リアル無人島でRPG! 参加費は150万円!? この島で最強の魔法使いに俺はなる! —RPG ISLAND—
靣音:Monet
LV-01:旅立ちの村、ルッカ
混み合う更衣室の中。コスチュームに着替え終えた俺は、鏡の前に立った。
リネン素材のシャツとパンツ。その上に羽織っているのは、ブラウンの旅人のコート。そのコートの裾からは、初期装備の銅の剣が覗いている。
「おおお……まさに旅立ちの時のコスチューム……ハハハ、でも弱そう」
俺はそんな独り言をいって笑う。
鏡でのチェックを終えた俺は、隣の会場へと移動した。会場には既に、俺と全く同じ格好をした多くの人たちで埋め尽くされている。しばらくすると、進行役のスタッフが壇上に上がり、マイクを取った。
「皆さま、長時間の船旅、お疲れ様でした! 私のすぐ後ろにある『旅立ちの扉』を開いて頂くと、そこから先はロールプレイングゲームの世界です! 魔王を成敗、もしくはリタイヤされるまでは、この会場に戻ってくることはございません!!」
会場にいる150人の参加者たちから、「おーーー」という歓声が上がる。
この会場に集まっているのは、『RPG アイランド』と名付けられたアトラクションの参加者たちだ。東京湾から船に乗り、3時間も掛けてこの島に移動してきた。
「ここは無人島という事もあり、医療施設があるのはこの本部だけです。万一、ゲーム中に体調を崩された方は、こちらまでお戻りください。その他の説明は、既に船内にてご確認頂いているかと思います。では、私の話はこのくらいにして……
——準備は宜しいですかっ!? それでは、非日常の世界をたっぷりとご堪能ください!! ……いざ、冒険の世界へ!!」
進行役が話し終えると、150名の参加者は『旅立ちの扉』に向かって走り出した。
そんな中、俺は高揚した気持ちのまま、その場に突っ立ていた。この会場の余韻に、もう少しだけ浸っていたかったのだ。『RPG アイランド』開催が発表されてから2年も待ち続けたのだから……
そんな思いにふけっていたからか、『旅立ちの扉』を開けるのは俺が最後になった。
『旅立ちの扉』を開けると、長い廊下が現れた。天井はアーチ状になっており、頼りない光量のランプが規則的に吊り下げられている。廊下の突き当たりは、上り階段になっており、何度か踊り場を通り過ぎると、見るからに頑丈そうな
「楽しませてくれよ……」
そんな独り言と共に、扉を開けた。外の光りが俺の網膜を刺激すると共に、人々のざわめく声が耳に飛び込んできた。
ここは……旅立ちの村、ルッカの中だ……
すれ違う多くの人が、周りをキョロキョロしながら歩いている。スマートフォン等は全て預けるルールなので、写真を撮っている人などはいない。この景色を残せないのは残念だが、これで正解だと思う。
武器屋らしき建物を、窓ガラス越しに覗いてみる。武器を物色しているであろう、プレイヤーが何人かいた。その内、俺も新しい武器や防具を手に入れるのだろう。そんな事を考えるだけで、胸が躍った。防具屋、雑貨屋と、通り過ぎると、多くの人で賑わうレストランの前へ出た。支給された端末を見ると、もうすぐお昼になるところだった。
「おい、そこの兄さん! もし一人なら一緒にどうだい?」
声の主は、オープンカフェに座っていた老人の男性だった。どうやら、俺に声を掛けてくれているようだ。髪も髭も真っ白で、本当にこの世界の住人のように見える。そう言えば、腹も減っている。勧められるがまま、男性の向かいに腰を下ろした。
「あ、ありがとうございます。それではお言葉に甘えて」
「腹が減ってるなら、オークステーキセットがオススメだ。ワシにはちょっと量が多いがな、ハハハ」
俺は店員に声を掛け、オススメというオークステーキセットを注文した。
男性は、エクラウスと名乗った。そう、この世界では本名は使わない。ハンドルネームならぬ、アイランドネームを使って旅をしていく事になる。
「イ、インディです、宜しくお願いします」
「ハハハ、最初は名乗るのが恥ずかしいじゃろ。大丈夫、その内慣れるよ。ワシなんてジジイ口調にしてまで、世界観に合わせておるからな。どうせなら思いっきり楽しまんと」
「そ、それは素敵ですね……ところで、エクラウスさんは第1便の参加者ですよね? 先には進まないんですか?」
エクラウスさんは既に、旅人のコートではなく
「ワシの場合は、この世界観に浸りたくて参加したようなものだからなあ……バトルなんて、スライムを数匹倒したくらいじゃ。……この景色を見ながら飲んでるだけで、楽しいんじゃよ。その内、先に進もうとは思うがの」
この席から遙か遠くに、石造りの城と巨大な塔が見える。
本当にここは、ロールプレイングゲームの世界だ……
「エクラウスさんみたいな方は多いんでしょうか? ルッカには第1便の参加者と思われる方が、結構いるように見えますが」
「実はな、モンスターが思ったより強いんじゃよ。次の村、バーディア付近のモンスターでもそこそこ強いと聞く。バーディア周辺で、レベル上げでもすれば良さそうなもんじゃが、バーディアは宿も飯も高額でな。仕方なく、こっちに戻ってくる奴らが多いんじゃ」
なるほど……この島ではモンスターを倒すと端末にゴールドが追加され、それを電子マネーのように使用することが出来る。次の村では、それでは全然追いつかないという事か……
「エクラウスさんはどうされてるんです? スライム数匹の値段なんてたかが知れてますよね?」
「もちろん、これじゃよ、これ」
そう言って、エクラウスさんは人差し指と親指で輪っかを作った。
「先に進んでる連中は、リアルマネーで強い武器を買ったり、高い回復薬を買って凌いでるはずじゃ。まだ、魔王を成敗したって話は聞かんがの」
やはりそうか……この世界では獲得したゴールドの他に、登録を済ませたクレジットカードなどから、端末に入金をする事が可能だ。俺もある程度はこの島で使える金は用意した。ただ、一番物価が安いであろうこの村の食事でさえ、そこそこの金額だ。先に進むにはかなりの金が必要になるのかもしれない。
しかも、掛かる費用は島に入ってからだけじゃ無い。
「ここに来てからも、重要なのは金ですか……参加費も参加費なだけに、ちょっとショックです。貯金を崩して、親にまで借りたのに……」
「参加費だけで150万円じゃものな……ワシみたいな小金持ちの年寄りはさておき、若い子にはキツいじゃろうよ。どうりで、成人にしか参加資格が無いわけじゃ……」
そう言うと、エクラウスさんは残ったビールを一気に飲み干した。
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