第十一話 魔法の検証をするぞ

 騎士団のところで昼食をとってから、再び研究所エリアへ戻ってきた。


 今回の目的は、ずばり魔法の検証だ。


 昨夜、アクリティオ様にも相談していたことなのだが、魔法を使っていく上で、検証作業は不可欠だ。


 認識を共有できた結果、魔法の検証と魔法使いの育成に関する組織がサイオンジ公爵家に新設されることになった。俺はその組織の顧問としての職を得た。やったぜ。


 昨日の今日でまだ準備も何もないが、ひとまずの活動場所として、一棟の研究所の使用許可を得たので、さっそく検証を行おうというわけだ。


「魔法の検証というけれど、何をするの?」


「まずは、魔法防御力がゼロであるときに魔法に与える影響の検証ですね。余裕があれば回復魔法についても検証したいと思います」


「魔法防御力は昨日言っていた件ね」


「はい。セレナさんのステータスを見て気付いたんですが、この世界の人たちは魔法防御力がゼロの可能性があります。また、魔法の効果にも大きな影響を与えている可能性もあります」


 デバフ魔法の効果が変化したり、効果時間が伸びていたやつだな。


 はっきり言って、弱いデバフ魔法でもアクリティオ様のように衰弱させられるとしたら、魔法に対して脆弱すぎる。


 まずは防御。ここをなんとかしないと安心できない。


「実験動物を用意してもらったので、まずは非侵襲魔法で検証していきましょう」


「マーリン様、記録はおまかせください」


「ありがとうございます、セレナさん」


 検証方法を説明しよう。


 今回用いるデバフ魔法は、対象の視界を遮る魔法の闇を発生させる、ブラインドサイトだ。視界を遮るだけで、ダメージを与える類のものではない。


 この魔法を魔法防御力がゼロの実験動物にかけた場合と、魔法防御力が1以上の実験動物にかけた場合とで比較する。ちなみに魔法防御力はバフ魔法で増やす。


 簡単だな。


 可能なら、アクリティオ様にかけられていた、ウィークバイタリティで試してみたいのだが……、実験動物の最大HPが低すぎて、あと俺の魔力が高すぎて即死する可能性が大だ。


「ではやっていきましょう。ブラインドサイト! そして、オープンステータス!」


 はてさて、結果は――、


―――――――――――――――

名前:検体1(魔法防御力0)

付与効果:ブラインドサイト(残り効果時間:■■秒)

―――――――――――――――


―――――――――――――――

名前:検体2(魔法防御力1,000)

付与効果1:スピリットガード(残り効果時間:6時間)

付与効果2:ブラインドサイト(残り効果時間:15秒)

―――――――――――――――


「違いがありますね」


「そうね。検体1の方は、お父様のときと同じような表示だわ」


「一度魔法をすべて解除して、検体を入れ替えてみましょう」


 入れ替えてみた結果は予想通りで、魔法防御力がゼロのとき、デバフ魔法の効果時間が『■■秒』になるというものだった。


「魔法防御力がゼロであることと、効果時間が伸びることには関係がありそうですね」


「お父様にかけられた魔法は、マーリンの世界なら十数秒で消えてしまう魔法なのよね? そう考えると、魔法防御力ゼロというのがいかに危険かわかるわ。防御力を上げる方法はどんなものがあるの?」


