第16話 僕は落ちこぼれじゃない
「「おおおおおおお!!」」
「ルヴィアの奴、ビシャスに勝っちまったぞ!」
「めちゃくちゃ強かったな!」
「キレッキレだったしな」
「でも何であいつ、魔法を使っても大丈夫なんだ?」
「知るかよ、別にいいんじゃないか?」
「うぉおおおお!! ルヴィアーーーー!!」
「……」
観戦していた彼等が湧き立っている。
それはそうだろう。
ルヴィアの戦いは圧倒的だったんだから。
ビシャスも相当強かったけど、彼女はそれを凌駕していた。
やっぱりルヴィアは凄いや。
居ても立っても居られず、彼女に駆け寄る。
「ルヴィア!」
「ユーリ!」
「やったじゃないか! 本当に凄かったよ!」
「ユーリのお蔭だ。
お前が力と勇気をくれたから、私は踏み出すことができたんだ。
本当にありがとう」
天使のように微笑むルヴィア。
僕はただキスや性交しかしていないけど。
それがルヴィアの為になったのだとしたら良かった。
「ルヴィア、約束通りお前はこれで卒業だ」
「教官……はい、ありがとうございます」
「さて、前座はこれで終わりだ。
次はお前だぞ、ユーリ」
そっか、ついルヴィアの戦いに夢中になっていたけど。
本当は僕の卒業試験だった。
「信じているぞ、ユーリ」
『頑張ってね、ユーリ』
「うん!」
応援してくれるルヴィアとアスモに答える。
今度は僕の番だ。
教官に勝って、勇者になるんだ。
「教官、少しよろしいでしょうか」
「どうされました、カイル殿」
気合を入れていたら、突然カイルが割り込んできた。
何だよこいつ、今いいところなんだから邪魔しないでくれるかな。
「彼の卒業試験の相手、俺に務めさせてもらえないでしょうか」
「「なんだって!?」」
教官の代わりにカイルが僕と戦うだって!?
おいおい、何言ってんだよこいつ。
頭おかしいんじゃないのか。
「ふむ、そうですな……。
現役勇者であるカイル殿なら申し分はありませんが……」
悩む教官は僕を見る。
その目は、「お前はどうする?」と訴えていた。
いいだろう、やってやるさ。
「僕は構いません。
誰が相手だろうと勝ちますから」
「お前がいいなら問題ないな。
ではよろしくお願いいたします、カイル殿」
「寛大なご判断、感謝致します。教官」
という事で、急遽僕と戦う相手はカイルになった。
「待つんだユーリ、本当に良いのか!?」
「僕なら大丈夫、見ててよルヴィア。
絶対勝つからさ」
心配してくるルヴィアに勝気な笑顔を浮かべる。
確かに相手は現役の勇者だ。きっと僕より強いだろう。
それでも、ここで逃げる訳にはいかないんだ。
勇者の子として、そして好きな子の前でかっこ悪いことはできないから。
「ほう、自信があるみたいだな。
なら賭けをしようじゃないか」
「賭け?」
「この勝負、勝った方がルヴィアを貰う。
そして負けた方は潔く諦めるんだ」
「はぁ!?」
何言ってんだよこいつ!
もう一回言うけど、頭おかしんじゃないのか!?
「そんな事できる訳ないだろ!」
「おや、あれだけ啖呵を切っておいて負けるのが恐いのかな?」
「そういう問題じゃないだろ!
ルヴィアの気持ちを無視してるじゃないか!」
「わかった、それで構わない」
「ええ!?」
何で了承しちゃうのさ!
僕が負けたらカイルと結婚しちゃんだよ!?
「大丈夫、ユーリは絶対勝つと信じてる」
「ルヴィア……」
『ねぇユーリ、好きな娘にここまで言わせたのよ。
ならもう腹を括るしかないじゃない』
(アスモ……)
そうかもしれない。
ルヴィア本人がそれで良いと言っている。
そして彼女は、僕が勝つことを信じている。
なら期待に応えなきゃ男じゃない。
「分かった、やるよ」
「ふん、決まりだな。
(馬鹿な奴だ、お前如きが俺に勝てる訳ないだろ)」
思い通りの展開にほくそ笑むカイル。
お前にだけは絶対にルヴィアを渡さない!
「おいおい、なんか凄いことになってるぜ!」
「教官じゃなくてカイルさんが戦うのかよ!」
「しかも勝った方がルヴィアを手に入れるみたいだぜ!」
「男と男が一人の女を奪い合うだんて……。
きゃー! 最高の展開じゃない!」
「面白くなってきたじゃないか!」
「ユーリ……カイル殿……」
僕とカイルがルヴィアを取り合う展開に。
ギャラリーがこれでもかと湧き立つ。
そんな中、僕とカイルは距離を取って配置についた。
「これよりユーリの卒業試験を開始する。
関係のない賭けもあるようだが、今回は特別に見逃そう。
双方、悔いのないように戦え。では試合始め!」
教官の合図により、僕の卒業試験が始まった。
相手は【高潔の勇者】カイル。
どう来るか出方を窺っていると。
カイルが仕掛けてきた。
「
カイルが地面に手を付けながら呪文を唱える。
どこから攻撃が飛んでくるかと警戒していると、アスモが叫んだ。
『ユーリ、下よ!』
「――っ!?」
僕がいる真下の地面が隆起する。
針のような突起物に当たる前に、高く跳んで回避した。
危なかった……。
アスモが言ってくれなかったら串刺しになるところだった。
『安心している場合じゃない!
