LV-05:命運
ティシリィは、宿に戻って休憩を取っている。昨日ゆっくり眠れなかったのだろうか、それとも先ほどのダメージが残っているのだろうか。
その間に俺も、ティシリィと同じ防具を購入しておいた。トロールを倒したおかげで、経験値もゴールドもゴッソリと入ったからだ。さっきトロールから手に入れた、守りの指輪も俺が着けようと思う。今度は俺が前方に立とうと思うが、ティシリィは嫌がるだろうか。
「待たせたな、インディ。体力は完全回復した! 本日、2度目の出陣行ってみるか!」
装備を調えたティシリィが宿から出てきた。
うん、ティシリィは無理に元気を装ってるようでは無さそうだ。少し遅い昼食を取って、俺達は再びヴァランナの村を出た。
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◆インディ(魔法使い)LV-16
右手・レイピア
左手・なし
防具・聖なる騎士の鎧
アクセ・守りの指輪
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◆ティシリィ(戦士)LV-11
右手・なし
左手・プラチナソード
防具・聖なる騎士の鎧
アクセ・守りのブレスレット
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「トロール戦での事を考えると、やっぱり俺も武器は持ってた方がいいかなって。どうだろう、このレイピア」
「いいじゃん。MPを使わなくて良ければ、村に戻る回数も格段に減るしな」
運が良いのか悪いのか、朝出かけたときはトロールのミッションがあった
「インディ、出たぞ! オークメイジだ! 2体!」
魔法を使ってくるオークだ。初めて出会う敵だが、トロールを相手にした俺たちにすれば、何てことは無い敵だろう。ティシリィが一撃で倒したのはもちろん、俺のレイピアでも一撃で倒すことが出来た。
「流石レベルが高いと、魔法使いでも強いな。よし、この調子で狩りまくるぞ、インディ!」
余りにもスムーズに敵を倒せるので、気がつけば少しずつ北上し、次の村、ガッテラーレのすぐ側にまで来てしまっていた。日も少しずつ落ちてきている。今日もヴァランナに宿を取っていたため、俺たちはモンスターを狩りながら南に下り、ヴァランナへと戻った。
「いくらなんでもそれは酷いだろ! 俺だって好きで前方に立っていたわけじゃないんだ!」
ヴァランナのレストランに入ると、1人の男が大声を上げていた。
「何を言ってる! アイツらが2人で倒したなら余裕だろって、無防備に突進したのはグラウじゃないか! だから俺は——」
俺たちに気付いたロクサスが途中で話を止めた。
「……お前たちか。よくトロールに2人だけで勝てたな。俺たちなんて倒せなかったどころか、グラウがやられたんだ。それで今もめてるところだ」
ロクサスの話によると、グラウはトロールのクリティカルヒットを食らったらしい。とにかく24時間以内に蘇生しないと、グラウはリタイヤ扱いになる。彼のゴールドだけでは蘇生出来ないため、他の5人にもゴールドを負担してくれと言っているらしい。当然だが、誰もが極力リアルマネーを使いたくないのだ。
「ロクサスが出してやりなよ。虹色のスライム倒したんだから、たんまり金はあるだろ?」
ティシリィが言った。
第1便のプレイヤーで、虹色のスライムを倒したのはロクサスだったのか。どうりで装備が豪華だったはずだ。
「バ、バカ言うな! 今後を考えると、金なんてあってないようなものだ!」
「ちょ、ちょっと待てロクサス。虹色のスライムを倒したのって、やっぱりお前だったのか。どうりで、1人だけおかしなステイタスだったワケだ。……じゃ、その装備を自腹のリアルマネーで買ったってのも嘘って事だな?」
グラウに問い詰められたロクサスは舌打ちをした。
「酷い人! さも、他の人が虹色のスライムを倒したかのように、言いふらしていたのにアナタ本人だったとは! ヴァランナにいる殆どのプレイヤーが、沢山のリアルマネーを使っているのを知らないとでも!?」
「今、話してる子はナイリって子。ゆっくり話したことは無いけど、多分お嬢様。こんな島に来るの、よく許して貰えたなって感じ。あと、アタシがロクサスに距離置いてる理由、なんとなく分かっただろ」
ティシリィがこっそりと、耳打ちしてくれた。銀縁メガネに黒髪のナイリは、確かにお嬢様っぽく見えた。
「ああ、分かったよ! だけど俺が出すのは1/6だけだからな! それを払っただけで、俺もほぼ一文無しになる。後は皆で決めてくれ!」
ロクサスは持っていたグラスをテーブルに叩きつけ、レストランを出て行った。
今晩は少しだけ贅沢をしよう、という話になった。
午後のモンスター退治で、かなりの経験値とゴールドを手に入れたからだ。俺たちはバーに来ていた。
「どうして、ロクサスは虹色のスライムを倒したことを黙ってたんだろう。ステイタス見られたらバレそうなものだけど」
「きっと、お金をせびられると思ったんじゃない? そういう奴だよ、アイツは。アタシには本当の事話したけど、他の奴には、朝から晩までモンスター退治してたなんて言ってたし」
「へえ……それにしてもさ、ティシリィ。この世界に来てまで、お金の事で悩むなんて思いもしなかったよね。まあ、ネット上ではこんな風になるだろうって予測してた人もいたけど」
「そうなのか……アタシの場合、リアルマネーに手を出すときは終わりって思ってやってたからな。目の前で虹色のスライムを倒されたときは、終わったって思ったよ、マジで」
「ハハハ、あの時はごめん……ティシリィみたいな考え方の人は、下手したら初日や2日目でリタイヤする事になるね。実際いたんでしょ? 初日でリタイヤした人?」
「いたいた! 昼前に上陸して、夕方には出て行ったからな。多分5時間くらいだぜ、この島に滞在してたのは。150万円を5時間で割ったら、1時間で30万円使った計算か……恐ろしい大人の遊びだよ、これは……」
蘇生するまで24時間の猶予が与えられるが、それにはゴールドを使うか、リアルマネーを使うことになる。もしくは、誰かにその費用を立て替えて貰うかだ。どうせ生き返ることが出来ない世界にとどまるのは辛かったのだろう、気持ちは分からないでもない。
「次の村、ガッテラーレにはまだ誰も行ってないのかな? もしかして俺たちが一番乗りで辿り着けたりして?」
「いや、グラウのパーティーは一度ガッテラーレに入ったとは聞いた。どうして、戻ってきたのかは分からないけど。……まあ、クリティカルヒットだったとは言え、トロールに一撃でやられた奴でも行けたんだ。アタシたちなら余裕だな! 明日はここを出てガッテラーレへ行こう!」
俺たちは明日、ガッテラーレへ向かうことになった。
いやはや、順調すぎて怖いほどだ。
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