LV-44:デビラ(後編)

 ティシリィの初太刀は空を切り、避けたデビラはティシリィの真上に移動していた。


「そんな速さで俺を斬れると思ったのか。愚か者め……」


 デビラは大きな爪を振りかざすと、力の限りティシリィに叩きつけた。


「ああっ!!」


「ティシリィ!!」


 その一撃だけで、ティシリィは大きくHPを削られた。かなり大きなダメージを体に受けたのだろう、ティシリィは片膝を床に付けていた。


「で、でも、魔法を避けることは無理でしょう! 落ちろ、エクササンドス!!」


 今度は、ナイリがエクササンドスを放つ。部屋に暗雲が立ちこめると、デビラはその雲にゆっくりと顔を向けた。そしていかづちが落ちる瞬間に移動すると、エクササンドスは轟音を立てて床を直撃した。


「な、なんですって……!? 何が効くのです、このデビラってモンスターは!!」


「ハハハ……何も効かない……お前たちは何も出来ず死んでいくだけだ。絶望しながらな!!」


 デビラは両手の大きな爪で、空気を切り裂いた。無数の黒い刃が発生すると、次々と俺たちに突き刺さった。


「きゃああっつ!!」


 全体攻撃にも関わらず、ダメージが大きい。この技を何度か繰り返すだけで、俺たちは全滅してしまうかもしれない。回復手段が無いに等しかったヴァントスさんたちのパーティーが、勝てるはずも無かった。


「インディ! 今日は何か見つからないのか!? どうすればいい!?」


「な、何も分からない! とにかく今は、防御、回復、そしてサーシャ、ティシリィにアンプラッシュを!」


「回復が済んだらやる! エクラウスさん! 何か分からない!?」


「すまん! 後ろから見ていても全然分からん!! 今は闇雲に動くのは危険じゃ!!」




 今の俺たちは、回復と補助魔法を唱えるので精一杯だった。


「そんなレベルでアスドレクを倒したのか……たいした事無かったな、お前たち。——ああ、そうだ。お前たちの命を助けてやる代わりに、南の城の結界を外してくれないか? こう見えて、俺は嘘はつかないぞ」


 この世界がゲームでは無く、本当に殺されるかもしれないとしたら、俺は何と答えていただろうか……


 だが、彼女たちは強かった。


「バ、バカにしないでっ!! お前だけは絶対に許さない!! 絶対に死を持って償わせる!!」


 サーシャが叫んだ。


「そうです……絶対に許しませんっ!! ……道連れにしてでも、地獄にたたき落とします!!」


 ナイリはそう言うと、剣を振り上げデビラへと向かっていった。


 ナイリは果敢に飛び込んでいったが、ティシリィの時のように簡単にかわされてしまった。そして同じように、デビラから強烈な一撃を食らう。


「ナ、ナイリ!!」


「だ、大丈夫っ! これくらい自分で回復出来ます!!」


 ダメだ……俺含め、誰も解決策を見出せない時間が続く。



 ティシリィはその後も何度か斬り掛かったが、その都度、剣は空を切った。全体魔法なら効くかと、俺もエクサファイラスαを放ってみたが、それも空振りに終わった。その後もデビラの全体攻撃は続き、俺たちは防御と回復以外になせる術が無かった。


「エクラウス! 端末ばっか見てないで、打開策を見つけてくれ!!」


 そう言えば、戦いの途中からエクラウスさんはずっと端末を眺めていた。何をしているのだろうか……


「そろそろ、『命の書』を使うわ……私が出来る事は少なくなるけど、後はお願い!!」


 MPが残り少なくなったサーシャは、全MPを消費して『命の書』を使った。控えていたエクラウスさんは生き返り、俺とティシリィの側までやってきた。


「……ティシリィ? ワシが魔法を唱えたら、デビラの元へ走ってくれ。多分……多分じゃが、成功するはずじゃ……」


「ククク……こそこそと何を話している? 今更そんなジジイを生き返らせても死体が増えるだけだぞ!!」


 デビラはそう言うと、またもや黒の刃を放ってきた。全員に大きなダメージが走る。エクラウスさんは回復魔法を使うかと思いきや、意外な魔法を唱えた。


「お前の攻撃もそこまでじゃ!! 地面にひれ伏せ! グラヴィティボムッ!!」


 エクラウスさんがそう叫ぶと、デビラの顔から笑みが消えた。次の瞬間、デビラは激しく床に叩きつけられた。


 そして、デビラが顔を上げたその前には、走り込んできたティシリィがいた。大きく振りかぶった光りの剣は、眩しいほどに輝いている。


「くたばれっ!! この悪魔がっ!!」


 『ザシュッ!』という、大きな音を立て、ティシリィの剣がデビラを捉えた。今までの怒りが爆発したのだろうか、SCHスーパークリティカルヒットの上、2回攻撃となっていた。


「このう……まだまだ……」


 ヨロヨロと起き上がろうとしたデビラに、ナイリも飛びかかっている。サーシャはナイリのブレイブソードにもアンプラッシュを掛けていた。


「あの世で詫びなさい!! クロトワの人々へ!!」


 ナイリの攻撃はCHクリティカルヒットになった。ティシリィの剣以外で、CHクリティカルヒットを見るのは初めての事だ。肩から胸まで斬られたデビラは、おびただしい量の血を流していた。


「ハハ、なんださっきの魔法は……調子に乗らず、さっさと皆殺しにすべきだったな……俺の夢、ベテルデウスを捕食する事は叶わなかったか……ベテルデウスの体は、お前たちにくれてやる……」


 デビラはそう言うと、紫色の血とともに床へと染み込むように消えていった。




「これで……クロトワの人たちのかたきは取れましたね……」


「本当に……カウロの奥さんと、そのお子さんに伝えてあげたい。お父さんの仇は取ったよって」


「クロトワの話は重要だったんじゃな……どうしてワシらには無かったんじゃろう……旅が終わったら、ワシにも詳しく教えてくれ」


「ああ、分かった……エクラウス。それより、打開策を探るために端末見てくれてたんだな……あんな事言って悪かった……」


「ハハハ、構わんよ。魔法の効果を今一度、端末で見直しておったんじゃ。グラヴィティボムは敵自体に与える魔法じゃなく、エリア自体に重力を与える魔法だと書いておったからの。いくら素早くとも、これは逃れられんじゃろうと」


「エクラウスさん、よく気付いてくれました。この勝利はエクラウスさんのお陰ですよ」


「ハハハ、少しでもお前たちの役に立てて、ホッとしておるよ」


 エクラウスさんはそう言って笑った。

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