エピソード27:どう思われてるんだろうね?


 AM7時ちょっと過ぎ。

 


 準備を終えた俺は、玄関のドアを閉め鍵をかける。

 

 学校までは歩いて20分ほどの平坦な道。ただ一人、黙々と学校へと続く道を進んでいく、そんな俺の高校生活。



 の、はずだったんだけど。


 学校まで残り半分ぐらいの曲がり角で、偶然のような、そうじゃないような。



 ・・・・・・・・・・



「宍戸さん、おはよう」


「し、椎名さん?」



 ちょっと驚いた俺に、『ん〜』っと、少しだけ前屈みになって、顔を下から覗き込んでくる椎名さん。


 透き通るような白い肌に良く似合う、太陽の光をより眩しくさせるようなブロンドヘアー。


 ライトブルーにも見えるグレーの瞳に見つめられ、まるで異国に迷う込んだような、そんな感覚に浸る。



「あっ、おはよう、椎名さん。今日は早いんだね」



『もぉ〜』っと、少し視線を下げた彼女から



「お友達を……待っていたの」



 それって……



「もしかして、俺を?」


「もしかしなくても、宍戸さんを」



 椎名さんが笑顔でそう答えるから、思わず俺も笑みが溢れるように自然と、『一緒に学校行こうか?』って、口にしていた。



「うん!」



 思わず女性を誘ってしまったという不安よりも早く、凄く嬉しそうな椎名さんの声が俺に届いて。今更なんなんだけど、ホッとしている自分がいた。



「宍戸さんは、いつも早いんだね?」


「そうかも」



 早い時間帯の方が……人に会わないから。



「少ないもんね、人通りが」



 椎名さん、やっぱり人の心が読めるのか!?



 一瞬、椎名さんの歩くペースが上がり、ピタッと歩を止めた。


 そのまま俺の方へと振り返えりながら、『んふふ。私もそうだったから』っと微笑み掛けてくる。



「椎名さん」


「最初は視線が気になって。だけど人が少ない分、知らない男性から声を掛けられることが多くなったの。人が多い時間の方が、安心するようになったから」



「それで視線に?」


「慣れちゃった」



 幼い子供のように、椎名さんはどこか無邪気で。その容姿とのギャップに、俺は本当の椎名さんを見ている、そんな気がして。



「なんかさ」


「ん?」



「なんというか、景色が違って見えるというか」


「ふふ、どうしたの、宍戸さん。急に詩人みたい」



「いや……いつも下を向いて歩いてたからかな」



 結局俺は、逃げてたけなんだ。逃げ出してここにきたはずなのに。ここでも俺は、ずっと逃げてたんだ。



「…………た?」


「え?」



「なにか、落ちてた?」


「あぁ……。なんにも、なんにも落ちてなかったよ」



「そっか」


「捨てたと思ってたものがさ。違ったんだ。捨てたんじゃなくて、ただ逃げてただけだったから。笑っちゃうだろ?」



「ううん。だって、莉乃ちゃんも、うちの甥も。宍戸さんが前を向いていたから、助けてもらえたんだもん」



 そう口にした椎名さんは、クルッと前を向いてゆっくりと歩き出した。


 その後を追うように、俺も歩を進めるとすぐに『あっ、宍戸さん』っと少し大きな声で椎名さんが、呼びかけてくる。



「どうかした!?」


「たくさんおしゃべりしたから、もうみんなが」



「ホントだね」


「気になる?」



 俺も椎名さんみたいに、ちょっと悪戯っぽく



「慣れちゃった」


「もぉ! 宍戸さんったら」



 軽く頬を膨らませた彼女は、やっぱり幼い少女みたいで。



 「そ、そんなに見つめられると……」


 「慣れてるんじゃないの?」



 俺からの視線を外すようにプイッと横を向きながら、『意地悪』っと呟かれる。



 ハッ! 女性に嫌われるてきたのって、こんな風に俺が悪ノリするからだったのか? 


 臭いだけじゃなかったのかも。



「楽しいな」


「え?」



「誰かと、一緒に学校へ行くことなんて無かったから」


「それは……俺もだよ」



 俺、嫌われてないみたいだ。


 って、さっきは視線が気にならないとは言ったものの、凄いな。みんなが見てる。



 椎名さん、学校のマドンナ的存在だからな。相沢さんも美人だけど、小栗がいるから。人気ってことでは、椎名さんなんだよね。


 

 「約束、覚えてる?」


 「お昼?」



 「うん!! じゃじゃ〜ん!」


 

『宍戸さんの分も作ってきちゃった』っと嬉しそうに話す椎名さん。


 さっきよりも声のボリュームが上がったからなのか、女子生徒たちがこちらを見ながら、コソコソ話しているがの目に映る。



 椎名さん、女子にも人気なのか? 



「視線の先、私じゃないよ」


「はっ?」



 ホントだ。みんな、俺を見てる。男子生徒に至っては、殺気を帯びてる気がするし。


 もしかして、椎名さんと一緒に登校したから、勘違いされてるのか?



 いや、ないな。


 ないない。



「ねぇ、宍戸さん。私たち、どう思われてるんだろうね?」




 椎名さん、本当に人の心が読めるんじゃ……



       『あとがき』


それから俺は



「宍戸君、まさか、椎名さんと付き合ってるの?」

「今日、一緒に登校してたよね!?」


「宍戸、俺も見たぞ!! 椎名さん、めっちゃ笑顔だったじゃん!!」

「どうなんだよ!?」


ダァーー!! なんなんだ、こいつら。


席に着くなり、突然数人の男女に取り囲まれた。


「いやいや、落ち着けよ。俺なんかが、そんなことある訳ないから」


「そ、そうだよな。宍戸と椎名さんがな」

「おうおう、そうだよな」


「えーー!? でも、あの一件から、宍戸君の評価って急上昇だよ?」

「じゃあ、宍戸君って、彼女いないの?」


「なんで宍戸なんだよ!!」

「宍戸、どういうことだよ!!」


ダァーー、うるさい。マジでたまんない。小栗おぐり、小栗はまだかな。


小栗ぃぃぃ……

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