第20話 大聖堂
「シスター、お返しします」
「ありがとうございます。
この子わんぱくで、すぐ逃げ出しちゃうんですよ」
「メェ~」
ルヴィアが子山羊をシスターに返す。
シスターに頭を撫でられて子山羊は気持ち良さそうに鳴いた。
なんだろう……シスターから凄く母性を感じるぞ。
「あっ、申し遅れました。
リリィといいます。貴方達は旅のお方ですか?」
「いえ、僕は【勇者の子】ユーリです」
「彼のパーティーのルヴィアです」
「まぁ、勇者様とお仲間様だったんですか」
勇者と名乗ると、シスター・リリィは驚く。
けどすぐに柔かい笑顔を浮かべて。
「では、これから大聖堂に行かれるのですか?」
「はい、そのつもりです」
「でしたら、リリィがご案内しますね」
「いいんですか?」
「勿論です、少し待っていてください。
すぐにこの子を戻してきま――ぐえ」
「「あっ……」」
あっちゃ~、また躓いて転んじゃったよ。
幸い子山羊は無事だけど、シスターってドジっ子なのか?
リリィさんは起き上がると、僕達に謝ってから子山羊を戻しに行く。
大丈夫かな~と心配しながら待っていると、リリィさんが帰ってきた。
「お待たせしました」
「シスター、大丈夫ですか?」
「ふぇ?」
「いやその、さっきより服が汚れているので」
帰ってきたリリィさんの服が草や土などで汚れていた。
この僅かな間に何があったんだとルヴィアが心配すると。
シスターは恥ずかしそうに訳を話す。
「それがその~子山羊を戻しに行ったらですね。
沢山の山羊達にもみくちゃにされてしまいまして。
あっでも大丈夫ですよ! 身体だけは頑丈なので!」
「「そ、そうですか」」
『能天気な子ねぇ』
ムンッと力こぶをつくってはにかむリリィさん。
多分、彼女のドジっ子属性が身体を強くしたのだろう。
アスモの言う通り能天気というか、明るい性格な人だ。
「さぁ行きましょう。ついてきてください」
元気よく先導してくれるシスターだったが。
大聖堂に到着するまでに二回は転んでいた。
ドジっ子にしても転びすぎじゃない?
「着きましたよ」
「これが大聖堂……」
「素晴らしいな……」
眼前に聳え立つ大聖堂を見上げる僕とルヴィア。
荘厳で、立派で、気付いたら二人で祈っていた。
ただの建物なのに聖なる力が満ち溢れているというか。
見ているだけで心が洗われるようだ。
「ふふ、ここは聖域なんですよ。
大聖堂には太陽神様のご加護がありますから」
「そうなんですか」
「はい。では中にお連れしますね」
リリィさんの後についていこうとした時だった。
「『びゃああああああああああ!?』」
突如、雷に打たれるような激痛が襲い掛かってくる。
なんだこれ、どうなってんの!?
「ユーリ!?」
「ど、どうされました!?」
ヤバい、このままじゃ本当に死んじゃう。
命の危機を感じていると、アスモに一歩下がれと言われた。
言う通りに下がると、少しだけ楽になる。
『ユーリ、ルヴィアにキスして!』
(こんな時に何言ってんだよ!)
頭おかしんじゃないのか!?
『いいから早く!』
あ~もう分かったよ!
心配してくるルヴィアの両肩に手を置く。
「ルヴィア、ごめん」
「はっ? 何言って――んん!?」
「はわわわわわわ!?」
一言謝ってからルヴィアとキスをする。
身体を襲う痛みが徐々に引いていき、なんとか持ち直した。
「おいユーリ、いきなり何をする!?
それもシスターがいる前で、はしたないぞ!」
「ごめん……アスモがそうしろって」
「アスモが?」
キョトンとするルヴィア。
ひとまずアスモに訳を聞いてみよう。
(それで、何でルヴィアとキスしたの?)
『大聖堂に結界が張られてあったのよ』
(結界?)
