エピソード啓二&美香:帰り道

 

「まだ空が明るいね」



 宍戸のバイト先である喫茶店を出て、美香を家まで送り届ける為、二人で歩く帰り道。


 時刻は18時を過ぎているのだが、うっすらと夕焼け雲が見えるぐらいで。



「凄く落ち着くというか、雰囲気の良い喫茶店だったな」


「そうだね。今まで入った中で、一番好き」



「そうなの?」


「うん。お洒落なカフェは、なんだか落ち着かなくって」



「そっか。無理させてごめん」


「あっ、そうじゃないの。私は啓二となら……どこでも楽しいよ?」



 そう美香は、繋いだ手を一度離してから、俺の左腕を両手で抱きしめてくれた。


 人通りの少ないこの道だからなのか? 俺の肩にちょんと頭を乗せるようにして、甘えてくれる。



 俺は美香の笑顔が大好きなんだけど、それから


 今みたいに、甘えてくれる美香も大好きなんだ。



~~~~~~~~~~



「相沢さんて、美人だけど冷たそうじゃない? 正直、話しかけにくいよね」


「相沢さん、ツンとしててなんか怖いじゃん」



 美香の話題になると、必ずと言っていい程、耳にするその言葉。


 でもみんな、本当の美香を知らないんだ。



 知ってるか? 表情が豊かな訳じゃないけど、笑うと凄く可愛いんだぜ。


 冷たそう? こんな優しい女性を他に知らないけど。



 美香が見た目通りなのは、しっかりしてるってことだけなんだよ。



~~~~~~~~~~



「ねぇ」



「ねぇ、啓二ってば」


「ご、ごめん」



「また宍戸君のこと考えてたの?」


「違うよ」


「嘘つき」


「本当だって」


「じゃあ、何を考えてたの?」


「美香のこと」



「えっ?」



 そう驚いた美香は、俺にぴったりとくっつき『私はずっと、横にいるんだけど?』と俺の大好きな笑顔を向けてくれる。



「その笑顔が、大好きなんだ」


「もぉ、恥ずかしいよ」


「美香はホント、可愛いな」


「ふふふ、もぉ。でも、嬉しいぃ」



 その言葉が俺も嬉しくて、思わず抱きしめた。



「ちょっ、ちょっと啓二? 人が来ちゃうよ」


「ずっと、ずっと俺の横にいてくれないか?」



「プロポーズ……みたいなんですけど?」


「それでも、俺はいいけど?」



 二人にとっては進まない、そんな帰り道。



※ エピソード08のアフターストーリーです。

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