第四十七話 新人たちの反応
「今体験してもらった事象を引き起こしたのが"魔法"よ。あなたたちは、魔法を研究する、"魔法研究所"へと所属することになるわ」
リリーナ様の言葉に、新人の3人はそれぞれ別の反応を示した。
まずは近衛騎士のハンネローレさんだが、彼女は口と目を大きく開けて驚いている。ちょっと腰が引けているところがポイント高いな。ただ、騎士なのにそんなんでいいのかという疑問も浮かぶ。
もう1人大きく反応したのは、白衣を着た研究者然とした女性だ。こちらはキラキラした目で若干前のめりになっている。ハンネローレさんとは真逆だな。
そして、最後の侍女っぽい人は、2人の反応を見て面白がっている。
なるほど。
「魔法がどういうものか実感できたようね。それじゃあ詳しい話をするから、席についてちょうだい」
席順にもテレポート移動の影響が出ていて面白い。リリーナ様に一番近い位置には研究者風の女性が座り、逆に一番遠い位置にはハンネローレが座った。それでいいのか騎士団。
「さて、ここには研究所の皆がいるし、まずは自己紹介してもらえるかしら」
「では私から。私の名前はタティアナ・ガスパールです。ターブラ中央研究所、第一基礎研究室から異動になりました」
率先して自己紹介を始めたのは研究者風……、というか研究者のタティアナさん。中央研究所とは国営の研究機関であり、クレイトス帝国最高峰の研究所のひとつだ。早い話が超エリートということだな。
見た目も怜悧という言葉がぴったりな感じで、すらりとした長身に鋭い目、エメラルドグリーンの長髪を三つ編みにして、右肩から前へ垂らしている。ぜひ眼鏡をかけてみて欲しい。
「あっ! ティア!」
タティアナの自己紹介に反応したのは、同じ研究者のカエデだった。
ふーむ。2人を見比べると、ちょうど真逆という感じか。小っちゃくてデカいカエデに対して、でっかくて小さいタティアナだ。何がとは言わないが。
「あなたはっ! カエデ!」
「知り合いなの? 研究者だし交流があったのかしら」
「基礎教育課程の同期です! ティアはますますおっきくなりましたね。ティアが来てくれるなら研究がどんどん進みます!」
「あなたもまたおっきくなったんじゃないの? 一体何をしたらそんなになるのかしら。これからは同僚になるのね。よろしくね」
「はい!」
元気よく手を挙げて返事をしたカエデを、カエデ係のエミリさんが持ち上げた。先任の皆は特に気にしていないが、新人3人だけが不思議そうな顔をしている。この儀式にも慣れたものだ。
「知り合いがいるなら慣れるのは早そうね」
「次は私が自己紹介しますね」
次に発言したのは侍女風の女性だ。テレポートにあまり反応せず、むしろ他の2人を面白がって見ていた女性でもある。
「不思議に思った人がいるかもしれませんが、私は陛下から事前に魔法のことを聞いておりました。私の所属は陛下直属の情報収集部隊です」
「驚いたわ……。噂はたびたび聞くけれど、実在したのね」
「はい。情報収集部隊のイヴァンカ・シャルモンと申します。明確な部隊名はないので、自己紹介の際に少し不便ですね」
他の2人とは違うとは思ったが、グウェン直属の人だったか。情報収集のための部隊ということで、御庭番とかが近いのかな。あるいは忍者とか。
容姿は特徴的な所が無い所が特徴というか、少し眠たげな目以外は、ザ・普通という感じ。潜入して情報収集もするだろうし、人の記憶に残らないような容姿、というかメイクにしているんだろう。
ちょっと忍者コスプレしてニンニンってして欲しい。この世界に忍者って概念があるのかは知らないが。
「皆分かっていると思うけれど、この話はここだけのことよ。それだけ陛下の信頼と期待がかかっていることを胸に刻んでおきなさいね」
最後はハンネローレさんの番だ。
「わ、私は近衛騎士団から異動となった。ハンネローレ・クルーガーだ。ま、魔法という面妖な術とて、お、恐れはしない。お、お化けなんて、怖くないぞ!」
恐れはしない、怖くないという発言内容とは正反対に、ハンネローレさんの声は震えていた。見事な震え声だ。
「ハンネローレは大のお化け嫌いで有名です。魔法が一般に受け入れられるかの試金石として、陛下が直々に選出されました」
いや。魔法=お化け、という図式はどこからでてきたの。そりゃあ、MFOの世界では、ゴーストやリッチのような非物質系の魔物もいたが、それだって魔力によって構成された存在だ。
厳密に言えば、召喚魔法で呼び出した召喚体も同じと言える。召喚体は魔力によって肉体を構成しているしな。
「魔法という不可思議な存在が確認された今、非科学的だという理由でお化けの存在を否定できなくなりました。その結果、ハンネローレは魔法=お化けと認識してしまったんでしょう」
イヴァンカさんが詳細に説明してくれた。
なるほどな。今までは世界を説明する理論が科学一本だったところに、魔法という理論が加わったことで、お化けの存在が一気に現実味を帯びたってことか。
魔法の中には一時的に自分の肉体を非物質化して相手の攻撃を回避するものや、非物質系の召喚体とかもいるんだが、ハンネローレさんの前では使えそうにないな。
「『影』! ねえねえ、ハンネローレ君。私の顔が――、なくなっちゃった!」
「ひぃ! 顔なしお化けぇ!」
「本当に苦手なんだね!」
顔の前に影を出しただけのカエデにすら怖がっている。ますます非物質系は無理そうだ。
「こら、カエデ。ハンネローレをいじめないの。それよりカエデも魔法を使えるのね。一体どういう原理なのかしら? この影に実体はあるのかしら? 気になるわ」
「ひぃ! 声だけお化けぇ!」
いやもうなんでも怖いマインドになっている。なんだよ声だけお化けって。……今ハンネローレさんにウィスパー(個人チャット)をしたらどうなってしまうんだろう。すごく気になるが我慢しよう。
「『癒し』! あまりはしゃぎ過ぎないようにしてください。お嬢様、どうぞ進めてください」
「ありがとう、マリー」
「ほへぇ……」
騒がしくなってきた場を収めたのは、マリーさんの癒しだった。なんだか落ち着く良い香りがして、ありもしないお化けに怯えていたハンネローレさんもとろけ顔になっている。とろけすぎて、若干口が半開きになっているのがポイントだ。ハンネローレさんは色々なものに対する感受性が高すぎるのかもしれないな。
「こほん。それじゃあこちらも自己紹介をするわ。所長の私についてはいいわね」
「はっ、はい!」
とろけた顔を引き締めつつ、ハンネローレさんが返事をした。
「副所長はカエデということになっているわ。けれどこれは一時的な措置で、人員が増えれば研究に専念してもらう予定よ」
優秀な研究者を管理運営に回すのは、あまり良いとは言えない。カエデと、あとタティアナさんもそうだが、組織がしっかりと機能するようになれば、研究一本で活動してもらいたい。
「そして、ここにいるマーリンが研究所の顧問よ。顧問と言っても事実上、マーリンが研究所の中心と言っていいわね。魔法という技術はマーリンによってもたらされたの」
「つまり、マーリン君から皆は魔法を教わったということね。気になるわ」
「ひぇ、お化けの大ボス……。ふわぁ」
またもや怖がっているハンネローレさんに、マリーさんの『癒し』が飛んだ。そしてまたとろけ顔になっている。回復魔法をかけられているんだが、なんだか健康に悪そうだ。
タティアナさんはカエデと同類だな。目がキラキラだ。
「タティアナの言う通り、マーリンから魔法を習得したわ。実施するのは明日になるけれど、魔法の習得の際にはマーリンとの信頼関係が重要になるの。このあとはそのために時間を使いましょう」
「し、信頼。お化けを、ほわぁ……、信頼できるでしょうか。ふへぇ……」
「初対面だものね。いきなり信頼といっても難しいのではないかしら」
もっともな意見だ。おそらく、1日では魔法を習得するところまでは行けないだろう。
イヴァンカさんはグウェンから話を聞いているとのことなので、グウェンを救ったことを好意的に捉えてくれているなら、ひょっとしたら魔法の習得まで行けるかもな。タティアナさんは実例を見せればある程度は納得してくれそう。
ハンネローレさんは……、うん、頑張ろうね。
そんなことを考えていると、カエデが拳を突き上げて宣言した。もちろんエミリさんが持ち上げている。
「大丈夫、いい方法があるから! まずマーリン君の服を脱がせるんだよ!」
「ひぇっ、大声、ふへぇ……」
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近況ノートに、ここまでの登場人物を簡単にまとめました。
よければ読書の参考にしてください。
https://kakuyomu.jp/users/kanikurabu/news/16817330665923557043
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