来るわよユーリ!』
「
「――っ!?」
間髪入れずにカイルが追撃してくる。
飛来する岩の散弾に、空中にいる僕は回避できない。
ならばと右手を翳した。
「
大きな火炎を放ち、岩の散弾を弾き飛ばす。
地面に着地すると、既にカイルが眼前に迫っていた。
「「
互いに身体を強化し、剣を振るう。
試験で使っている剣は模擬剣ではなく真剣だ。
もし斬られれば、最悪死ぬかもしれない。
「真剣が恐いか? 降参するなら今だぞ」
「誰が降参なんかするか!」
「そうか、なら殺してやるよ!」
「ぐっ!」
鍔迫り合いの状態から弾き飛ばされる。
体勢を崩した僕に、カイルが魔法を放ってきた。
「
「ぐぁあ!!」
「ははは! 魔法が使えるようになったみたいが動作が遅いな!
俺とお前じゃ実践の経験値が違うんだよ」
くそ、悔しいけどカイルの言う通りだ。
今だってすぐにファルマを使えたら相殺できたかもしれない。
だけど僕は魔法が使えるようになったばかりで瞬時に発動できなかった。
「俺は戦場で魔族と戦い死線を潜り抜けてきた。
落ちこぼれのお前とは場数が違うんだよ」
「くっ……」
強い。
アスモのお蔭で僕はまともに戦えるようになった。
だけどカイルは僕より遥かに経験を積んでいる。
最初から僕なんかが勝てる相手じゃなかったんだ。
(違う、そうじゃないだろ!
何を弱気になっているんだ僕は!)
挫けそうな心を殴りつける。
負ける訳にはいかない。
僕が負けたら、あんな奴にルヴィアを奪われるんだぞ。
それでもいいのか?
(言い訳ないだろ!)
例え相手がどんなに強敵でも。
僕は諦める訳にはいかない。諦めないこと。
それは父さんが僕に教えてくれたことだから!
『いいかユーリ。
勇者にとって重要なのは強さや才能でもない。
一番大切なのは、何があっても諦めない心なんだ』
その言葉があったからこそ、僕はここまでこれた。
身体が小さくてひ弱でも、魔法が使えなくても。
落ちこぼれだと馬鹿にされて、貶されて、笑われても。
父さんのような勇者になりたくて。
僕は諦めずに必死に努力してきたんだ!
「所詮お前は落ちこぼれなんだ。
落ちこぼれは落ちこぼれらしく地面に這い蹲ってろ」
「ユーリ!」
『立ちなさい、ユーリ!』
「うぉぉおおおおおおおお!!」
ルヴィアとアスモの声を聞いた僕は。
腹の底から声を出し、立ち上がって剣を構える。
そして力強く宣言した。
「もう僕は落ちこぼれじゃない。
勇者の子、ユーリだ!」
「ほざけ落ちこぼれ。
そのまま倒れていればいいものを。
そんなに死にたいのなら望み通り殺してやる!
「中位魔法!? あの人ユーリを殺す気かよ!?」
カイルが魔法を発動する。
地面から四つの岩蛇が飛び出してきて。
波打ちながら僕を喰い殺そうと襲い掛かってくる。
けど、僕はもう恐れはしない。
「
「ユーリが増えたぁ!?」
「何の魔法なんだ!?」
『ユーリ、アナタ……』
影の分身を七人分作り、カイルに突っ込む。
影の四人は岩蛇に喰われて消滅したが、残りの僕はカイルに肉薄した。
「小賢しい真似を!
雑魚がいくら増えたところで所詮雑魚に過ぎん!」
影を含めた四人の僕が一斉に攻撃するもカイルは動じない。
反撃され、瞬く間に五人の影を消されてしまった。
けれど、ほんの一瞬だけ僅かな隙を作ることができた。
この一撃に全てをかける!
「
「ぐぉ……っ!!」
光輝く剣を振るう。
咄嗟に剣で受け止められるが、僕は咆哮を上げた。
「うぉぉおおおおおおお!!」
「ぐぁぁあああああああ!?」
振り抜いた光の剣はカイルの剣を打ち砕き。
カイルを薙ぎ払った。
「はぁ……はぁ……」
「馬鹿な……この俺が落ちこぼれなんか……に」
「さっき言っただろう。
僕はもう落ちこぼれじゃない」
「そこまで! この勝負、ユーリの勝利だ」
勝った。
そうか、僕はカイルに勝ったのか。
「ユーリ!」
「うわぁ!?」
魔力を使い過ぎてボーっとしていると、ルヴィアに抱き付かれる。
押さえる力が残ってなくて、二人で倒れてしまった。
「信じていたぞ、ユーリ」
「ルヴィア……うん、ありがとう」
『あ~んもう、私もユーリに抱き付きた~い!』
はは、ごめんよアスモ。
でもさ、君のお蔭で僕はカイルに勝つことができたんだ。
本当にありがとう。
「ユーリ」
「教官……」
「見事な戦いだった。
今のお前なら戦地に向かっても問題ないだろう。
卒業おめでとう」
「ありがとうございま……」
「ユーリ!?」
あれ、なんだか意識が遠くなってきたぞ。
まぁいいか。
なんか今、生まれて初めて最高の気分だしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます