第12話 ルヴィア
私は神童だった。
魔王を討ち倒した四人の勇者パーティー。
その内の二人が、私の両親であり。
【剣王】ルークと【獄炎の魔女】エンリエッタだ。
優秀な両親から生まれた私は、二人の能力を遺憾なく受け継いだ。
類まれな剣才と、豊富な魔力量と魔法の才を。
そんな私は、いつしか周囲……いや国中の人々から神童と呼ばれ。
人族の平和を守った両親のように、将来魔族と戦う剣士を望まれた。
父上と母上は、私が魔族と戦うことに否定的だったが。
私は偉大な両親のように、人族の平和を守りたいと思っていた。
その為に、才能に自惚れることなく必死に努力もした。
そんな私は、次代の勇者候補を育成する機関。
ブレイバーズに入った。
ブレイバーズは勇者候補だけではなく。
勇者を支えるパーティー候補も育てる機関でもある。
国中から優秀な人材を集められたパーティー候補達の中でも。
私は群を抜いて優秀だった。誰もが私を神童と謳い。
誰もが羨望の眼差しを送っていた。
しかし。
真っ直ぐな道を歩み続けていた私の人生に。
突如大きな落とし穴が現れ、転落してしまったのだ。
「ぐっ……身体が!?」
十五歳の成人を迎えてから少し経った頃。
魔法を使うと、突然身体に激痛が走ってしまう。
ズキズキというか、ズクズクというか。
言い表せないが、とにかくとんでもない痛みが襲い掛かってくる。
それは単なる魔法だけではなく、ブーストもそうだ。
戦線に復帰した父上と母上にも手紙で相談したし、医者にも診てもらった。
だが、痛みの原因は明らかにならなかった。
「何故だ……どうしてこんな事に!」
不可解な現象に、私は悩み困惑した。
どうして今になって、魔法を使うと身体が痛み出すのか。
治す方法も分からず、私は初めて挫折を味わった。
そんな私を、周囲の人間は冷めた眼差しで見始める。
「おい、ルヴィアの奴魔法を使えなくなったらしいぞ」
「マジかよ、ウケるわ」
「俺あいつの事嫌いだったんだよな。
私はお前達と違うから~みたいなスマした態度がよ」
「まさかあの神童がコケるとはな。ざまーみやがれってんだ」
あれだけ期待し、羨望し、慕ってくれていた皆が。
私が魔法を使えなくなったと知るや否や。
嘲笑し、馬鹿にし、優越感に浸り、侮蔑してくる。
心配してくれる者は誰一人として居なかった。
それはもしかしたら、普段の私の態度がいけなかったのかもしれないけど。
励ましてくれる仲間が一人として居ないとは思わなかった。
逆に、皆は私のことをそう思っていたんだと……。
人間の醜い部分というか、現実を思い知らされたのだ。
それでも私は切り替えた。
両親のように立派な戦士になりたいから。
魔法が使えないなら、使えなくても強くなるんだと決意した。
しかし、魔法が使えないというハンデは非常に大きくて。
私は絶望に打ちひしがれていた。
そんなある時。
ユーリの噂を聞いた。
勇者の子、ユーリ。
【希望の勇者】ギルバートと【聖女】システィの子。
ユーリと私は幼馴染であり、兄妹のように仲が良かった。
いついかなる時も一緒に居て、一緒に育って。
「父さんみたいに、僕も立派な勇者になる。
その時はさ、ルヴィアは僕の
「うん、勿論だ!」
いつしか偉大な両親達のような勇者パーティーになるんだと。
指を結んで誓い合った仲だった。
だが、残酷なことにその未来は訪れることは来なかった。
「ごめんルヴィア……。
僕はもう……君の隣には居られないんだ」
「ユーリ……」
勇者の子でありながら、ユーリは落ちこぼれだった。
戦いの才もなく、魔法の才も全くない。
それでもユーリは死に物狂いで努力していたし。
間近で見てきた私は彼を応援し、励まし、支えていた。
けど、それが重荷になっていたのかもしれない。
神童と呼ばれる私の側に居ることが、ユーリは辛かったんだ。
ユーリは私の家から出ていき、距離も取られてしまい。
それから一度も口を聞いてなかった。
「ユーリ、お前はこんな気持ちだったんだな」
魔法が使えなくなって、初めてユーリの気持ちを理解した。
自分が惨めで、期待に添えられないのが申し訳なくて。
藻掻いてもどうにもならない、地獄のような気持ちを。
だけど、ユーリは突然強くなっていたらしい。
魔法も使えるようになり、勇者候補筆頭のジェイクも倒したそうだ。
それが本当か試したくて、勇者候補達との合同訓練の際にユーリに申し込んだ。
「私とやろう、ユーリ」
「ルヴィア……」
久ぶりに会話をすると彼は驚いていたけど。
見違えた顔で模擬戦闘を受けてくれた。
そして心底驚いた。
ユーリが本当に強くなっていたからだ。
剣だけなら誰にも負けない私と、互角に戦っていた。
戦闘訓練は引き分けとなった。
(良かったな……ユーリ)
ユーリが強くなったことが凄く嬉しかった。
ずっと側で苦難を見ていたから、彼の努力が報われて良かった。
本当は泣いて抱き付つきたかったけど。
今の私にはそんな資格がないと思いとどまる。
ユーリともっと話したかったけど。
パーティー候補生のビシャスに訓練で惨めに負けてしまい。
今日は話す気にはなれなかった。
ユーリも、ビシャスに負けた私を見て驚いていたな。
魔法を使えなくなったことは、まだユーリには伝えていない。
自分のことで精一杯な彼に、相談なんてできなかったから。
だけど次の日の朝。
ユーリから私に会いに来てくれた。
「おはよう、ルヴィア」
「ビックリした、ユーリか。
どうしたんだ? 朝早くに」
「えっとさ、実は君に話が合って……」
「そうなのか。丁度いい、私もユーリと話したいと思ってたんだ」
驚いたけど、ユーリから声をかけてくれて嬉しかった。
これまでずっと話せなかった分をゆっくりでもいいから話したい。
そんな風に思っていたのに、突如現れた二人に邪魔される。
ガララと馬車が門前に停まり。
父上と知らない男が降りてこちらに近付いてくる。
久しぶりに戻った父上に、動揺しながら尋ねた。
「父上、戦線から帰られたのですか」
「おおルヴィア、丁度いい。お前に話があるんだ」
「話……ですか?」
突然なんだろうと思っていると。
父上は見知らぬ男を紹介して、こんな事を言ってきたのだ。
「こちらはカイル殿。ルヴィアの婚約者だ」
「「……はっ?」」
私の……婚約者だって?
