LV-15:怒れるティシリィ
宿を取った俺たちは、男女それぞれの部屋へと移動した。30分後にレストランで食事をする約束をして。
「ティシリィはえらく怒っておったな……まあ、あれは怒っても仕方ないが。しかし、運営も何を考えておるんじゃ」
「ガーゴイルから受けたダメージだけでカンカンだったのに、ロクサスたちとの扱いの差は酷すぎますよ……1番を狙ってるティシリィにとっては許せないと思います。それより、ロクサスたち、何か隠していると思いませんか?」
そう言うと、エクラウスさんはまた困った表情をした。そう、テセラの塔をロクサスたちはクリア出来るか、出来ないか、という話になった時と同じように。
「エクラウスさん、もしかして何か知ってるんですか……? もし知っているなら教えて貰えませんか?」
「うーん、そうじゃな……分かった。言うよ、レストランで。皆の前で」
そう言うと、まだ時間があるにも関わらず、エクラウスさんは先にレストランへと向かった。
俺が時間通りにレストランに着くと、ティシリィはまだ来ていなかった。時間にうるさいティシリィにしては珍しいことだ。
「ティシリィは?」
「サポートセンターと話をしています。さっきから、ずーっと」
ティシリィは俺に構わず、さっさとサポートセンターに連絡を入れたようだった。まあ、ティシリィならそうするだろう……
「まあ、ワシたちは飲んで待っておこう。すまない、ビールのお代わりを貰えるかな?」
エクラウスさんは店員にそう言った。既に、何杯かビールを飲んでいるようだ。
「ったく……! アイツらいい加減過ぎるぜ、ホントに! ごめんな、待たせて」
ティシリィがレストランに入ってきた。サポートセンターとの対応に納得がいっていないのだろう、ティシリィは怒りさめやらぬようだ。
「で、サポートセンターは何て?」
「ガーゴイルの件は、高難易度モンスターの調整に時間が掛かってるんだと。『またアタシたちだけだろ? 被害合ってんのは!?』そう言ってやったけど、申し訳ございませんの一点張りだよ」
「なんですか、それ……酷いですね。——それで、ロクサスたちの件は?」
「それに関しては、プレイヤーたちの進行状況を見て、イベントなどを前後させる事があるんだと。エンディングに向けて、今後もあると予測されますってさ。……言ってやったんだよ、どうして先頭を走っているアタシたちが二番手になるような事をするんだ! って」
「確かにそうだね……で? 何て答えたの、サポートセンターは?」
「細かいことは言えないけど、ティシリィさんたちのパーテ——」
「イロエスです」
ナイリがすかさず突っ込みを入れた。
「あ、ああ。イロエスさんたちはレベル等が飛び抜けてるって。だからバランス取ったとか言いやがるんだよ。ハッキリ言ってやった、アタシたちは一番でのクリアを狙ってるって。次は許さないってな」
レベルが飛び抜けてるか……1番でのクリアを狙っている俺たちにとって、そんな事を言われても嬉しくは無い。ティシリィはまだ機嫌が直らなかった。
「それは本当に困るね。次にそんな事が起きたら、みんなで抗議しよう」
「同感です、インディ。エクラウスさんはどう思います?」
部屋で皆に話す、と言っていたエクラウスさんは、レストランに来てからは殆ど発言をしていなかった。
「あ、ああ、そうじゃの。ちょっと納得しがたいの」
「エクラウスさん、さっき部屋で言った、皆の前で話すって件は……」
「そうだな。とりあえず、目の前の食事を取ってからにするか。冷めてしまっては申し訳ない」
ティシリィとナイリも不穏な空気を感じたのか、殆ど会話も無く食事を進めた。フォークとナイフの、カチャカチャという音だけがレストランに響いた。
「海の側だけあって、海鮮が美味かったの。ごちそうさま。……早速だが、ロクサスたちには有利な件があるんじゃ」
食事を終えたエクラウスさんが切り出した。ティシリィが何か言うかと思ったが、エクラウスさんの目をじっと見て、話の続きを待っている。
「現実的な話をするから、普段の言葉で進めるよ。ヴァントスって男が居ただろう? アイツの会社は、『RPG アイランド』の運営会社と繋がりがあってな。多分、ゲームを進めるに当たって、色々と便宜を図って貰っていると思う」
「……それは、いつから知ってたんですか?」
「初めてヴァントスと会った日だ。食後、二人だけでバーに行ったんだよ。アイツは俺にこう言った、『攻略とか知りたくないか? 山岡になら、少しくらい教えてあげてもいいぞ』って。もちろん拒否した。……インディたちだって知りたくないだろうし、俺だってそんなの聞きたくも無かった」
「で、便宜を図るってのは、具体的にどんな事を……?」
「『どんなモンスターが出るかとか、どんな攻撃パターンをしてくるかとか、知らないと後半かなりキツいらしいぞ』奴はそう言ってた。だから、その辺りの情報を手に入れてるって事だろう。最悪、それくらいならいいか、って俺は思ったんだ」
「そ、それくらいって何だよ……」
ティシリィは怒っていた。
「ああ、言い方が悪かったな、すまん……どこでどんな敵が出てくるとか知って楽しいか? アイツらはさ、ゲームの一番楽しい所を自分たちで放棄したんだ」
確かに……それはエクラウスさんの言うとおりだ。
「だが、こういうのを許しておくと、後々の順位にも響いてくるな。俺からも一度、サポートセンターに問い合わせてみるか……」
「いや……止めておこう。アイツらがクズだってのはハッキリ分かった。アタシたちはこのまま行こう。実力で勝ってやろうじゃないか」
「ティシリィ! 私、ティシリィのそういう所、大好きです! 賛成です!」
「俺も賛成だよ、ティシリィ」
エクラウスさんは笑顔で俺たちを見ていた。エクラウスさんも賛成って事なんだろう。
「それにしてもさ……ヴァントスさんはさておき、ロクサスたちはそれで満足しているんだろうか」
「ロクサスの性格なら、ウェルカムだったんじゃない? アイツはそういう奴だよ」
ティシリィは日を追う事に、ロクサスへの嫌悪感が増しているようだ。
「グラウもそういうタイプかもしれませんね。世界観とかより、ただただクリア出来たらいい、って感じが
「サーシャって人は?」
「サーシャですか……私、サーシャとは殆ど会話したことが無いんですよね。ティシリィは?」
「アタシも。金髪の子ってイメージしかないな」
クリアする事に貪欲な男3人と、金髪のサーシャ。
サーシャとは一体、どんな人なんだろう……
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