LV-12:祝杯

 最後の部屋にあった『いにしえの書』を回収すると、新しいドアが開いた。ドアの先は長い下り階段となっていて、そのまま地上まで出られる仕組みになっている。


「良かった……テセラの塔では、もうモンスターは出ないようだね。正直、ホッとしたよ。まあ、テセラの塔を出ちゃうと、エンカウントするんだろうけど」


「にしても、エクラウス。死んでもそのまんまなんだな。てっきり、棺桶にでも入ってアタシたちの後ろを付いてくると思ったのに」


「ワシだって、そうして貰った方が楽じゃがのう……」


 テセラの塔を出てからは、これといった強い敵に会うこともなく、俺たちは無事ガッテラーレに戻ることが出来た。





「昨日も乾杯した気がするが、まあいいか! 乾杯!」


 ガッテラーレのレストランで、二日連続の乾杯をした。今日はテセラの塔の攻略祝いだ。戻りが遅かったので、王様への報告は明日に回した。


「エクラウスが死んだのは残念だったが、無事攻略出来て良かった。ボスのドラゴンは全員で特攻かけてたら全滅してたぞ、きっと」


「私もそう思います。ティシリィが攻撃せずに防御を取ったのを見て、私は感動しました」


 褒められてるのか、けなされてるのか分からないようなナイリのセリフに、ティシリィは苦笑した。


「ハハハ、確かにね。あれは俺たちにとっては、不幸中の幸いだったよ。それにしても……今日のティシリィには驚いたなあ……」


「いやいや! 可愛かったぞティシリィや。ワシも自分を犠牲にしただけの事があったわ!」


「あああああ! 黙れ黙れ黙れ! あれも演出だよ、演出! 盛り上がっただろ、アタシのおかげで!!」


 ティシリィは顔を真っ赤にしながら、反論した。ナイリはニコニコしながら、そんなティシリィを見ている。ちなみに、ナイリが今日飲んでいるのはお茶のようだ。昨日のことは憶えているのだろうか。


「ところでさ、明日王様に『いにしえの書』を渡したら、すぐにベテルデウス討伐になるのかな? まだリーヴォルの村にも行ってないし、何かしらのイベントはあると思っていいよね?」


「まだまだあると思いますよ、インディ。このまま終わるのは、ボリュームが少なすぎますもの」


 俺たちの端末には、次の村リーヴォルまでの地図しか無い。ここから先、どのような展開になるのか今の所分からないのだ。


「そりゃそうと、ロクサスたちのパーティーって、テセラの塔を一発でクリア出来ると思う? アタシは無理だと睨んでる」


 俺とナイリが賛同する中、エクラウスさんだけは微妙な表情をした。


「なんだよ、エクラウス。アイツらクリア出来ると思ってるのか?」


「い、いや、どうだろうの……ワシもクリア出来るとは思わんが……」


 エクラウスさんの返事は微妙なものだった。


 その時、レストランの入り口付近が騒がしくなった。


「おう、ティシリィ。テセラの塔を攻略したらしいな。俺たちも明日、テセラの塔に向かうぞ。早くしないと俺たちに追いつかれるぜ」


 ロクサスたちのパーティーが入ってきた。昨日とは違って、全員がガッテラーレ最強の装備をしている。


「テセラの塔をあんまり舐めない方がいいと思うよ。せめてアンタたちが最上階に辿り着けるよう、祈っておいてやるよ」


 ティシリィの挑発にも、ロクサスは余裕の表情を見せていた。ガッテラーレ最強の装備を付けているからだろうか……? だが、ティシリィが言うように、テセラの塔はそんなに甘くは無い。


「まあまあ、熱くなるなよティシリィ。俺たちだけじゃなくて、宿に新しいパーティーも到着していたぞ。せいぜい追い抜かれないようにな」


 ロクサスたちは、俺たちのテーブルから一番遠い席に腰を下ろした。聞かれたらマズイ話でもあるのだろうか。俺たちもその方が落ち着くと言えば落ち着くが……


「なんだよ、アイツ……絶対、ロクサスたちだけには負けねえから! ……ビ、ビールお代わりだ!」


 当初の倹約精神も薄れてきたが、今日は二杯くらい飲んでも良いだろう。それくらい、ティシリィの活躍は見事だった。



***



「こ、この期に及んでルッカに戻れだって!? なんでだよ、王様!」


 朝一番で、俺たちは『いにしえの書』をたずさえ、王様の元へと来ていた。


「この国の地図を、ルッカの図書館に隠しておるからじゃ。ルッカの村の者には既に伝えておる。図書館の秘密の扉を開けて貰い、その地図を受け取るがいい」


 少しでも早く進みたいティシリィは不機嫌になったが、俺を含む残りの三人はそうでも無かった。緊張感の続くバトルが多かったため、ゆっくり出来る時間が欲しかったのかもしれない。どちらにしろ、ヴァントスさんたちもルッカを訪れなくてはいけないのだから。


「その後に、リーヴォルの村を訪れるがよい。今、お前たちに渡せるのは、この剣と、この魔法の書の二つじゃ。地図通りに進めば、また新しい何かを手に入れる事が出来るであろう」


「有り難き幸せでございます。それでは地図を手に入れた後、我々は新たな旅に出ることとします」


 そう言って、エクラウスさんは前と同じように王様の前で膝をついた。




「なーんか、すっきりしねえなあ。なんで、よりによって一番遠いルッカなんだよ。往復したら確実に一日潰れるじゃんか」


 ルッカへの道中も、ティシリィはまだ納得がいかない様子だった。


「こんな事言っちゃうと冷めるかもしれないけどさ。ルッカや、ルッカ周辺のプレイヤーに、テセラの塔を攻略したプレイヤーがいるって事を知って貰いたいんじゃない? 『ああ、無理ゲーじゃなくて、本当にちゃんと進むことが出来るんだ』って」


 俺の意見に、エクラウスさんは「なるほどな」と、相づちを打ってくれた。



「ねえねえ、どうせ戻るなら、ちょっとオシャレしていきません? エクラウスさんとティシリィは髪も染めて、世界観バッチリだけど、私とインディ……特にインディは何か普通すぎるって言うか……」


「そうそう、アタシも思ってたんだ! まずはその中途半端な髪型だよな? ここ来る前にカットとかしなかったのか?」


 ちゅ、中途半端な髪型って……もう少し言い方があるだろうと、俺は苦笑いしてしまった。


 まあ理由としては、他の用意に時間をかけすぎてカットに行けなかったのと、もとからオシャレに無頓着だっていうところだろう。


「ちょっとインディ座って。いっその事さ、髪を後ろでまとめて……アタシのゴムで止めると……おお! いいじゃん! 雰囲気出たぞ!!」


「おお、いいのう! 似合ってるぞインディ!」


「ええ! 私もいいと思います!」


 そこからはオシャレ大会となった。


「ティシリィ、このイヤリングを男性陣にどうでしょう? 紫がエクラウスさんで、青色がインディ。元々は私が日替わりで着けようと思っていたのですが」


「おおお、良いんじゃないか!? よし、それもアタシが着けてやろう!」


 ティシリィは意外にも手際よく、エクラウスさんと俺にイヤリングを装着していった。


「おおお、インディ似合ってるじゃないか! ワシとお揃いってのも嬉しいのう! いやあ、オシャレは幾つになっても楽しいもんじゃわ!!」


 俺だけ着けたくない、とは言えない空気になってしまった。


 俺は髪を結い、イヤリングをした姿でルッカに向かうことになった。

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