第30話 凹




 なんだろう、とても気持ちいいな。

 あたたかい物に包まれているというか。

 いや、僕が包んでいるのかも。


 両手が包んでいるものはなんだろうと。

 確かめるように軽く握る。


「んっ」


 張りがあってスベスベして。

 柔らかいものを左手で握ると。

 淫靡な声が左耳に響き渡たった。


 今度は右手だ。

 大きくてふよふよした物を握ると。


「ユ~リ~もっと強く~」


 ダラしないアスモの声が聞こえた。

 ん? アスモの声?

 何かおかしいと、ぱっと目が覚める。


「うわぁ……」


 状況を確認した僕はため息を吐いた。

 僕はベッドに寝ていて。

 右側にはアスモが、左側にはルヴィアが寝ている。


 そして三人共全裸だ。

 しかも両手で握っている柔らかい物の正体は。

 アスモとルヴィアの胸だった。


「まぁ、うん。そういう事だよね」


 あり得ない状況でも取り乱しはしない。

 だってこの光景は見慣れてしまっているから。

 多分二人は僕の為に房中術をしてくれたのだろう。


 アスモが出ているという事は。

 恐らくもう夜なのだろう。


「起きたのか、ユーリ」

「もう少し寝ていても良かったのよ」

「何だ、二人は起きてたの」


 てっきり寝ていると思ってたけど。

 どうやら二人はずっと起きていたようだ。


「とりあえず、色々と説明してもらっていい?」


 知らない魔法をシャドウスピリットに使ってから。

 記憶が無いんだよね。

 あれからいったいどうなったのか。

 大司教は、魔族はどうなったのか。


「そうだな。

 まずは私から説明しよう」


 ルヴィアが説明してくれる。

 僕が大聖堂に向かった後も。

 他の勇者達と共に魔族の進行を喰い止めていた。


 太陽と月が完全に重なった時。

 魔族の凶暴性がピークに達したが。

 皆で力を合わせてなんとか持ち堪え。

 日蝕が終わると同時に魔族が現れなくなった。


 死者は出なかったそうだ。

 流石は勇者達と感心する。


「ごめんね、ルヴィア。

 大変な時に一人にさせてしまって」

「謝ることはないさ。

 ユーリとキスして力を貰ったからな。

 私達は離れていても繋がっている」

「ルヴィア……」


 なんて嬉しいことを言ってくれるのだろうか。

 ダメだ……益々好きになっちゃう。


「はい、イチャイチャしない。

 今度は私から説明するわ」

「あっうん、お願い」


 ルヴィアと見つめ合っていると。

 アスモが横入りして説明してくれる。


 シャドウスピリットを倒した後。

 僕は魔力欠乏症になって倒れたそうだ。

 それでリリィが民家まで運んでくれたらしい。


 シャドウスピリットに寄生されていた大司教は。

 生きてはいるが目を覚ましていない。

 魔法を使えない手錠を嵌めて牢屋に入れているそうだ。


「ねぇアスモ。

 シャドウスピリットを倒した魔法は何だったの?」

「あれは混沌魔法よ」


 混沌魔法?

 聞いたことないけど、そんな魔法あるのか?


「私の種族しか知らない禁忌の魔法よ。

 光と闇の魔法を交じり合わせ。

 混沌の炎によって万物を消滅させるの。

 その威力は魂をも焼き払うわ」

「だから精神体のシャドウスピリットを倒せたのか。

 凄い魔法だね」

「ええ、でも一つ間違えれば。

 ユーリが消滅してしまう恐れもあったわ。

 魂ごとね」


 えぇ……。

 魂もなくなるってどうなるんだろう。

 あの世にいけなってことなのかな。


 うわぁ……想像しただけでも恐いな。

 上手くいって良かったよ。


「光と闇の性質がある。

 ユーリだからこそできた魔法よ」

「そっか……じゃあアスモのお蔭だね?」

「えっ?」


 キョトンとするアスモに。

 僕は笑顔を浮かべて告げる。


「だってそうでしょう?

 アスモが僕に居てくれたから。

 混沌魔法を使うことができたから。

 リリィを守ることができた」

「ユーリ……」

「だから、ありがとう。アスモ」

「あんもう! 大好きよ!」


 心からお礼を伝えると。

 アスモはキスの雨を降らしてきた。

 そのまま押し倒そうとしてくる彼女を。

 ルヴィアが止める。


「おい待てアスモ!」

「あんもう、邪魔しないでよ!」

「何言ってるんだ!

 まずは彼女と決めていただろう」

「はぁ……仕方ないわね」


 うん? まずは彼女?

 それってどういう意味なんだ。


 意味が分からず困惑していると。

 ルヴィアが身体にタオルを巻いて。

 一旦部屋の外に出て行ってしまう。


「入っていいぞ」

「……」

「リリィ……」


 ルヴィアが連れてきたのはリリィだった。

 彼女は恥ずかしそうに俯いている。


 えっ、何でリリィを連れてくるの?

 意味分からないんだけど。

 っていうか、アスモがいるのにいいの?


「リリィには魔王と房中術のことを全て話してあるわ」

「あっそうなんだ」


 なら心配することもない……か。

 ってまた僕が寝ている間に話が進んでるなぁ。

 納得できないでいると、アスモは爆弾を放ってきた。


「ユーリにはリリィと房中術をしてもらうわ。

 キスじゃないわよ。アッチの方よ」

「はぁああ!? ちょ、何言ってんのさ!

 頭おかしんじゃないか!」


 何で僕がリリィと房中術するのさ!

 理由は何なのさ、理由は!


「リリィは今、封印が解けてとても危険な状態なの。

 強大な光の魔力が溢れ出て身体を蝕んでいる。

 だからユーリが彼女と交わって。

 闇の魔力で塞ぐように、もう一度封印しなきゃダメ」

「封印? よくわからないけど。

 そ、それってさ……。キスじゃダメなの?

 無理にシなくてもいいんじゃない?」

「キスだけじゃダメよ」


 頑なに言ってくるアスモ。

 キスじゃダメって本当?。


 リリィは聖職者なんだよ?

 そういう事をしちゃダメなんじゃないのか。


「ユーリ、私はふざけてる訳じゃないの。

 リリィの命に関わることよ」

「そうは言ってもさ……」


 そもそも、リリィはどう思っているんだろうか。

 僕とシても平気なのか?


 本人に気持ちを確かめる為に。

 俯いているリリィに問いかけた。


「リリィはどう思ってるの?」

「リリィは……」


 リリィは顔を上げ、真剣な眼差しで口を開いた。


「リリィはユーリ様としたいです」

「本当に?」

「はい。でも、助かりたいとかではありません。

 本心から、リリィはユーリ様としたいのです」

「でも、リリィは聖職者でしょ? いいの?」

「リリィはユーリ様と口づけを交わしました。

 その殿方となら。

 契りを交わしても主はお赦しになるでしょう」


 そういうもんなのか?


「それに、リリィは心から。

 ユーリ様をお慕いしております」

「リリィ……」

「ねぇユーリ。リリィが覚悟を決めているのに。

 貴方はその想いを踏みにじるつもりはないわよね」

「……うん」


 僕だってリリィを助けたい。

 でも、彼女の気持ちを無視してまでシたくはなかった。

 けど、リリィが本心からそういうのなら。

 僕はもううじうじしたりはしない。


「ふふっ、後は二人に任せましょうか。

 邪魔しちゃ悪いわ。行きましょうルヴィア」

「そうだな、頼んだぞユーリ」

「ユーリ、優しくしてあげてね」


 そう言って、アスモとルヴィアは部屋を出ていく。


「「……」」


 緊張しているのか、リリィは身体を震わせていた。

 なら、僕がリードしなくちゃ。

 ベッドから立ち上がって、リリィに近付く。

 彼女の身体を優しく抱きしめた。


「大丈夫、恐くないよ」

「ユーリ様……」

「「……」」


 僕達は見つめ合う。

 そして、僕から優しくキスをした。


「「んっ」」


 唇が重なる。

 リリィの唇は柔らかくて、気持ち良くて。

 我慢できず、強く求め合う。


「「はぁ……はぁ……」」


 何度も唇を交わした後。

 呼吸を求めるように唇を離した。


 全身が燃えるように熱く。

 興奮で頭がどうにかなりそうだった。


 それは僕だけではなくリリィも同じで。

 息遣いが荒く、頬が紅潮していた。


「脱がすよ」

「はい……」


 許可を得てから。

 少しずつ修道服を脱がしていく。

 そして、リリィの身体が露になった。


「……」


 ごくりと生唾を呑み込む。

 なんといえばいいんだろうか。

 とにかく、彼女の身体は凄かった。


 どちらかというと。

 アスモとルヴィアはほっそりとした体型だ。


 だけどリリィは肉付きが良かった。

 太っているという訳じゃない。

 なんというか、男が好きな妖艶な身体。


 特に、その大きな二つの果実。

 アスモとルヴィアも十分大きいけど。

 リリィのそれは比べようもないくらい大きい。


「あれ……」


 だけど、一つだけ気に箇所があった。

 ある筈のアレが無い。いや……あるか。

 ただ、隠れているだけだった。

 というか、埋もれていた。


「あの……恥ずかしいです」


 マジマジと見ていると。

 両手で胸を隠してしまう。


「変……ですよね。

 リリィは普通じゃないんです」

「ううん、全然そんなことないよ」

「あっ……」


 僕はリリィの手を退けて。

 もう一度それをじっくり見た。


「うん、可愛いよ。リリィ」

「本当……ですか?」

「本当だよ」


 信じられないというのなら。

 証明するべく、リリィの身体にキスをする。

 それから彼女をベッドに連れていき。


「ユーリ様……。

 もう一度キスをしてください」

「うん」


 もう一度、優しくキスをした後。

 僕等は愛し合った。

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