。
「それは素直に感心しておこう。そうだな。4枚の羽が石を包み込むようなデザインが良いな。石は何がある?」
「わかりました、4枚の羽ですね。石は魔石を使って、守りの魔法を込めておきましょう。色は自由にできますよ」
「それなら、オニキスよりも深い黒にしよう。カットはせず、卵型で」
なるほど。卵を守る羽か。グウェンは羽に何か思い入れでもあるのかな。俺の羽もかなり気に入っているようだし、渡す魔法装備は羽装備がいいかもしれない。ただ、今のグウェンの魔法熟練度だと、性能はかなり低く見た目だけの装備になってしまうけど。
「こんな感じでどうでしょう」
「ほう。継ぎ目もない。石を後から嵌めるのでは不可能な形状。魔法ならではといったところか」
「気に入りましたか?」
「気に入った。さあギデオンが付けてくれ」
その行動にはどんな意味が? 俺の目線を受けて、リリーナ様はそっぽを向いて、フィオナ夫人はあらあら顔で、アクリティオ様は胃を押さえている。
「ほれ、早う付けんか」
右手の中指を突き出したグウェンに、俺はゆっくりと指輪を嵌めた。
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