第13話 私の全てを捧げよう
私の婚約者というカイルと、ユーリと一緒にブレイバーズに向かう。
ユーリに話を聞こうとしたのだが。
その度にカイルに邪魔をされてしまう。
「ねぇルヴィア、ブレイバーズを案内してくれないかい?
教官に許可は取ってあるからさ」
「はい、わかりました」
「はは、そう固くならないでよ」
何だこの男、慣れ慣れしいな。
見た目は好青年だが、チャラついているというか軽いぞ。
私がもっとも嫌いとするタイプだ。
施設を案内していると、カイルが尋ねてくる。
「俺と結婚するのは嫌かい?」
「正直に言えば嫌です」
「ははっ、本当に正直だね。
それは、まだ戦士として生きたいから?
それとも……彼が好きだからかな?」
「――っ!?」
「はは、分かりやすい反応だね」
この男、土足で私の心に入ってきたな。
怒りに睨んでいると、カイルは前髪を掻きあげる。
「彼はやめておいた方がいい。だって落ちこぼれだよ?
落ちこぼれと居たって君は不幸になるだけだよ。
貴族かつ勇者の俺と結婚した方が幸せになる。
これは嫌がらせで言っているんじゃない。事実だ」
「貴方にユーリの何が分かる!
不愉快だ。後は一人で回ってください」
これ以上カイルと話すと手が出てしまう。
そうなる前に、踵を返して立ち去る。
しかしカイルはその後もしつこく付きまとってきて。
その日は結局ユーリと話すことができなかった。
「はっはっは! そうかそうか!
勇者候補達を揉んであげたか!」
「ええ、皆才能に溢れた子ばかりでしたよ。
まぁ、一人を除いてですがね」
(こいつ……)
家に帰ってもカイルが居た。
今日は泊まっていくらしく、父上と晩酌している。
それに私も無理矢理付き合わされていた。
「どうだカイル殿。
ルヴィアは可愛いだろう!」
「ええ、ルークさんから聞いていた通り。
ルヴィアは聡明で可愛いらしいですよ」
そう言って、カイルはジロリと私を見てくる。
その目つきは邪まで、背中に鳥肌が立ってしまった。
「そうだろうそうだろう!
ルヴィアは自慢の娘だからな!」
「父上、申し訳ありませんが席を外さしてもらいます。
明日も早いですから」
カイルのいやらしい目線に耐えられない。
これ以上この場に居たくなく、私は部屋を出た。
自分の部屋に戻る訳ではなく、私は一人家を飛び出る。
「はぁ……はぁ……ユーリ」
ユーリと会いたかった。
彼の顔を無性に見たくなかった。
目一杯走って、ユーリの家に辿り着く。
何度も深呼吸をしてから、私は扉を叩いた。
◇◆◇
久しぶりにユーリと話をした。
私を避けていたのは、私に引け目を感じていたから。
私を嫌いになったとかではなくて、心の底から安堵した。
真剣に謝ってくるユーリに、私は笑顔を浮かべる。
「ふっ、仕方ない。許そう。
それに、ユーリの立場を考えたら避けるのも無理はない。
私だってそうしたかもしれないしな。
こうしてまた話せるようになった。それでもう十分だよ」
「ありがとう、ルヴィア」
こうしてまたユーリと普通に話せるようになった。
それが一番嬉しいんだ。
ふと今朝の話を思い出した私は彼に問いかけた。
「どうして突然強くなったんだ?
魔法も使えるようになっているし、身体のキレも今までとは段違いだ。
いや、それが悪いことだという訳じゃないんだが、気になってな」
「ああ……」
理由を尋ねるも、彼は困ったように口を閉じてしまう。
私に言えないことなのか……と落ち込んでいると。
ユーリは意を決したように話してくれた。
「ルヴィアはさ、魔力には二つの性質があるのを知ってる?」
「そうなのか? 聞いたこともないな」
「僕も知らなかったんだけど、ある日一人の女性に教えてもらったんだ。
太陽神サンドラから与えられた人族には光の性質の魔力。
闇月神ルナサハから与えられた魔族には闇の性質の魔力があるんだって。
それで僕には光と闇、二つの性質が宿っていたんだ。
その二つが絡まった紐みたいになっていて、僕は本来の力を発揮できなかった」
そう……だったのか。
魔力に二つの性質があるのにも驚いたが。
ユーリが両方の性質を宿っているのも驚いた。
彼が魔法を使えなかった理由は、魔力によるものだったのか。
でも、それが解決して本当に良かった。
「魔力を整う特訓をしていたら、魔力の流れが分かるようになったんだ。
そしたらさ、ルヴィアの魔力は光の性質が強過ぎることがわかったよ」
「光の性質が強い? 私のが?」
「うん。ルヴィアが魔法を使うと苦しむのは。
強過ぎる光に身体が耐えられないからだと思う」
「そうだったのか……。
なら私は、もう一生魔法を使うことができないのだな」
ユーリに原因を教えてもらうも、ため息を吐く。
解決方法なんてなく、私は硝子のままなのだな。
全てを諦めて絶望に打ちひしがれている私に、彼がこう言ってくる。
「大丈夫だよルヴィア。朝に言ったじゃないか。
僕ならルヴィアが魔法を使えるようにできるって」
「そういえば言っていたな! 教えてくれユーリ!
私は剣士を諦めたくない! どうすれば魔法を使えるようになるんだ!?」
「えっと、それは……」
ユーリなら私を剣士にしてくれる。
藁にも縋る思いで彼の両肩をガシっと掴んで尋ねると。
ユーリは気まずそうに口を開いた。
「僕と、キスすることなんだ」
「き、キス? キスって、口と口を合わせるキスか?」
「うん、そのキスで合ってる」
驚いてしまう。
キスなんかで私の不調が治るのだろうか?
彼は大事な場面でふざけたりはしないだろうけど……。
「な、何故ユーリとキスしなればならないんだ?」
「さっき話したけど、僕の魔力には闇の性質がある。
その闇で、ルヴィアの光の魔力を中和するんだ。
そうすれば、強過ぎる光を抑え込むことができる」
「理屈は分かるが、どうしてキスなんだ?
その、手を繋いだりとかでは駄目なのか?」
キス以外の打開案を提案するも、ダメらしい。
キス……ユーリとキスするのか。
思わずユーリの唇に視線が吸い寄せられて、照れてしまう。
「勿論、好きでもない男にキスされるのは嫌だと思う。
だからこれは強制じゃないし、ルヴィアが決めて欲しい」
「いや、別にユーリが嫌いだとかではなくてだな……」
「でも、これだけは言っておきたいんだ。
僕はルヴィアの力になりたい。そして君とキスがしたい」
「えっ……」
ユーリが私とキスがしたい?
本当かと驚いていると、ユーリは真剣な顔で伝えてくる。
「だって僕は、ずっと君のことが好きだったから」
「ユーリ……」
信じられない……。
ユーリが私の事が好きだなんて。それもずっと前から。
嬉しくて、凄く嬉しくて。
感情が爆発するかのように涙が溢れてしまう。
「ごめんルヴィア! 今のは忘れて!」
「忘れる訳ないだろう! 凄く嬉しいんだ!」
「えっ?」
「私だって、ずっとユーリのことが好きだったんだぞ。
でも、苦しむお前に告白なんてできなかったんだ……」
「そうだったんだ……」
私もずっとユーリのことが好きだった。大好きだった。
だけど苦しむユーリにこの想いを伝えるなんてできなくて。
必死に想いを押し殺していたんだ。
「家に来たのだって、知らない男と結婚するかもしれないと不安で……。
ユーリに私の想いを伝えたくて来たんだからな……ぐす」
「そうだったんだ」
言えた。やっと言えたよユーリ。
好きだと、やっと言えることができた。
そして嬉しいことに、ユーリも私を好きでいてくれた。
こんなに嬉しいことはないだろう。
気持ちを確かめ合った私達は。
吸い寄せられるように唇を交わした。
「「んっ」」
ユーリの唇は柔らかくて、幸せの味がした。
心があったくなり、ふわふわと空を飛んでいるみたいで。
もうこのまま死んでもいいとさえ思う。
けど幸せな気分に浸れたのは一瞬だった。
(なんだこれは!? 熱い!)
突然身体の奥底から熱が広がってくる。
身体が火照り、何も考えられなくなる。
よく分からないが、私は凄く興奮していた。
ただただ、ユーリを求めたくなってしまう。
それは彼も同じみたいで、男らしく誘ってくる。
「ルヴィア、僕は君が欲しい。
あんな男に君を奪われたくない」
「ああ、私もユーリが欲しい。ユーリと一緒に居たい」
ユーリも私を欲してくれている。
もう、私達を止める要因は何もなかった。
ユーリの部屋に二人で向かい、互いに服を脱ぐ。
彼の身体は小さながらも引き締まっていて。
私はさらに興奮してしまう。
「いくよ、ルヴィア」
「きてくれ、ユーリ」
私の全てを捧げよう。
私達はもう一度優しくキスをしてから。
愛を確かめる為に繋がったのだった。
◇◆◇
「すぅ……すぅ……」
「ふふ、可愛い顔だな」
私の隣で寝ているユーリの寝顔を盗み見る。
なんだろうな、この言い難い幸せな気分は。
「それにしても……凄かったな」
ユーリとの行為を思い出す。
最初は少し痛かったが、すぐに気持ちよくなってしまった。
一度終わってからもそれで終わりではなく。
互いを求め合うように、私達は何度も何度も愛し合った。
途中から何も考えられなくなって。
ただただユーリを求めてしまった。
自分が自分でないようで、それこそ獣のようにな。
「なんだか恥ずかしくなってきたぞ」
初めてするのに、あんなに激しくなるとは……。
ユーリに引かれていないだろうか心配だ。
はしたない女だと思われていないだろうか。
「おいユーリ、どうなんだ」
「う~ん」
つんつんと、ユーリの頬を指でつつく。
冷静になって、あれ? と疑問を抱く。
ユーリも初めてだろうに、上手くなかったか?
優しくリードしてくれたし、もしかして初めてではない?
まさか私以外の女性ともう経験しているのか。
そんな不安を抱いていると、誰かに声をかけられる。
「こんばんは、ルヴィア」
「誰だ!?」
不意に挨拶されて警戒する。
振り向くと、そこには美しい黒髪の女性が立っていた。
「安心して、私はユーリとルヴィアの味方だから」
「貴女はいったい……」
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