第23話 貞操帯
「修行場は聖都の近くにあるんだね」
「はい。聖都の中では戦いを禁じられています。
なので、修行場は聖都の外にあるのです」
アスモとルヴィアと激しく愛し合った翌日。
朝から大聖堂に集合した僕等は。
他の勇者達やシスター達と聖都の外に向かっていた。
聖都は断崖絶壁に囲まれていて、出入り道は一つしかない。
その断崖絶壁が、魔族から侵入されない壁になっているそうだ。
そしてシスター達の修行場は、細い道を少し歩いた所にある。
「よく来られました。
シスター・ロゼ、グレイス、リリィ。そして勇者様方。
私は聖女候補の指導を務める神父のサザーランドと申します」
「「よろしくお願いします」」
サザーランドさんは四十代ほどの神父だった。
彼がシスター達の修行を見ている間。
僕達は近くで護衛することになっている。
「まずは戦闘訓練から始めましょう。
各自、よろしいですか?」
「「はい」」
修行場はブレイバーズとよく似ていた。
広い訓練場があって、様々な武器が揃えてある。
シスター達は自分に合った武器を手にして訓練を始めた。
「へぇ……」
「聖職者なのに中々やるな」
「そうだね」
ロゼはレイピア、グレイスは弓を使っていた。
二人共戦いとは程遠い聖職者なのに、中々筋が良い。
武器に扱い慣れている二人に感心していると。
神父がその理由を教えてくれる。
「レイピアと弓は昔から祭事に使われていて。
シスター達も祭事の為に訓練をしております。
そしてロゼとグレイスはそれぞれ一番優秀な成績を出しているのです」
「そうなんですか」
だからあんなに扱いが上手いんだね。
聖女候補に選ばれることなだけはあるってことか。
「ほほう、やるじゃないか!
いいぜいいぜ! もっと熱くなれよ!」
「一々暑苦しいんだよ!」
「弓は風を読むことが大事です」
「わかりました」
グレンとその
クールとその仲間がグレイスに弓の指導をしている。
神父が指導するのかと思っていたけど。
勇者が指導してもいいらしい。
というよりその方が良いんだとか。
そのままシスター達は彼等のパーティーに加わるかもしれないからだ。
(よし、僕もリリィの訓練を手伝おうかな――っ)
「きゃあ!」
「危ないユーリ!」
「うわぁ!?」
リリィの方に顔を向けたら、黒い物がすっ飛んでくる。
驚いて尻もちをつくと、ドスンッと黒い物が目の前の地面にめり込んだ。
「危なかった……これなんだ? 鉄球……?」
「だ、大丈夫ですか!」
黒い物の正体が鉄球であることに気付くと。
リリィが慌てて駆け寄ってくる。
「ごめんなさい、ごめんなさい!
手が滑ってしまって、お怪我はありませんか!?」
「うん、僕なら大丈夫だよ。それよりこれ……」
何でリリィが鉄球を使っているのかと疑問を抱いていると。
神父がため息を吐きながら教えてくれる。
「リリィはとにかく不器用で、運動能力もありません。
レイピアも弓も不向きなのです。
ですが彼女は腕力だけは人一倍ありますので。
その力を活かす武器であるモーニングスターを使っています。
これなら、不器用なリリィでも扱えますから」
「へ、へぇ……そうなんですか」
モーニングスターか。
持ち手から鎖が繋がっていて、先に大きな鉄球がついている。
確かに腕力があるリリィだからこそ扱える武器だろう。
シスターが使うにしては凶悪な武器だけど。
「おいおい!
勇者がシスターに殺されるとかダサいぜ!」
「こちらの邪魔だけはしないでくれよ」
「リリィ、あっちで一緒に訓練しようか」
「……はい」
ここに居ると雑音があって集中できない。
それにリリィがまたミスしたら、彼等の迷惑になるのも否定できない。
だから場所を変えることにした。
「ごめんなさい。
リリィのせいでご迷惑をおかけしてしまって……」
「謝ることないさ。誰だって最初は上手くいかないもんだよ」
「そうだな。それにさっきの破壊力は凄かった。
もし扱えるようになれば、リリィは凄いシスターになれるぞ」
落ち込んでいるリリィを僕とルヴィアが励ます。
ルヴィアの言う通り、モーニングスターの威力は凄まじい。
人一倍腕力があるリリィだからこそあれを使えるんだ。
「ありがとうございます。
リリィは何をやってもダメダメですが。
これならリリィでも使えると大司教様が言ってくれたのです。
リリィも沢山練習して、皆様のお役に立ちたいです」
「そっか、なら一緒に頑張ろう」
「私達がとことん付き合うぞ」
「ユーリ様、ルヴィア様……。
ありがとうございます! 頑張ります!」
やる気を出してくれて良かった。
それにしても、シスターも戦わなくちゃいけないんだよな。
母さんはどんな風に戦っていたんだろう。
『システィは射撃の名手だったわ』
(射撃? ってことは弓使いだったの?)
『いいえ違うわ。
システィは弓よりも速い銀の鉛玉を飛ばしてきたの。
そら~もうおっかなかったわよ』
銀の鉛玉か……どんな武器を使っていたんだろう。
一度でもいいから見てみたかったな。
◇◆◇
「三人共、心を静めて集中しなさい」
「「はい」」
戦闘訓練を終えた後、今度は魔法の訓練をしていた。
正座をするリリィ達は瞼を閉じて、祈りを捧げるように手を組んでいる。
「「主よ、かの者に癒しを与えたまえ。
彼女達が呪文もとい祝詞を捧げると。
目の前にある
これが神の御業、治療魔法か。
治療魔法は他の魔法とは違い、神に仕える者しか使うことができない奇跡だ。
その神秘を目にして感心してしまう。
だけど一つの花だけは萎れたままだった。
「あのシスター、治療魔法が使えないの?」
「治療魔法だけじゃなくて普通の魔法も使えないらしい」
「そんなんが聖女候補に選ばれるとかおかしいわね」
「……」
「リリィ……」
グレンやクールの仲間から散々言われて落ち込むリリィ。
彼女の目の前にある花だけ、元気にならず萎れたままだった。
やはりリリィは魔法が使えないのか。
(ねぇアスモ、どうしてリリィは魔法を使えないのかな)
僕が光と闇の性質が混じって魔法が使えないように。
ルヴィアが光の性質が強すぎて魔法が使えないように。
リリィもまた、何か原因があるのかもしれない。
問いかけると、アスモはう~んと唸って、
『彼女から全くと言っていいほど魔力を感じられないのよねぇ』
(それって、リリィの魔力が極端に少ないってこと?)
『いえ、そういう訳でもなさそうだわ。
なんて言えばいいのかしら。
何かによって“封じ込められている”といった方が適切かもしれない。
そう……貞操帯のようなものにね』
貞操帯ってなんだよ……。
一々下ネタに例えないでくれるかな。
まぁそれはいいとして。
その封じ込められているものを取っ払えばリリィは魔法を使えるのか?
『どうかしらね。
ユーリがキスをすれば取っ払えるかもしれないわよ』
(どうしてそうなるんだよ!)
聞いた僕が馬鹿でした。
『別に冗談で言った訳じゃないわよ。
試してみる価値はあるんじゃないって言いたいの。
リリィの為にもね』
リリィの為に……か。
でも、今回はルヴィアの時とは違う。
不確かな理由で、いきなりキスをしてくれだなんて言えない。
でも、本当にキスをして。
万が一でもリリィが魔法を使える可能性があるのなら。
僕は彼女に嫌われる覚悟をしなくてはいけないかもしれない。
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