第15話 卒業試練

 



「ふぁ~あ」

「おはようユーリ」


 目を覚まし、アスモと挨拶を交わす。

 寝ぼけながら周りを見渡して、首を傾げた。


「あれ、ルヴィアは……」

「あの子なら朝早く家に戻ったわよ」

「そうなんだ……」


 そっか、ルヴィアは家に戻ったのか。

 そこで自分が裸であるのに気付く。

 そういえば僕、ルヴィアとシちゃったんだよね……。


「うわぁ……」


 ルヴィアとシたこと思い出して頭が沸騰する。

 なんか僕、凄いことしちゃった気がする。

 歯止めが効かなったというか、我を忘れていたというか。


 彼女と重なるのが気持ち良過ぎて、何回やったかわからない。

 ルヴィアは初めてだというのに、無理をさせてしまった。


 もしかしたら愛想を尽かされてしまったかも……。

 ああ~もう、何やってんだ僕は~~!


「大丈夫よユーリ。

 ルヴィアも幸せそうだったから」

「そ、そうかな……?」

「勿論よ。それより呑気にしていていいの?

 今日は卒業試験だったんじゃない?」

「そうだった!」


 アスモに言われて思い出す。

 今日は僕の卒業試験だった。

 こうしてちゃいられないと慌てて服を着る。


「調子はどう?」

「うん、絶好調だよ。

 でも、アスモ以外の人と房中術をしても良くなるんだね」


 てっきりアスモとじゃなきゃ整わないと思っていたけど。

 ルヴィアとしても身体の調子は良くなっている。


「前に言ったじゃない。光と闇。男と女。

 全ては陽と陰の関係で世界は成り立っている。

 私でなくとも、女性であるならば誰とでも可能なの。

 だからユーリは、ガンガン多くの娘とシていいのよ」

「なんかその言い方は間違ってる気がする……」


 多くの人とガンガンしてもいいってさぁ。

 まるで僕が色欲魔みたいじゃないか。

 アスモだけでも精一杯なんだからね。

 それに今の僕にはル……ルヴィアもいるしさ。


「まぁその話は置いといて。

 卒業試験頑張りなさい、ユーリ」

「うん、見ててよアスモ。

 絶対に合格して、勇者になるから」



 ◇◆◇



「落ちこぼれが卒業試験だってよ」

「信じらんねーよな、俺達の中で一番雑魚だったのに」

「先越されちまったな、ジェイク」

「チッ、うるせーよ」

「まさかユーリが勇者とは……見てるかギルバート」

「ふん」


 本日はユーリの卒業試験。

 ようやく身体が回復したジェイクや勇者候補達。

 ビシャスやパーティー候補達に、ルークとカイルも見学に訪れていた。


「準備はいいか、ユーリ」

「はい、いつでも大丈夫です」


 ユーリと対峙するのは、教官のハラルド。

 彼と戦い勝つことができれば、ユーリは勇者となれる。

 ついに試験が開始するといった時、待ったをかける者がいた。


「お待ちください、ハラルド教官」

「ルヴィア……」

「どうしたんだ、ルヴィア」


 試験に割り込んできたのはルヴィアだった。

 突然物申してきた彼女に教官が訝しげに尋ねる。


「私も卒業試験を受けさせてください」

「お前が?」

「おいおいルヴィア、何を言い出すんだ」

「……」


 ユーリだけではなく、私も卒業試験を受けたい。

 そう告げる娘にルークは困惑し、カイルは目を細める。


「「はははははは!!」」

「何馬鹿なこと言ってんだよルヴィア!」

「魔法が使えない硝子のお前が、教官に勝てる訳ねーだろ」

「笑わせるなよ、俺より弱い奴がほざくなって!」


 無茶を言うルヴィアを嘲笑するパーティー候補達。

 ビシャスも馬鹿にしてくるが、ルヴィアは一切無視していた。

 真剣な態度の様子に、冗談で言っている訳ではないと察する教官。


「そうだな、ならビシャスと戦って勝て。

 勝てば卒業を認めよう」

「教官がそうおっしゃるなら」

「という事だビシャス! 出てこい!」


 教官から指名されたビシャスは、薄ら笑いを浮かべて出てくる。


「教官、俺は別に戦ってもいいですけど。

 その変わりルヴィアに勝てば俺を卒業させてくださいよ」

「いいだろう。私が認めよう」

「はは、そうこなくっちゃ。

