閑話 マーリン教……
“魔法歴0年 第二期、使徒マーリンがリリーナのもとへ遣わされる。”
「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりですが、魔法歴とはなんですか?」
「魔法歴とは、マーリン様がこの世界へ遣わされた年を元年とする暦です。続けても大丈夫ですか?」
「あ、はい」
「では」
“魔法歴0年第二期、使徒マーリンがリリーナのもとへ遣わされる。リリーナは使徒マーリンを導くことを誓い、これによって導きの聖女リリーナとなった。”
はい。俺は今、マーリン教の聖典?をマリーさんに読み聞かせてもらっています。
使徒マーリン? たしかに神様に遣わされました。導きの聖女リリーナ? たしかに神様が良い子のところに送ると言って、リリーナ様にはお世話になっています。
真実だからたちが悪いが、微妙に尾鰭がついていて、伝説ってこんなふうに作られていくんだなと感心するところもある。
“使徒マーリンは言った「聖女リリーナ、あなたが導き手である限り、私があなたを守りましょう」。光は十字を成し、悪しきものを打ち払った。”
あー、ディバイン シールドね。でも敵を打ち払ったのは破壊魔法のオリジナル ファイアだね。あれは原初の火、つまり星の誕生を再現した魔法なんだ。
「なるほど。これは編纂局と祀典局へ報告が必要ですね」
あっ、なんかいらん情報を渡しちゃったか? 編纂局と祀典局って何? もう組織立って動いてるの?
“聖女リリーナによって聖星カミヤに導かれた使徒マーリンは、リリーナの父、アクリティオと出会った。使徒マーリンは言った「聖女リリーナよ。アクリティオの中に呪いが見える」。使徒マーリンのすべてを見通す目には、何者も隠れることはできない。”
ステータス魔法ね、ステータス魔法。その内皆にも使えるようになるから。すべては見通せないから。見える物だけだから。
“聖なる神言によって、たちまち呪いは浄化された。「心からの祈りに神言が答えてくれました」。神言とは神の言葉であり、魔法の言葉でもある。故に言葉には力が宿り、言葉は正しく使わねばならない。”
おっと、急に詩的になったな。言ってる内容としては嘘はだめよって感じか。教育的にはまっとうだと思う。
“使徒マーリンは、聖女リリーナと9人の乙女に神言を授けた。始めに乙女セレナが言った、「光あれ」。すると光が生まれた。”
これ大丈夫? 既存の宗教とバッティングとかしてない? 大丈夫? あ、そうですか。
「光あれ」とかちょっとやばい雰囲気あったけど、バッティングしていないなら大丈夫かな。
「続けます」
「あ、はい」
この後も、よくもまあそこまで脚色したなという聖典?の読み聞かせが続いた。
サーレ神聖王国のエル・サーレ教なんて邪教扱いだし、フィーネは俺と同じく使徒扱いで、マナちゃんは俺の子供だ、――それは合ってるか。
そしてなにより、セレナさんの扱いである。
「あの、マリーさん。セレナさんのことを聖処女というのはさすがに可哀そうでは?」
マナちゃんが俺の子供扱いということは、当然母親が必要になるわけで、そのポジションには現実と同じようにセレナさんが収まった。
しかしそれは、戸籍上の話であり、魔力的な関係はあったとしても、それ以外はない。言葉を飾らずに言えば、肉体関係はないってことだ。
それを聖典に落とし込む際にどうするかとなって、生み出されたのが『聖処女』というわけ。
こんなのスケールの大きい羞恥プレイだろ。
「いえ、これはセレナも納得の上です」
「え? ほんとに?」
「はい」
いや、ほんと? 無理やり言わせてない? セレナさんってマナちゃんのママになったときもそうだけど、嫌と言えないというか、なんでも受け入れすぎというか、とにかく懐が広いところがある。
それに甘えていては、セレナさんの負担になるだろうし、いい関係とは言えないだろう。
「というより、この案はセレナからのものですよ」
「???」
「始めは『聖母』とする案が出ていたのですが、それは恐れ多いとのことで、議論の中でセレナから出た案です」
なるほど。よくわからん。
聖母でも全く問題ないと思う。セレナさんがマナちゃんに接する態度はまさに聖母と言って差し支えないし、俺のことも献身的にサポートしてくれる。やはり聖母では?
「聖母で全く問題ないと思いますけど」
「一応、マーリン様のお言葉として編纂局に使えておきます」
うん。聖処女よりかは聖母の方がいいでしょ。
あれ、でも待てよ。聖母になると肉体関係を想起させるから、それが嫌だとか? ありえるか?
「セレナさんにも確認して、どうしても嫌なら聖母でなくてもいいですからね」
「そういうことはないと思いますが、セレナにも確認してみます」
「そうしてください」
ふぅ、これで一安心か。
あとは尾鰭が十重二十重に特に付け加えられ、脚色だからけで元の色がわからない程になっているが、もうどうにでもしてくれ。
俺には責任なんて取れない。コントロールなんて無理だ。
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