どういう事なんだ。
「婚約者……ですか? 私の?」
「そうだ。彼は【高潔の勇者】カイル殿。
伯爵ながら、勇者としても活躍している勇ましい方だ」
「勇ましいなんて、褒め過ぎですよルークさん。
久しぶりに帰ってきた父上と親し気に話す青年。
この人が私の婚約者だって?
訳が分からない。何がどうなっているんだ。
「ちょ、ちょっと待ってください父上。
私の婚約者とはどういう事ですか。
話が全くわかりません」
「ああ、すまんすまん。
いや、彼と出会ったのは戦線なんだが、意気投合してしまってな。
是非、ルヴィアの婚約者になって欲しいと話したんだ」
「ですから父上、そこが分からないと言っているんです。
何故、私の婚約者を父上が決めるのですか?」
私の同意もなく勝手に婚約なんて納得できない。
しかも、会ったこともない人だぞ。
「ルヴィアが戸惑うのは分かるよ。
でもね、ルークさんは君を想って俺を頼んできたんだ」
「私の為……?」
父上を庇うように、カイルという男が告げてくる。
真意を知りたくて、父上に問いかけた。
「私の為とはどういう事ですか、父上」
「いやな、ルヴィアは魔法を使うと身体が痛くなってしまうだろ。
それじゃあ、魔族と戦うなんてできないだろ?」
「それは……」
「それに私は、娘のお前には戦いなど本当は欲しくないんだ」
「ですがっ!」
「まぁまぁ、ルークさんは平和を守る為に魔王と戦ったんだよ。
君達のような子供の未来を守る為にね。
そんなルークさんの想いも汲んであげて欲しいな」
「くっ……」
確かに、魔法が使えない硝子の私が魔族と戦うのは無茶だろう。
それに、父上と母上はずっと私が戦士になることに反対していた。
この際に、私には人並みの幸せを送って欲しい。
そんな父上の気持ちも分かるから、無理に言えなかった。
だからといって、急に婚約しろだなんて!
「ルークさん、ちょっといいですか」
「おおユーリ、久しぶりだな。元気にしていたか?」
「はい、ご無沙汰しております」
ユーリ?
いきなりどうしたんだ。
「ルークさん、彼は?」
「ああ、彼はユーリだ。ギルバートの子だよ」
「あ~、知ってますよ。へぇ、彼が“例の”勇者の子ですか」
ユーリを見るカイルの目は、侮辱そのものだった。
勇者の子であるユーリの名は、国中の人が知っている。
そして、彼が落ちこぼれであることも。
その事に、ユーリの近くに居た私は腹が立つ。
ユーリだって好きで落ちこぼれになった訳ではないし。
どれだけ努力して、どれだけ苦しんでいるか。
それを知らず、好き勝手言う奴等全員に頭がくる。
目の前のカイルのようにな。
「ユーリ君、悪いけど部外者は黙っていてくれないかな。
これは俺とルヴィアの話なんだ」
「僕は部外者じゃありませんよ。
だって僕なら、ルヴィアが魔法を使えるようにできますから」
「「なんだって!?」」
それは本当か!?
ユーリなら私の不調を治せるのか!?
「どうなんだユーリ!」
「落ち着いてくださいルークさん。
落ちこぼれ……おっと失礼、彼の話なんてどうせデマカセですよ。
とりあえず婚約の話は今夜にしましょう。
ルヴィアも突然婚約なんて言われて驚いているだろうし。
気持ちの整理をさせてあげましょう」
「そ、そうだな。ありがとうカイル殿。
そういえばこれからブレイバーズに行くところだったのか?」
「……はい」
「そうか、気をつけて行ってくれ。ユーリもな」
「はい……」
カイルに邪魔をされて、ユーリから聞き出せなかった。
まぁいい、聞く機会はいくらでもある。
そう思っていたのだが、カイルがこんな事を言ってくる。
「俺も行かせてもらうよ。
ブレイバーズって、次代の勇者を育てる機関なんだろ?
同じ勇者として、とても興味があるんだ。いいよね」
「はい……わかりました」
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