 あ~それと、魔法を使っちゃダメなんて言わないですよね?」

「無論だ。これは卒業試験なんだからな。

 ルヴィアもそのつもりだろう?」

「はい、大丈夫です」


 教官が尋ねると、ルヴィアは間髪入れずに頷いた。

 そんな彼女に、ユーリが心配そうに声をかける。


「ルヴィア……」

「そんな顔をするなユーリ。

 心配するな、私が勝つところを見ていてくれ」

「うん、頑張って」


 それだけ言うと、戦いの邪魔にならないよう距離を取る。

 ルヴィアとビシャスが配置につくと、ビシャスが薄ら笑いを浮かべた。


「おいルヴィア。

 まさか本気で俺に勝てると思ってねーだろうな」

「集中しろビシャス。

 負けた後で言い訳をされても敵わんからな」

「テメエッ! 硝子の癖に調子に乗ってんじゃねえぞ!」


 ルヴィアの煽りに激昂するビシャス。


「ルヴィアとビシャスによる卒業試験を行う。

 始め!」

強化魔法ブースト!」


 教官の合図により、二人の戦いが始まった。

 早々にビシャスが身体強化し、ルヴィアに斬りかかる。


「おらぁ!」

「……」

「はっ!、どうしたよ硝子!

 さっきまでの威勢はどうした!

 魔法が使えないテメエじゃ俺には勝てねーんだよ!」


 怒涛の攻めを仕掛けてくるビシャス。

 対してルヴィアは防御で手一杯だった。


「ルヴィア……」

『大丈夫よユーリ』

「えっ?」


 防戦一方のルヴィアにユーリが心配していると。

 頭の中からアスモが自信あり気に告げてくる。

 そんな中、ルヴィアは大きく息を吸うと。

 覚悟を決めたように呪文を唱えた。


強化魔法ブースト!」

「なにっ!」


 ルヴィアが魔法を使ったことに驚愕するビシャス。

 反撃されてしまうが、それがどうしたと言わんばかりに嗤う。


「はっ、魔法を使ったからどうした!

 どうせいつもみたいに苦しくなるんだろ!?」

「はぁあ!」

「ぐっ!?」


 おかしい。ルヴィアが苦しまない。

 いつもなら発動直後に苦しみ出す筈なのに。

 そんな素振りが一向に見られない。


「ど、どうなってんだ!」

「ルヴィアの奴、魔法を使ってんのに平気そうだぞ!」

「まさか克服したのか!?」

「おーいいぞルヴィア!」

「……ちっ」


 驚いているのはビシャスだけではない。

 この場にいる誰もが信じられないと困惑していた。

 父のルークは喜び、カイルは煩わしそうに舌を鳴らす。


(身体が軽い)


 魔法を使っても、あの痛みが襲ってこない。

 それどころか、普段より強化の純度が上がっている気さえする。

 身体が羽のように軽く、思いのままに動かせる全能感。


 何故、ルヴィアが魔法を使っても身体が痛まないのか。

 それは彼女の強すぎる光の魔力を、ユーリの闇の魔力で抑え込んでいるからだ。


 ただ魔法を使えるようになっただけではない。

 ユーリと房中術をしたことで、彼女の身体能力は限界以上に発揮していた。


「はぁあ!」

「ぐあぁああ!」


 ルヴィアの攻めを守り切れず、殴打されて悲鳴を上げる。

 この光景は当然の結果だった。

 元々ルヴィアは、【剣王】ルークの娘として類まれな剣才を持つ。

 同じ土俵に上がりさえすれば、ビシャスが敵う道理はない。


「どうしたビシャス、この程度か」

「ちきしょう、硝子の癖に調子に乗るんじゃねぇ!」


 這い蹲るビシャスを見下ろすルヴィア。

 屈辱を味わされた彼は、怒りに身を震わせた。


二重強化ダブルブースト!!」


 強化魔法の練度を更に上げる。

 が、ダブルブーストを使えるのは彼だけではない。


二重強化ダブルブースト


 同じく強化の練度を上げ、ビシャスの斬撃を受け止める。

 白銀の長髪が靡く。

 高速の斬撃がビシャスの胸をぶっ叩いた。


「はぁああああ!」

「ごはぁああああ!?」


 強烈な一打を受けたビシャスは、泡を吹いて倒れてしまう。

 それを見届けた教官は、静かに手を上げた。


「そこまで!

 この勝負、ルヴィアの勝利!」

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