『ええ、魔族を祓う光の結界よ。
だからユーリと私は結界に入った途端に痛みが走ったの。
ユーリの中に魔王の私がいるせいね』
(そういうことだったのか……)
痛みが襲ってきたのは結界の効果。
僕は人間だけど、アスモが中にいるからダメらしい。
けど、ルヴィアとキスして良くなったのは何でだ?
『房中術で闇の性質を薄くしたのよ』
(そうなのか。
でもさ、それじゃあ僕は中に入れないじゃん)
『私がユーリの奥深くに入れば大丈夫だと思う。
少しピリピリすると思うけど、そこは我慢して』
(分かった……)
アスモを信じよう。
もし入れなかったら、僕は魔族扱いされてしまうかもな。
「ユーリ様、大丈夫ですか?」
「はい……もう大丈夫ですから行きましょう」
「おいユーリ、後でちゃんと説明してもらうからな」
「も、勿論だよ」
突然キスをされて怒っているルヴィアを宥める。
多分アスモ関連のことだと察してくれたのだろう。
シスターの前で話す訳にはいかないから、後でにしてくれた。
彼女の気遣いが助かる。
(ふぅ、大丈夫だな)
ごくりと唾を呑んで結界の中に入る。
ピリリと肌が痺れるくらいで、さっきのように痛みは襲ってこない。
心の中でアスモはどうだと聞いてみたけど反応がない。
それほど奥深くに避難しているのか。
というか、奥に入るとはどういう仕組みなんだろう。
「静かだね」
大聖堂の中は広々としているが、寂しいくらいに物静かだった。
外にはシスターとブラザーが居たのに、中には全然見当たらない。
不思議に思っていると、リリィさんが教えてくれる。
「基本的に大聖堂には神父様しかいなんです。
ただ、礼拝の時間になると礼拝堂に皆集まりますよ」
「へぇ」
感心していると、一人の神父を見つける。
神父に気付いたリリィさんが声をかけた。
「大司教様」
「おや、シスター・リリィ、どうしたんだい?」
「勇者様方をお連れしました」
「それはそれは、案内ありがとう」
リリィさんにお礼を告げる神父。
大司教と呼ばれた男性は、初老のおじさんだった。
柔和な顔立ちで、頭の天辺がハゲている。
神父服に包まれる身体は、すこしぽっちゃりだった。
確か大司教って、聖都だと一番偉い人だったよな。
「私は大司教のダニエルです」
「【勇者の子】ユーリです」
「ルヴィアです」
挨拶を交わすと、大司教は不思議そうな顔を浮かべる。
「【勇者の子】……ユーリ。
はて、どこかで聞いたことがある名前ですね」
「僕は【希望の勇者】ギルバートの子です」
「ああ! 噂程度には耳にしておられましたよ。
そうですか、貴方が“勇者の子”ですか」
「はい」
「魔王を討ち倒した勇者。
そして【聖女】システィと子に出会えるとは。
主のお導きに感謝を、サーラム」
僕が勇者の子であると知った大司教。
だけど彼は「あ~落ちこぼれか」と侮蔑したりはしなかった。
珍しいな……勇者の子と聞いて嫌な顔をしない人は。
やはり聖職者だからだろうか。
「僕達はブレイバーズから任務として参りました。
教官――【剛剣の勇者】ハラルドから。
魔族から聖女候補を護衛せよという任務を承りました」
「それはそれは、遠い所からご苦労様です」
「大司教、聖女候補から聖女が誕生すると。
神から神託を受けたのは本当ですか?」
ルヴィアが大司教に質問する。
彼は「本当ですよ」と言い続けて。
「聖陽教国におられる教皇様のもとに神託が下ったのです。
各国にいる敬虔なシスターの中から新たな聖女が誕生すると。
そしてここ。
アルカンゲヘナには三人のシスターが聖女候補に選ばれました。」
「三人……ですか」
「はい。そこにいるリリィも聖女候補に選ばれた一人ですよ」
「「えっ?」」
二人で間抜けな声が出てしまった。
背後を振り返ると、リリィが申し訳なさそうに告げる。
「実はリリィも聖女候補に選ばれた一人なんです」
ええええ!?
そうなのぉおおおお!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます