LV-30:丘の上の景色
「こんにちは! ……こんにちはー!!」
俺たちは昼食を終え、神父が教えてくれた製錬工房へ来ていた。
「何だよ、誰もいないのかよ……おーい! 誰か居ないか!!」
ティシリィが大声を出すと、やっと店の奥から店主らしき人物が顔を出した。
「なんだ、アンタら……旅の者か? こんな村に来るなんて珍しいな。何の用だ?」
「神父様からお話を聞いて、こちらを訪れました。ここで、ガルミウム鋼を加工出来るっていうのは本当ですか?」
「当たり前だ。それが俺の仕事だからな。だが……神父に会ったのなら聞いただろ? 今は鉱山にモンスターが住み着いて、ガルミウムを採ることが出来ないんだよ。見ての通り、開店休業状態だ」
「もしさ、ガルミウム鋼があればどんな事が出来るんだ?」
「新しい武器や防具を作ることも出来るし、既にある武器をパワーアップさせる事だって可能だ。南部で売ってる、へなちょこ武器とは比べものにならんよ、この村の武器は。
——ん……? そういや、珍しい剣を持ってるな、赤い髪の姉ちゃん。あと、そっちの兄ちゃんもだ。ちょっと見せてみな」
俺とティシリィは鞘から剣を抜き、店主に手渡した。
「ほう……これはどちらも素晴らしい剣だ……ガルミウム鋼で鍛え直すと、更に素晴らしい剣になるだろうな。ほう、こりゃ凄い……」
店主はそう言って、光りの剣と希望の剣をマジマジと眺めていた。
「もしさ、アタシたちがガルミウム鋼を採ってきたら、鍛え直してくれるのか? その2つの剣を」
「ああ、もちろんだ。だが、ガルミウム鉱を取って来ることが出来たらの話だ。まあ、やめておけ……この村の屈強な男たちが何度か洞窟へ行ったが、未だに傷の癒えない奴や、命を落とした奴までいる」
「何言ってるんだ、アタシたちの最終目標はベテルデウスを倒すことだ。その辺の洞窟なんかで、死んだりしてたまるか。——アタシたちがベテルデウスを倒して、またアンタも鉱山へ入れるようにしてやるよ」
しかめっ面だった店主の顔が、みるみるうちに柔らかい表情になった。
「本当なのか、それは……」
「もちろんだ。アタシたちは嘘はつかない」
店主とティシリィは固い握手を交わし、ガルミウム鋼を取ってくることを約束した。
俺たちはモルドーリアの村を出て、小高い丘を登り始めた。丘の先にはどんな景色が広がっているのだろうか。まだ見ぬその景色に、俺たちは胸を躍らせていた。
「す……凄いな……」
丘を登り切ったティシリィの髪を、平地からの風がなびかせた。
丘の上からの景色は圧巻だった。左手には北部と中部を隔てる山脈、正面には真っ青な水を湛えた大きな湖、右手には果てしなく続く海岸線があった。広大な湖と海の青、風に揺れる草木の緑が、鮮やかなコントラストを描き出している。
ただ、一部の場所を除いては……
「あ、あれですね……ベテルデウスの城は……」
ここから一番遠い場所にあったその城は、アスドレクが居た城同様、原形をとどめていなかった。その上、塔の上には黒い雲が立ちこめている。まさに、最後の舞台に相応しい城と言えるだろう。
「ハハッ……凶悪な見た目してやがる……ワクワクしてきたよ、アタシは……」
俺たちはしばらくの間、丘からの景色を眺めていた。
「さあ、今からどちらへ行こう……? 集落か、それともガルミウム鉱山か」
「私は集落がいいと思う。人がいるだろうから、何かしらの情報が貰えるんじゃない?」
「そうですね、サーシャ。まずは集落から行きましょう。多分、あの辺りじゃ無いでしょうか」
ナイリが指さした先は、ほんの少しだけ木々が少ない場所だった。神父から聞いてなければ、まず気付くことは無かっただろう。
「よし、行こう! あの場所へ!!」
——————————
◆インディ(魔法使い)LV-70
右手・希望の剣
左手・魔法の盾
防具・魔法の鎧
アクセ・守りの指輪/神秘のネックレス/雨の恵
——————————
——————————
◆ティシリィ(戦士)LV-74
右手・魔法の盾
左手・光りの剣
防具・黒騎士の鎧
アクセ・幸運のブレスレット/ツインイヤリング/神秘のネックレス
——————————
——————————
◆ナイリ(賢者)LV-73
右手・炎の剣
左手・神秘の盾
防具・神秘の鎧
アクセ・神秘のネックレス
——————————
——————————
◆サーシャ(僧侶)LV-59
右手・氷塊の杖
左手・魔法の盾
防具・神秘の鎧
アクセ・祝福の指輪/神秘のネックレス/雨の恵
——————————
ティシリィに続いて、ナイリも俺のレベルを超えたことから、『雨の恵み』は俺が装着する事になった。いつもなら剣を新調するナイリだが、『そろそろ、私専用の剣が出ると思うのです』と、今回は見送っている。
「多分さ……そろそろ来るぞ、新しい敵さんが……アタシの勘は当たるんだ」
「そういや、誰にだって呼び捨てなのに、敵には『さん』付けするよね、ティシリィって。ハハハ、おかしなの」
サーシャが笑ったかと思うと、地響きと共に敵が現れた。相手は、ワームドラゴン。蛇にドラゴンの両翼が付いたような姿をしていた。
「ほら来た! デカいぞコイツ、無闇に突っ込むなよ!」
そんな台詞とは裏腹に、ティシリィは敵に斬りかかっていた。黄金に輝く剣の軌跡はワームドラゴンの体に炸裂し、
「……す、凄い!! HPの殆どを削ったぞティシリィ!!」
「インディ! 報告はいいから攻撃しろ!」
ティシリィが言い終わらない内に、俺もワームドラゴンに斬りかかっていた。左からはナイリも飛びかかっている。ワームドラゴンは、なすすべも無く地面に倒れ込んだ。
「あらら……私もだけど、ワームドラゴンも何も出来なかったみたいね。北部のモンスターってたいした事ないのかしら?」
「いいえ。きっと、ティシリィが強くなりすぎたのです。今この島で一番強い戦士はティシリィでしょう」
ティシリィが目指していた、最強の戦士というのは、もはや達成されているのかもしれない。ティシリィは無言で歩き始めたが、きっとその表情は緩んでいることだろう。
最初のワームドラゴンに関しては、ティシリィの
「お。見えてきたぞ、集落が! アタシが一番乗りだ!」
そう言って、ティシリィは集落の入り口であろう門まで駆けていった。だが、何か様子がおかしい。門の前で、背の高い男性に入るのを止められているように見える。俺たちもティシリィの元へと駆け寄った。
「どうしたんだ、ティシリィ」
「コイツが集落に入れてくれないんだよ! なんとか言ってくれ、ナイリ!」
「初めまして、イロエスというパーティーのナイリと申します。どうして、私たちは集落へ入れて貰えないのでしょうか」
「どうもこうもない、お前たちは昔から敵だ! 俺たちの世界に足を踏み入れるな!」
想像もしていなかった展開に、俺たちは言葉を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます