勇者の子~落ちこぼれの僕は魔王のキスで覚醒した~(仮)
モンチ02
第1話 僕は落ちこぼれ
僕は落ちこぼれだ。
「ぐぁ!」
「おいおいユーリ、しっかりしてくれよ。
これじゃ訓練にならねぇぞ」
「まだ……だ!」
人族と魔族は遥か昔から争っている。
そんな中、十六年前に【希望の勇者】ギルバートを含めた四人の勇者パーティーが魔王を討ち倒した。
それにより。
魔王軍に勝利した人族は平和を取り戻す。
しかし、魔族は完全敗北した訳ではない。
魔王軍の残党が今もあちこちで暴れているし。
新たな魔王が誕生する恐れだってある。
そこで人族は。
次代の勇者候補を育成する為の機関を設立した。
出自問わず、才ある子供を掻き集め。
魔王軍と戦う兵士として育てる。
それは我が国、ローランド王国もそうであり。
僕も勇者候補として勇者育成機関ブレイバーズに居た。
だけど僕は、他の子供達とは事情が違った。
「がはっ!」
「もうお終いか、それでも勇者の子かよ」
「はははは! おいユーリ、落ちこぼれのお前が何でブレイバーズに居るんだよ!」
彼等の言う通り。
僕は勇者の子であると同時に落ちこぼれだった。
魔王を倒した偉大なる【希望の勇者】ギルバートと。
勇者の仲間である【聖女】システィの間に生まれた子。
それが僕――ユーリだった。
魔王を倒した勇者と聖女の子だ。
優れた勇者になってくれるだろうと。
人々は期待するだろう。
けど、僕は人々の期待を裏切るように落ちこぼれだった。
身体は小さくひ弱。
魔力はあるのに魔法が使えない。
剣も拳も才がない。
落ちこぼれの無能。
才の無い落ちこぼれの僕がどうしてブレイバーズに居るのか。
その理由は、勇者の子であるからという一点だった。
勇者の子である僕は、魔族と戦うのが義務である。
だから半ば強制的に、ブレイバーズに入れられた。
「お前なんかが勇者になれっこねぇんだから、さっさと諦めろって」
「そうだぜユーリ。
次代の勇者はジェイクや俺達に任せておいて、お前はさっさと消えちまえよ」
「お前みたいな落ちこぼれがいると目障りなんだよ」
心を潰すような暴言を吐かれる。
それは今に限った話ではなく、毎日のことだった。
彼等だけではない。
落ちこぼれの僕は周囲。
いや、国中の人達から失望されていた。
偉大な勇者の子なのに、何故落ちこぼれなのかと。
「父親のような立派な勇者になってね」
「強くなって魔王軍を倒して」
「ユーリなら大丈夫さ」
あたたかい言葉を送ってくれた人達も。
僕が落ちこぼれだと知ると態度が一変する。
「本当に勇者の子なのか?」
「期待して損した」
「まさかこんな落ちこぼれだったとはな。
ガッカリだよ」
そんな冷たい言葉と侮蔑の視線を浴びせてくる。
勝手に期待しておいて、勝手に失望したんだ。
だけど一番悪いのは。
彼等の期待を裏切ってしまった僕である。
「くそ……」
勇者の子という理由だけで、ブレイバーズに入った。
そこでも僕は中傷の嵐だった。
教官、勇者候補、パーティー候補。
皆に落ちこぼれと蔑まれ、依怙贔屓と罵られる。
味方は誰一人として居ない。
僕だってこんな所に居たくなんかないけど。
勇者の子という肩書きが許してくれなかった。
“勇者の子”。
その肩書きは僕にとって呪いでしかなかった。
◇◆◇
「はぁ、疲れた……」
ブレイバーズでの訓練を終えた後も夜まで自主訓練を行っていた。
冷たい水で身体を洗ってサッパリした後、質素なベッドに身を預ける。
「父さん、母さん。何で僕は落ちこぼれなんだ……」
もうこの世にいない、偉大なる両親に問いかける。
僕が五歳の頃、母さんは病を患った。
母さんの病を治す手掛かりを探しに出て行ったきり、父さんは未だ行方不明。
父さんの帰りが間に合わず、母さんは死んでしまった。
そして僕は、天涯孤独となった。
僕の味方はこの世に一人もいない。
国民も、教官も、勇者候補も。
皆が僕を疎んでいる。
それでも僕は、父さんと母さんの子として。
勇者の子として一生懸命やってきた。
だけど、もう疲れたよ。
「ああ、そういえば今日で十五になるんだっけ」
父さんと母さんの事を考えていたからか。
夜空に浮かぶ満月に目が行くと、ふと思い出した。
ミ月の満月の日。僕が生まれた日。
この日、僕は十五歳になる。
「はは、これで僕も成人か。
全然そんな気がしないや」
人にとって十五歳の誕生日は特別なものだ。
子供から大人、成人になる日
そんな大切な記念日には。
盛大にお祝いをするのが習わしだ。
普通の家庭ならば。
だけど僕の成人を祝ってくれる人は。
この世に誰も居ない。
「ぐっ……う……」
勝手に涙が溢れてくる。
なに泣いているんだ。泣くなよ。
誰にも祝われない。
そんなことはわかっていたじゃないか。
本当に僕はダメだな。
成人になったというのに、寂しいから泣くなんて。
泣いたってどうにかなる訳ないのに。
「泣かないで、ユーリ」
「えっ」
声が聞こえた。
ゴシゴシと手で涙を拭う。
顔を上げると、そこには一人の女性が立っていた。
「だ、誰?」
「会いたかった、ずっと会いたかったわ、ユーリ」
満月の光に照らされ、女性の姿が露になる。
美しい女性だった。
夜空のような黒い長髪。
炎のような真っ赤な目。
端正な顔立ち。真白の肌。
妖艶な肉体は、黒いネグリジェに覆われていた。
(綺麗だ……)
妖しい程に美しい女性に、つい目が奪われてしまう。
言葉を失っていると、女性がこちらに近付いてきた。
「この日が来るのをどれだけ待ち侘びたかしら。
ユーリに会えるこの日を」
「えっちょっ!」
女性の行動に慌てる。
だって、突然女性がベッドに上がってきて僕に迫ってくるから。
僕は逃げようとするが、トンッと背中が壁にぶつかってしまう。
どうしよう、追い込まれてしまったぞ。
狼狽する中、女性は両手でそっと僕の頬を包み込んでくると。
「ああ、愛しいユーリ」
「んん!?」
突然、キスをしてきたのだ。
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