LV-38:分かれ道

 長く続いた湖畔の景色も終わり、俺たちは小戦闘を繰り返しながら前進を続けている。ヴァントスさんたちとの距離は出発時と同様、つかず離れずを繰り返していた。


「なんだあれ、分かれ道か。立ち止まってるなヴァントスたち」


 前方には森があり、森への入り口は左右二つに分かれていた。向かって左の入り口は山側へ、右の入り口は海側へ向かっているように見える。行き着く先は同じだとは思うが。


「私は、なんとなく海側の道に進みたいな。ヴァントスさんたち、山側の方へ行け! 山側へ!」


 サーシャのそんな願いも空しく、ヴァントスさんたちは海側へ向かうであろう、右の入り口を選んだ。


「同じ道から進んではいけない、なんてルールはありませんよ。私は違う方を選びたいですが」


「そうだな。アタシも違う方がいい。パッと見、雰囲気良くない方が、結果良かったりするんだ。舌切り雀の葛籠つづらみたいにな」


「では、私たちは小さい葛籠を取りに行くとしますか」


 俺たちは、道の先が少し暗くなっている、山側へ向かうであろう入り口を選択した。




 森の中で最初に現れたのは、エンディゴというクマのようなモンスターだった。頭からは大きな角が生え、全身はいかにも固そうな獣毛で覆われている。そして、逞しい両腕の先には、鋭利な爪が生えそろっていた。


 ティシリィが先頭で斬りかかると、エンディゴは両手を顔の前でクロスさせ、防御姿勢を取った。ダメージは殆ど通っていない。そして、防御を解くと同時に、その両手で空気を切り裂いた。


「きゃあっ!!」


 全員に、空気のやいばらしきものが襲いかかった。やはり最後まで、謎のダメージは継続するようだ。HPの方は、サーシャの聖母の杖が、俺たちを即座に回復した。


「剣での攻撃は通りにくそうです。サーシャは氷塊の杖! インディはファイラス辺りを! 私はギラサンドスです!!」


 ナイリのギラサンドスが、エンディゴの頭上に落ちた。剣の攻撃は通りにくい代わりに、魔法はよく効くようだ。ナイリの言っていた通り、俺のファイラス、サーシャの氷塊の杖でエンディゴは膝から崩れ落ちた。




 俺たちは森の中で、モンスターたちと戦いを繰り広げた。エンディゴ以外は剣の攻撃も普通に通り、これといったピンチも無い。大量に用意したMP回復カプセルは、まだ十分にある。この調子で城に入っていきたいものだ。


 森の隙間から城の先端が見えだした頃、ティシリィが足を止めた。


「おい、デカイ橋があるぞ。普通に渡っていいんだろうか」


「って言うか、渡らないと進めないんじゃないの? やだよ、川に入って濡れたりするの」


「もちろん、ここは渡るべきでしょう。何かしらのイベントが発生するとは思いますが……それはそうと、ベテルデウスに城を乗っ取られるまでは、ここが第1の砦となっていたのでしょうね……」


 橋の向こうには朽ちてしまった外壁のようなものが見える。この城が落ちる前は、ここにも城兵たちが詰めていたのだろう。


「じゃ、渡るか……アタシの勘だけどな、この橋の上がバトルのステージになると思うぞ」


 ティシリィはそう言って、橋を渡りだした。俺たちも離れないよう、ティシリィの後ろにピッタリとくっついて進む。


 そして橋の中央に差し掛かった頃、前方に砂埃が立った。ティシリィが予想した通り、『ガーディアンタイタン』というモンスターが現れたのだ。一見人間のようだが、顔が極端に小さく、両手の拳が異様に大きい。身長は俺たちの倍ほどもあった。


「やっぱりな! ここはMP気にせずぶっ放してい——」


「きゃあっ!!」


 後ろにいたサーシャが悲鳴を上げた。振り返ると、俺たちが通り過ぎた側にも、ガーディアンタイタンが現れていた。前にいるガーディアンタイタンは深い茶色、後ろのガーディアンタイタンはくすんだ緑色をしている。俺たちは橋の上で、二体のモンスターに挟み撃ちにされたのだ。


「ティシリィ! サーシャと一緒に、緑のモンスターをお願いします! インディは私と目の前の茶色を!!」


「了解!」


 ティシリィはそう言うとサーシャの隣に立った。俺たちは背中合わせになって、別々の敵と対峙する形になった。


「ナイリ、この場合は全体攻撃はどうなると思う!?」


「効かないと思います、αは外して攻撃しましょう! 落ちろっ! エクササンドス!!」


 ナイリしか持っていないαの書だったが、俺とサーシャも最終決戦に向けて購入していた。どの魔法も全体攻撃に変更出来る便利な書だ。だが、MPの使用量は敵の数に合わせて増えるため、おいそれと連発は出来ない。俺は現状、エクサファイラスにセットしていた。


 ナイリが放ったエクササンドスは、大きくHPを削り取った。俺のエクサファイラスも大ダメージを与え、この調子だとすぐにティシリィたちの応援に回れそうだった。


「なんだか、あっさり倒せそうだな……俺たちが強くなりすぎたのだろうか」


「いえ、気を抜いてはいけません! きっ、来ますよ!!」


 茶色のガーディアンタイタンは、高く上げた両手に大きな岩の塊を発生させた。次の瞬間、俺たち向けて、力の限り放り投げてきた。


「あああっ!!」


 俺とナイリだけでなく、後ろにいるティシリィとサーシャにもダメージが走った。ガーディアンタイタン側からは、全体攻撃になるようだ。


「ナイリ! 作戦変更だ!! 緑色のモンスターから一緒に仕留めるぞ!!」


「ど、どうしてです!? 私たちの方は、もうしばらくで倒せ——」


 そう言いかけたナイリの前で、茶色いガーディアンタイタンが一瞬白く光った。緑色のガーディアンタイタンが回復魔法をかけたのだ。HPは全回復してしまった。


「分かっただろ。緑のやつ、すぐに回復して攻撃が追いつかない! 一気にやってしまおう!!」


 俺たちは茶色のガーディアンタイタンに背を向け、ティシリィたちと共に緑色のガーディアンタイタンと向き合った。


「コイツはどんな攻撃をしてくるんだ!?」


「殆ど防御と、回復だ。全力でやってしまおう!! おらあっ!!」


 ティシリィは叫びながら緑色のガーディアンタイタンに斬り付けた。攻撃力が倍増するアンプラッシュをサーシャが掛けていたのだろう。大ダメージを与えている。


「続きます! エクササンドスっ!!」


「エクサファイラ——」


「あああっ!!!」


 後ろにいた、茶色のガーディアンタイタンの岩の塊が俺たちを直撃し、エクサファイラスは発動出来なかった。背中を向けていたためだろう、全員が大ダメージを受けた。


「こんなとこで死ねない! サーシャ、ブレスリカバリー全員分だ!」


「わ、分かった! ブレスリカバリーα!!」


 俺たちの回復はすんだが、緑色のガーディアンタイタンもその間に回復をしてしまった。俺たちはMPを大きく減らした上に、振り出しに戻ってしまった。


「こ、こうしましょう。私が茶色のガーディアンタイタンを見ておきます。岩の塊を投げてくるときには教えます。それを防御したら、一気に緑色のガーディアンタイタンを攻めましょう!」


「了解!!」


 俺たち三人は同時に声を上げた。

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