「根本的な解決策は魔法を覚えることです。そうすると、魔力の増加にしたがって魔法防御力も増加します」


「それができれば苦労しないのよね……」


「一時的なものなら、今使ったようなバフ魔法、これは効果時間の制限がありますね。もうひとつは装備品です」


 俺がこの世界に来たときに装備していた、『布の服』の魔法防御力が5あったように、装備品には魔法防御力を増加させる効果を持ったものがある。


「私がいくつか持っています。ですが問題は数に限りがあることと、この世界で作製・複製ができるのかということです」


「魔法防御力のある服、なんて見たことも聞いたこともないわね。作るとしたら材料は何が必要なのかしら?」


「簡単な装飾品なら鉄などの金属と触媒で作製できます。まあその触媒の材料が魔物からとれる魔石なんですが」


「また不思議な存在が出てきたわね。魔物に、魔石、ね」


 MFOではごくありふれた素材だったが、この世界には魔物や魔石は存在していない。少なくともサイオンジ家に情報はなかった。


 もしかしたら代用品があるのかもしれないが、いちいちそれを確かめていては膨大な時間がかかるだろう。


 また、仮に代用品が見つかったとしても、もうひとつ問題がある。それは、現状俺にしか作製できないということ。


 というのも、装備品を作製するときに、変幻魔法――その中の変化魔法――を使うのだ。魔法を使えるのが俺しかいないため、俺以外には無理だ。


 結局のところ、なんとか魔法を覚える、これが一番有力な解決方法なのかもしれない。


「魔法を覚えるといってもね。こればっかりはマーリンに頼るしかないわ」


「私も魔法使いの同士が欲しいですからね。なんとか考えてみます」


 趣味(同士がほしい)と実益(防御力)を兼ねてがんばって考えてみるか。


「マーリン様、まだお時間はありますが、回復魔法の検証はどうされますか?」


「続けてやりましょう。記録をお願いしますね」


「かしこまりました」


 さて、次は回復魔法の検証だ。また、HPが何を表しているかも合わせて検証する。


 回復魔法の主な効果は、HPの回復だ。ゲームだったMFOの世界では至極単純だったが、現実の世界ではどうだろうか。


 まずHPって何? 減るとどうなるの? 回復するとどうなるの?


 少なくとも、回復するとどうなるかがわからないと、怖くて人にかけられない。


 ちなみにだが、最終的に人に回復魔法をかける前に、言い方は悪いが人体実験をすることになると思う。これはアクリティオ様も同じ考えだ。


 新薬や新療法の治験をイメージしてもらえればいいな。


 被験者の募集をどうするかは今のところ未定。どうにもならないときは、死刑囚を使うとか? 死刑があるか知らないが。


 話を回復魔法の検証に戻そう。


 検証のために用意してもらった実験動物は、自切を行うトカゲっぽい生き物だ。自切っていうのは尻尾を切り離すあれ。


「自切を行うと、現在HPが減ったわね」


「よく見てください。最大HPもわずかに減少しています。興味深いですね」


「早く回復魔法を使ってみましょう。どうなるのか気になるわ」


「ヒーリング! おお、短いですが尻尾が生えてきました。ですが最大HPには変化がありませんね」


「最大HPを増やすような魔法はないの? あとは過剰に回復させるとどうなるかや、自切した尻尾の方を回復させるとどうなるかとか気になるわね」


「全部試してみましょう」


 楽しい! 実に楽しいぞ!


 まるでMFOでの研究生活に戻ったみたいだ。やはり同士はマスト、絶対に必要だな。


――――――

――――

――


「検証結果をまとめるわよ」


「ええ。初回としては十分なデータが集まりましたね」


 検証結果を説明しよう!


 回復魔法の効果は、ゲームのときとほぼ同じで、現在HPを回復させる効果がある。HPが回復すれば、そのHPが減少する要因となった外傷が治癒する。外的要因で内臓が損傷した場合や、疾病による損傷は確認できていない。これは次回以降の課題だな。


 HPの回復による外傷の治癒には2つの限界があった。一つは栄養的限界、もう一つは外傷の度合いによる限界だ。一つずつ説明しよう。


 栄養的限界とは、外傷の治癒に必要な栄養素が足りず、結果HPが回復しても外傷が治らないことをいう。


 繰り返し回復魔法をかけた個体が、極度の栄養失調になったことで発見に至った。栄養を補給してから再度回復魔法をかけると、問題なく外傷が治癒した。


 もう一つの外傷の度合いによる限界とは言葉通りの意味で、小さな傷ならば治癒できるが、大きな傷になってくると治癒できないことをいう。


 どこまで大きな傷になると治癒できなくなるのかは、最大HPの減少が目安になる。尻尾を自切した実験動物は最大HPが減少し、回復魔法によって尻尾が生えてくることはなかった。


 ただし、自切した尻尾の細胞が生きているうちに、尻尾を繋げるように回復魔法をかけると、尻尾が繋がるとともに最大HPが増加した。


「自切した尻尾の細胞が生きている間は、回復魔法で繋げることが可能なのですね。では尻尾がミンチになっていたらどうなるのでしょう?」


 これはセレナさんの言だ。


 ちなみに、ミンチにした尻尾は回復魔法ではもとに戻らなかった。


「過剰に回復させても問題はありませんでしたね。遺伝的変異も問題なさそうなんですよね?」


「はい、簡易遺伝子検査では異常は見られませんでした。詳細な検査結果は明日になります」


「ふう、なかなか楽しかったわね」


「お嬢様、そろそろ夕食の時間です」


「あら、もう?」


「続きはまた後日ですね」

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