女性から嫌われる体質だった俺が、本気でアプローチされている件について
恣迷
エピソード01:偉大なるキャプテンは悲劇のヒーロー
またこの夢で目が覚める。
それは決まってあのシーンだった。
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後半ロスタイム
『ゴォーーーール!!!!
『まさに執念ですね。気迫のこもった素晴らしいプレーでした。しかし宍戸君、膝の状態が少し気になります』
『確かに支えられながら引き上げていますね。おぉぉっと! ここで後半戦を終えるホイッスルです。勝負の行方はPK戦へと持ち越されました』
夏休み最初の金曜日
家族や全校生徒が見守る中、中体連サッカーの県決勝戦のグラウンド。3年生の俺たちにとって、負ければ最後の試合。勝てば全国大会への切符が手に入る。
『ここまで両チーム1本ずつ外して、東中学5人目のキッカーは、今日も2ゴール、1アシストと大活躍、東中学をここまで導いた偉大なるキャプテン、宍戸君です』
あの時、なんで俺は言わなかったんだろう。
もうハーフウェイラインからペナルティエリアまで、辿り着く事すら厳しかったのに。
『ちょっと左足を引きずるようにしていますね』
『今大会は必ず後半で退いていましたから、膝の状態が心配です』
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踏み込んだ瞬間、軸足である右膝が崩れたような感覚がして
『あっ!?』
『これは!!』
俺の蹴ったボールは、ゴールバーを越えーーーー
そこからどうなったのか、はっきり覚えていない。
気がついた時にはスタンドに向かって整列し、頭を下げていた。
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いつもここで目が覚めて、夢が終わる。
もう一年以上も前のこと。ここ最近は、悪夢に遭遇する回数も減ってきた。今では月に1回ぐらいだろうか。
あの決勝戦が終わってから、嘲笑うかのように毎晩、俺の元へと悪夢はやってきた。
そしてリアルは、それ以上にもっと残酷で。夢からもリアルからも逃れる為、あの時の俺は、何もかも捨ててしまったんだ。
大好きだったサッカーに別れを告げた。
『偉大なるキャプテン』と持て囃はやされ、『悲劇のヒーロー』なんて比喩されることがないように。
悪夢が俺の元へ訪れることが、無くなるようにと。
地元を離れたくて、遠くの高校へ進学をした。
眠ることが怖くなり、外に出るのも嫌になった俺は、勉強にだけ打ち込んだ。こんな俺でも受験可能な私立高校を目指して。そして、県内でも高い偏差値の高校を志した。
遠くの高校へ通う理由が、親を説得できるようにと。
スマホを一度解約して、新規に契約をし直した。
俺は……全てをリセットしたかったんだ。かつての仲間さえ、信じられなくなってしまっていたから。
みんなが、俺なんかのことを、忘れてくれるようにと。
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こんな俺は高校2年の宍戸大地。
俺は現在、地元から特急で3時間以上も離れた街で、親に我儘わがままを言って、寮ではなく一人暮らしをしながら高校へと通っている。
誰も知らない土地で過ごした1年ちょっと。今の生活に心地良さを感じて。過去を思い返せるようになった俺に残っているのは、大きな大きな後悔だけ。
『俺、どうかしてたんだ』
『みんな、ごめん。本当にごめん』って
そう伝えられる相手は、もう……いないのに。
『あとがき』
解説と実況の続き
『いやぁ東中学、残念でしたね』
『彼が全国で活躍する姿を見てみたかったのが本音です。ただ、ここまでチームを導いた彼のキャプテンシーは、賞賛に値すると思いますよ』
『宍戸君は偉大なるキャプテン、そう呼ばれています』
『県で唯一の15歳以下日本代表候補に選ばれている選手でしたね。将来が楽しみです』
『ところで、この物語はサッカーと特に関係ないラブコメらしいですよ。今のところは』
『ということは』
『そうです。私たちの出番は、ここで終了です』
『それではみなさん、最後までお付き合い頂き有難う御座いました。またお会いしましょう』
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