LV-37:出発

 今朝はいつもより早い時間にレストランに集合した。ヴァントスさんたちに先を越されぬよう、少しでも早く出発するためだ。


「あれ? サーシャは?」


 既に来ていたティシリィに声を掛けた。


「昨晩、帰る前に神父に引き留められたんだ。明日の朝、顔を出してくれって。何でか、サーシャだけ」


 レストランの入り口が騒がしくなる。ヴァントスさんたちもレストランに入ってきたようだ。きっと、俺たち同様、少しでも早く出発したいのだろう。エクラウスさんは目が合うと、ニッと笑顔を送ってきた。「お互い頑張ろう」 多分、そんなメッセージが込められているのだと思う。


「サ、サーシャ! どうしたのです、その格好!!」


 遅れてレストランに入ってきたサーシャに、ナイリが声を掛けた。その声は大きく、俺たちだけでなくヴァントスさんたちも振り向かせた。


「神父さんが、使ってくれないかって……ど、どう? 似合ってる?」


「聖母の法衣に、聖母の杖か……めちゃくちゃカッコいいじゃん! 似合ってるぞ、サーシャ!!」


 サーシャの聖母の法衣は、シスターの衣装のようだった。だが、肩などには金属製の防具らしきものも着いており、ただの修道服では無い。黒がベースに金のあしらいが施されたその法衣は、金髪のサーシャにとてもよく似合っていた。


「以前、この村にいたシスターの防具らしいの。私に使って欲しいって。この杖は、全員にハイリカバリーを掛けられるみたい。かなりのMP節約になるよ」


「おいおい……何だかティシリィのパーティーだけ、色々と優遇されすぎじゃないか? 俺たちには馬車のイベントも無さそうだし、どうなってんだよ」


 ロクサスは、わざわざ俺たちの方までやってきてそう言った。


「ロクサスたちだって、ルッカに行かずとも王様から地図貰ったり、優遇されてた事あったじゃんか。なにより、攻略方も知ってるんだろ? よく言えるな、そんな事」


「地図の件は、俺たちから何か言ったわけじゃ無い。お前たちがルッカに行かされたってのは、知ってたがな……あともう一つ。俺たちもここから先、攻略方は知らない。お前たちと条件は同じだ。負けたときには、言い訳するなよ」


 ロクサスはそんな台詞を残して、自分たちのテーブルに戻った。


 ロクサスたちは、攻略方を聞き出すことをやめたのか……さっきのロクサスを見る限り、嘘を言っているようには見えなかった。




「エクラウスさんが『攻略方を聞き出すことなんてやめよう』とでも言ったのかな?」


 テーブルに着くと、サーシャが小声で言った。


「その可能性は高いですね。最後の戦いくらいは……と、ヴァントスさんの気が変わった可能性もありますが」


「新しい二人、カイとティナって子も良い子たちらしいよ。エクラウスさんと一緒に三人で訴えたのかもしれないね」


「いつの間にそんな話したんだよ、インディ。——まあ、あっちの僧侶は二人とも男だから、この装備はどっちみち貰えなかっただろうけどな」


 確かに、ヴァントスさんたちのパーティーの僧侶は、エクラウスさんとカイ。どちらも男性だった。


「もしかしてだけど……私たちは4人パーティーだから、って事もあるんじゃない? 普通に考えたら、絶対6人の方が有利だもん。だから、緑の石や、私の装備が貰えたのかも」


 サーシャが言うと、俺たちは「あー」と声を上げた。


「それでは、食事が済んだら、製錬工房、防具屋、雑貨店で最終装備を調えます。それが全て済んだら出発です……私たちが追い続けたベテルデウスとの最終決戦……今まで同様、全力で戦いましょう」


 俺たちは笑顔で頷いた。


 みんなの顔が、自信に満ちあふれているように見える。


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◆インディ(魔法使い)LV-78

右手・希望の剣[ETA]

左手・神秘の盾

防具・魔法の鎧

アクセ・守りの指輪/神秘のネックレス/雨の恵

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◆ティシリィ(戦士)LV-78

右手・神秘の盾

左手・光りの剣[ETA]

防具・黒騎士の鎧

アクセ・幸運のブレスレット/ツインイヤリング/神秘のネックレス

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◆ナイリ(賢者)LV-78

右手・ブレイブソード[ETA]

左手・神秘の盾

防具・神秘の鎧

アクセ・神秘のネックレス

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◆サーシャ(僧侶)LV-71

右手・氷塊の杖

左手・聖母の杖

防具・聖母の法衣

アクセ・祝福の指輪/神秘のネックレス/雨の恵

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 ナイリの最終武器であろう、『ブレイブソード』もガルミウム鋼で強化され、『ブレイブソード[ETAエンハンスメント]』となった。


 また、俺とナイリの防具に関しては、一つ格下のままとした。俺とナイリの最終防具もそろそろ出るのでは? という、ナイリの予想からだ。その代わり、MP回復カプセルを大量に購入している。



「クソッ、少し出遅れたか。サーシャがダラダラと鏡見てるからだぞ」


「だって、新しい装備はじっくり見てみたいじゃん! 寝癖のまま出発出来るティシリィとは違うの私!」


「まあまあ……ほら、ヴァントスさんたちだって前方にいるのが見えてる。全然大丈夫だよ」


 そう言われたティシリィは気になったのか、真っ赤な髪をワシャワシャと手ぐしでといていた。


 


 本日最初の敵は、何度も戦ったワームドラゴンだった。


「アタシはちょっと見ておく。強化された武器試してみろよ、インディとナイリ」


「言われなくても!」


 ナイリは既に斬りかかっている、速い。いつものように、「おおおー!」との掛け声と共に、剣を振り下ろした。今までの武器よりも明らかにダメージを与えている。


 俺も続けて『希望の剣[ETAエンハンスメント]』で斬り込んだ。賢者のナイリには及ばなかったが、改造前に比べるとかなり攻撃力が高くなっている。直後に放ったサーシャの氷塊の杖で、ワームドラゴンは地面に叩きつけられた。


「うんうん。二人ともなかなかだ。ナイリはその辺の戦士より、よっぽど強いんじゃないか? インディの剣も、かなり強くなった」


「私の氷塊の杖と聖母の杖もそうだけど、MPを使わなくて良いっていう選択肢が増えていくのは助かるね。——じゃ、先へ進もうか!」


 サーシャが言うと、俺たちは再び前進を始めた。




 クロトワ集落の近くを抜けると、大きな湖が左手に現れた。美しい水鳥たちが、優雅に湖面を泳いでいる。


「クロトワの事を知らなかったら、あの集落に辿り着くのは難しいよね。普通に移動してたら、絶対に分からない」


「そうですね、インディ。ヴァントスさんたちがベテルデウス戦に向けて出発したって事は、クロトワ族の事は完全に無かったという事になります」


「しかし……アタシたちが一日先行していたから良かったが、下手したら追い抜かれていたな。いや、実際に僅差だが追い抜かれてるし」


「その代わり、私たちには『命の石』があるじゃん。……あと、私はクロトワ族のシナリオがあって良かったって思ってる。——カウロたちのためにも、絶対ベテルデウスを倒すんだから」


「サーシャって案外、アツイとこあるんだよな。見た目と違って」


「何よ、ティシリィ! まるで私が冷酷な人みたいじゃない!」


「アハハ、そう言う意味じゃないって。痛い痛い、叩くな、叩くな!」


 この四人になってから日は浅いが、俺たちイロエスは立派な仲間になっていた。

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