第19話 息ができない!

 



「綺麗だね……ルヴィア、アスモ」

「ああ、なんと神々しい場所なんだろうか」

『へ~、中々良い所じゃない』


 崖下に見下ろせる神秘的な土地に、僕達は感嘆の息を漏らす。

 山々に囲まれた谷あいには小さな町があった。

 町を覆うように大小の滝がカーテンのようになっていて。

 町の中心には大きな川が流れている。

 大きな川の上には、荘厳な大聖堂が聳え立っていた。

 余りにも美しく、見ているだけで心が洗われるようだ。


 聖都アルカンゲヘナ。

 太陽神サンドラを信仰する、我が国の太陽神教の聖地だ。

 聖都では沢山の信者が修練を重ねているらしい。

 因みに、太陽神教の本山はここではなく陽聖教国という国なんだ。


「はぁ、やっと着いたね」

「ここまで来るのに長かったものな」

『本当よ。

 お蔭で全然ユーリとイチャイチャできなかったわ』


 次代の勇者を育てる勇者育成機関ブレイバーズ。

 そこで卒業試験に合格した僕とルヴィアは教官から任務を与えられた。

 その任務とは、聖女となり得る聖女候補を魔族の手から護衛すること。

 勇者になった僕の初めての任務だ。


 ブレイバーズから出立し、二つの街を経由して。

 山を越えてようやく聖都に辿り着いた。

 ここまで来るのに二週間。

 その間、アスモやルヴィアと房中術をしたのは数回だ。

 理由は単に野宿が多かったから。


「ねぇやりましょうよユーリ!」

「何言ってんの!?

 頭おかしいんじゃない!?」


 アスモは構わずやろうと我儘を言っていたけど。

 流石に野外でそういう事をするのは嫌だったから断固拒否した。

 幸い、旅の途中で魔族と遭遇したりしなかったから。

 魔法を使う機会はなく、身体が不調になることはなかった。


『今日こそはやるわよユーリ。絶対よ』

「はいはい、分かりましたよ」

「ユーリ、私も頼む」

「えっ?」


 ルヴィアの方を見ると、顔色を真っ赤に染めてモジモジしている。

 なんだこれ、可愛いぞ。


「アスモと夜の会話しているんだろう?

 実は私も……我慢できそうにないんだ」

「あ……そうなんだ。うん、じゃあやろう」

『ちょっとユーリ!

 私との反応が違くないかしら!?』


 だってしょうがないじゃん。

 普段クールで気高いルヴィアが。

 初々しい態度でしおらしくやろうと言ってくるんだから。

 これで断れる男はこの世に居ないって。


『ふん! もういいわ!

 泣いて謝るぐらい搾り取ってあげるから!』

「ごめん、謝るからほどほどにお願いします」


 即効で手の平を返す。

 ただでさえアスモとの房中術は激しいのに。

 ルヴィアを加えて三人でするようになってからはヤバい。

 兎に角ヤバい。


 もう乱れに乱れているというかさ。

 あれだけしてよく死なないな~と感心するぐらいヤバい。

 まぁその分、快楽というか気持ち良さも二倍なんだけどね。


 でも、ふと思うんだ。

 房中術をしないと魔法を使うことができないんだけどさ。

 勇者である僕があんなに性に乱れていいのかって思うよ。

 そろそろ太陽神サンドラ様から天罰を喰らってもおかしくない。


「とりあえず大聖堂に行って。

 司教様に報告と現地の勇者に挨拶しようか」

「わかった」



 ◇◆◇



「やっぱり聖都なだけあって修道士ブラザー修道女シスターが沢山いるね」

「ふふ、それはそうだろう」


 聖都に降りた僕達は、歩きながら町並みを眺める。

 至るところに水車が設置されてあり。

 色とりどりの野菜や小麦畑が広がっていていた。


 それを町民と協力してブラザーやシスターさん達が皆で収穫している。

 大きな川があり、水が豊かな土地だからこそ。

 自給自足の農業に適しているのだろう。


 でも家畜が全然見当たらないな。

 山羊の群に、あと養蜂所がるぐらいだろうか。

 そういえば聖徒は生きている物を食べないんだっけ。

 肉や魚を食べず、パンや野菜しか食べない。

 山羊も肉ではなく、羊毛や羊乳の為に飼っているんだろう。


「メェ~」

「待って~!」

「な、なんだ?」


 自然豊かな町並みを眺めていたら、慌てた声が聞こえる。

 山羊の声と、女性の声だ。

 何だなんだと後ろを振り向くと、シスターが子山羊を追いかけていた。


「ルヴィア、捕まえよう!」

「ああ!」


 こちらに向かってくる子山羊を捕まえようと。

 ルヴィアと一緒に待ち構える。

 逃げようとする子山羊をルヴィアが捕まえてくれたんだけど。


「きゃあ!」

「危ない――うぶっ」


 走っていたシスターが躓いてしまう。

 転びそうになったシスターを抱き止めようとしたんだけど。

 僕より大きな身体を支えきれず、押し倒されてしまった。


(なんだろう……この心地良い気分は……)


 僕は今、柔らかいものに包まれていた。

 お日様のような暖かい香り。

 ふわふわした柔らかい感触。

 心地よく、母なる女神に優しく抱きしめられているかのようだった。

 そうか、ここが天国か。

 いや、ちょっと待って。


(息ができない!)


 僕の頭は大きくて柔らかいものに埋もれてしまっていた。

 呼吸ができない。このままでは本当に天国に行ってしまう。

 退かそうと慌てて“それ”を鷲掴むと、


「ひゃうん!?」


 艶美な女性の声が鼓膜を響かせる。

 あれ、もしかして僕が掴んでるものって……。


「何やっているんだユーリ!」

「はぁ、はぁ……死ぬかと思った」


 ルヴィアがシスターを起こして助けてくれた。

 失った空気を必死に取り込む。

 危なかった……本当に死ぬかと思った。


「ごめんなさい! ごめんなさい!

 お怪我はありませんか!?」

「はい……僕は大丈夫で……」


 謝りながら心配してくるシスターを見て。

 僕は言葉を失い目を見開いた。


(デカい……)


 シスターの身長は僕より頭一つ分大きくて。

 比例するように胸も凄く大きかった。

 修道服が苦しいと泣いている気さえする大きさだ。


 そうか……僕を包んでいたのはあの胸だったのか。

 そして僕はあの胸を掴んでしまったのか。

 両手に残っている柔らかな感触を思い出しながら。

 つい視線を吸い寄せられていると、ルヴィアが咳をしてくる。


「ごほん、おいユーリ」

「ごめんなさい」


 正直に謝る。

 敬虔なシスターに邪まな目を向けるなんて。

 僕はなんて罪深き人間なんだろうか。


「主よ。

 今日もまた人様に迷惑をかけてしまったリリィをどうかお赦しください。

 サーラム」


 首にかけてある太陽をモチーフにしたロザリオを持ちながら。

 シスターが神に祈りを捧げる。


(それにしても綺麗な人だな……)


 祈りを捧げているシスターに目を奪われてしまう。

 短めの金髪に、澄んだ碧色の瞳。

 染み一つない綺麗な肌。

 大きな身体と大きな胸。


『ユーリって巨乳好きよね。

 私もルヴィアもそうだし』

(違うよ!)


 人をスケベ野郎呼ばわりしないでくれるかな!

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