エピソード28:早く早く!
「いい景色ね」
「あぁ、ここからの景色は割と好きなんだ……って、いつから?」
椎名さんとランチの約束をした俺は、集合場所を校舎の屋上に指定した。
中庭や教室でも良かったんだけど、今朝の件もあるし、みんなの見せモノになってしまうから。
何よりもここからの景色を、俺は気に入っている。
「宍戸さん、待った?」
「全然。今来たところだよ」
「ふ〜ん」
「いや、ちょっと待ったかな」
「ふふふ、お待たせ」
椎名さんは人の心が読めるというか、嘘が通じないというか。
「敵わないな」
『えへへ』っと、満面の笑みを俺に返す椎名さんは、今にもスキップし出しそうほど、上機嫌で。
転落防止用のフェンスに腕を乗せ、景色を眺めていた俺の横へ来て……
「えい!」
「ちょ、椎名さん?」
椎名さんは、なぜか俺の眼鏡を奪うように外す。
「やっぱりカッコイイよ……宍戸さん」
「か、揶揄からかわないでよ」
『本気だもん』そう呟きながら、ポツンと屋上に設置されている、ちょうど二人掛けぐらいのベンチへと腰を下ろしていた。
「屋上に入れるって、よく気がついたね」
「高いところが、昔から好きなんだよ」
「ヤンチャだったんだ」
「そういう訳じゃないけどさ」
なんだろう? 椎名さんとの会話が、妙に心地よく感じる。
学校のマドンナ的な存在の彼女は、いざ接してみると全然印象が違う。普段は相沢さんと一緒にいることが多いからか、ツンとしてクールな印象は否めない。
それは誰も寄せ付けないオーラを纏っているようにも思う。
いつも丁寧な振る舞いは、誰にも心を開いていないような、どこか距離感を感じるような。それを彼女が望んでいるようにも映った。
でも実際は、表裏のないストレートな表現で。無邪気な笑顔は、幼い少女のよう。いつも笑ってくれるから、なんだか俺まで嬉しくなって、癒されるのかも。
「宍戸さん、早く早く!」
ベンチに座っている彼女は、ニコニコしながら俺を手招きしている。
「ごめんごめん」
「はい、宍戸さんの分」
「ありがとう。すげぇ嬉しいよ」
「味は……そんな期待しないで」
「おぉぉぉ!!」
手渡されたのは、お弁当箱とおにぎりが2つ。
お弁当箱の蓋を開けると、おかずが綺麗に盛り付けられていた。
「宍戸さん、大袈裟だよ。恥ずかしい」
そう口にしながら、椎名さんは両手で覆うように顔を隠していた。
『あとがき』
ひとりぼっちの小栗君
午前の授業終わりを知らせるチャイムとほぼ同時に
「悪い、小栗! 今日の昼は予定あるんだ」
「お、おう……。そ、そっか」
『すまん、じゃあ!』と、顔の前に両手を合わせて、宍戸は消えるように教室から出ていってしまった。
「おぐりん、あれ? 宍戸君は?」
「宍戸君、戻ってくる?」
あの騒動以来、教室の雰囲気が変わった。
女子生徒から、何かと宍戸について聞かれることが多くなった。
「あっ、小栗、今日は宍戸と一緒じゃねぇの?」
「今日こそ俺たちと昼を一緒にと思ったんだけどな」
それは女子生徒に限ったことではなくて。みんなが宍戸に興味を持ち出しているような、そんな印象。
あれ? 俺は誘われないの?
お〜い! 俺、一人ですけど……
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