LV-18:新しい地図

「カタルリーアと、アスドレクの城との間に、村が一つ増えてるな……ビトルノっていうのか。しかし、他の村と違って色が薄いな。なんでだ……?」


 教会を出た俺たちは、レストランで地図を見ながら話をしていた。他の村はクッキリと表示されているのに、ビトルノだけは薄いグレーで表示されていた。


「もしかして、以前は村だった場所かもしれませんね。アスドレクの城からも近いし、ありえると思います」


「ビトルノは、滅びた村って事なの……? 村って結界が守ってくれてるのよね?」


「マジで? 村の門にある、緑色の石のことか?」


「サーシャ、ティシリィ……もしかして、あなたたちは、ルッカの図書館で結界の事を調べていないのですか……? 不勉強が過ぎますね……」


「ハハハ、アタシそういうの苦手だから! どうすればレベルが上がるかとか、レアアイテムの本くらいしか読んでないや。インディなんて、地図貰いに行ったときが初めてなんだぜ、図書館入ったの!」


 そう言ってティシリィが笑い飛ばすと、ナイリはキッと、俺を一睨みした。


「大昔、モンスターによってこの国が滅亡寸前になったのは知っていますよね? 今の王の先祖は、隣国から多くの戦士や、魔法の使い手を呼び寄せたそうです。

——その当時の魔王を倒したのが、呼び寄せた内の一人、パウロ・アルジャンテ。倒しただけではなく、結界を作る魔法も使えました。その方が全身全霊をかけて作ったのが、今も村やお城を守っている、結界の石なのです。その事から、後に伝説の勇者と呼ばれるようになりました」


 恥ずかしながら、全く知らない話だった。PRムービーでは映像が中心で、内容に触れるシーンは殆ど無かったからだ。


 そもそも、ルッカの図書館にはそういう役割もあったという事だ。てっきり俺は、取説の類いばかりが揃えられているものだと思っていた。


「本当にビトルノが滅びているんだとしたら、結界の効力が弱くなったのかしら……それとも、結界を破壊するモンスターがいたとか……?」


「これは、考えても分かんねえな……昼ご飯食べたら行ってみようじゃないか、ビトルノへ!」


 俺たちはテーブルに置いてあったメニューを手に取り、まずは腹ごしらえをする事にした。出発は今から1時間後と決めて。



***



「そうそう、サーシャ。アタシたちのパーティーって、モンスターの攻撃で身体に痛みを受けることがあるからな。覚悟しておけよ」


「そ、そうらしいわね……でも、どうしてティシリィたちだけなのかしら? 不思議よね」


「ヴァントスさんが運営にそのように指示を出してる、なんて事は考えられる……? どうだろう、サーシャ」


 俺は密かに思っていたことを打ち明けてみた。


「んー……力ずくでも、ゲームを優位に進めようとする所はあるけど、そこまで悪い人では無いと思うわ、私は」


「そもそも、トロール戦でダメージを受けたときは、ヴァントスは上陸さえしてなかったじゃないか」


「ああ……確かにそうだっ——」


 ズウーン……


 地響きと共に大型のモンスターが現れた。ヘルゴーレムというのか……


「サーシャ、下がれ! ナイリ、ヤバいと思ったらエクササンドスだ!」


「分かってます!」


 ナイリの返事を待たず、ティシリィは雄叫びを上げてヘルゴーレムに斬りかかっていた。CHクリティカルヒットの表示が出ていたが、1/2のHPを残している。かなりの強敵と見ていい。


 残った三人が魔法を唱えようとした瞬間、ヘルゴーレムは自分の右拳を力いっぱい地面に叩きつけた。


「きゃあっ!!」


 地面が大きく揺れるのと同時に、全員にダメージが走る。もしかしたら、全体攻撃で受けたダメージとしては、今までで一番大きいかもしれない。肝心のHPは……全員大丈夫だ。 


「落ちろっ、エクササンドスっ!」


「ラピオードっ!」


 ナイリは雷系のエクササンドス、俺は水流を呼び寄せるラピオードを放った。


 最後に放ったのが、ラピオードだったからか、ヘルゴーレムはドロドロと溶けて土へと還っていった。


「なかなかの強敵だったな……そこそこ身体にダメージ来たけど、サポートセンターに言うほどでも無いか」


「……ちょ、ちょっと。あなたたち、今までずっとこんなダメージ受けてきたの?」


 サーシャの想像以上に、受けたダメージが大きかったのだろう。サーシャの顔が、少し引きつっていた。


「確かに、今のは私が受けたダメージの中では一番大きかったです。でも、ティシリィやインディが受けてきたダメージって、こんなものじゃありませんよね?」


「そ、そうだね……酷いときは倒れ込んだくらいだから。でも、いつもこんな風になる訳じゃ無いから。そこは安心して」


 サーシャが「抜ける」なんて言い出さないかと、俺は少し心配になったのだ。


「大丈夫。あれくらいなら、耐えられるわ。それにしても……あなたたち、いつもあんな戦い方をしているの?」


「あんなって言うのは?」


 そう言って、ティシリィは首をかしげた。


「ティシリィは本気で斬りかかっていくし、ナイリやインディは大きい声で魔法を唱えてる」


「当たり前だ。アタシたちはいつだって本気だ」


「いいよ……いいよ、あなたたち!! 私もこんなバトルがしたかったの。ロクサスたちのパーティーだと、こんな事無かったから。みんなその場で剣を振り下ろすだけだったり、本当につまらなかった……」


「分かりますよ、サーシャ。私もこの人たちと最初にバトルをした時、感動しましたもの」


「偉いのはティシリィだよ。俺も彼女に影響されて、こんな感じになったから」


「……ハイハイ!! だべってないで、先を行くぞ! ビトルノって村へ!」


 頬を赤く染めたティシリィは、剣を鞘にも収めずズンズンと歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る