LV-06:臨時パーティー

 昨日の勢いを冷ますかのように、今日は朝から雨模様だった。シトシトと静かな雨が降り続いている。


「どうしよう、ティシリィ。予定変更する?」


「そうだな、予定変更だ」


 ティシリィは、あっさりと言い放った。ティシリィなら、何が何でも行くと言うと思ったのだが。


「インディは図書館に行ってないから知らないだろうけど、雨の日にしか出ないモンスターがいるんだよ。しかも、レアアイテムをドロップするモンスターは、ここヴァランナ周辺にいるって話だ。——って事で、今日の目標はそれに変更する。長い目で見たら、今日のアイテムは無理をしてでも取っておくべきだ。」


 雨中での行動は身体が冷えるからと、レアアイテム探しは昼食を取った後の3時間だけと決めた。少し時間が出来たので、とりあえずバーの告知ボードでも見に行く事にする。


「おーい! 名前は何だったかの? キミ、キミ、そこのキミ!」


 振り返ると、ずぶ濡れになった老人の男性が立っていた。さっきまで雨に打たれていたのだろう。


「エクラウスさんじゃないですか、インディです! ここまで辿り着けたんですね! 2日ぶりなのに、凄く久しぶりにお会い出来た気がします!」


「そうだそうだ、インディだ! ワシの事なんかよりキミも凄いじゃないか! 自前の装備だけで来れたのかい? ワシなんかめちゃくちゃ金を使ってしまったぞ」


「俺の場合、めったに出ないレアモンスターを退治することが出来て、ここまで辿り着けた感じです。それに、ティシリィって言う——あ、ティシリィ! こっち来て!」


 偶然通りかかったティシリィを、エクラウスさんに紹介した。


「初めましてエクラウスさん、ティシリィです」


 ティシリィも敬語使えるんだ……てっきり、誰にでもタメ口なのかと思っていた。そんな思いが伝わったのか、ティシリィは「何だよ」という顔を向けてきた。


「ほー、もうパーティーを組んだのか! それは羨ましいな! ……そうじゃ! どうだろう、ワシもキミたちのパーティーに加えて貰えんだろうか?」


 エクラウスさんは、そんな提案を俺たちにぶつけてきた。



***



「アタシは嫌だよ、あんな爺さんと一緒に行動するの。インディがちゃんと断れよ」


「まあまあ……一番でのクリアを狙うなら、せめて僧侶と賢者を入れた4人のパーティーは必要だと思うよ。あと、こんな事言うのもなんだけど、エクラウスさんは結構お金持ちのはずなんだ。困ったときには助けてくれるんじゃないかな?」


「そういうのが嫌だって言ってんの! お金で一番になって楽しいか!? インディがそんな考えしてたなんてな……ちゃんと断っておけよ!」


 ティシリィには何を言っても、取り付く島が無かった。仕方がない、エクラウスさんには後でやんわりと断りを入れておこう。




 ヴァランナまで辿り着いているプレイヤーはまだまだ少ない。その上、しとしとと降り続く雨のせいだろう、村の外では他のプレイヤーとは出会わなかった。


 ただ、雨中での狩りは思ったよりも快適だった。鎧やコスチュームは雨に濡れても軽く、通気性も良かったからだ。流石に高額な費用を取っているだけの事はある、これには2人とも素直に感心した。


 だが、狩れども狩れども、目当てのレアアイテムは一向に落ちてこない。


「インディ! レアアイテム持ってるモンスターを呼び寄せる魔法とか無いのか!?」


 イライラしだしたのか、ティシリィが無茶を言い出した。


「そんなの無いって知ってるくせに……レベルが上がっても魔法自体、なかなか覚えてくれないしね」


 ファイラス以降、新しい魔法を覚えるものの、ファイラスより威力の弱いものばかりだった。後から知ったのだが、転職時に与えられる魔法はランダムで選ばれるらしい。次はそこそこの威力の魔法でいいから、全体攻撃を習得したいところだ。


「いい時間になっちゃったな……仕方ない、一度ヴァランナに戻るか」


 俺もティシリィに賛同した。雨の中でも動きやすい装備と言っても、やはり気持ちの良いものでは無い。


 狩りを続けながらヴァランナに戻っていると、1人で戦っているプレイヤーに遭遇した。相手はエスカルゴ、3匹もいる。


「大丈夫? 手伝おうか?」


「あ、ありがとうございます! お願いします!」


 そう答えたのは、ロクサスたちとミッションに参加していた内の一人、黒髪に銀縁眼鏡のナイリだった。


 俺達は残りの2匹をそれぞれ一撃で倒すと、ナイリのバトルが終わるのを静かに待った。


「ふう……やっと倒せた、助かりました。……流石、2人だけでトロールを倒しただけはありますね、お見事です」


「あ、あのさ、ナイリ……今のバトルで、レアアイテムゲットしちゃったみたい……これ貰っちゃって良いのかな?」


 ティシリィはナイリに聞いた。アイテムのドロップなどは、パーティーのリーダーに通知が行くのだ。


「もちろんです。アナタたちが倒した分なんだから」


 俺たち3人はヴァランナまでの道中を共にし、一緒に夕食を取る約束をした。




「今日はどうして1人で狩ってたんだ? パーティーは解散?」


 夕食を囲んだテーブルで、ティシリィがナイリに尋ねた。


「私たちの場合、必要な時にパーティーを組んで、それが済んだら解消するというパターンの繰り返しでした。誰もが、ベストなパートナーだとは思っていないみたいで……アナタたちはずっとパーティーを組むつもりですか?」


 ティシリィが俺の方を向いた。俺に答えろって事なのだろうか。


「俺はティシリィと一緒にクリアしたいと考えているよ。しかも一番で……」


 そう言うと、ティシリィはフフッと笑った。


「目標まであるんですね! それは、羨ましいです。今、ヴァランナにいるプレイヤーは、良い人が現れたらすぐにでも乗り換える気満々の人ばかりだから。

——ほら、今レストランに入ってこられたお爺さん。多分かなりのお金持ちだと思います。ロクサスが早速、パーティーの申し込みをしたと聞きました」


 そのお爺さんとは、エクラウスさんだった。ロクサスはエクラウスさんを誘ったのか……


「おお! インディ! パーティーの話はどうだい? 決めてくれたかい?」


 エクラウスさんはそう言って、俺の向かいの席に腰を下ろした。ロクサスからの誘いは断ったのだろうか。隣に座っているティシリィから、白々しい咳払いが聞こえてきた。


「あ、ああ……それなんですが、今の所、色々と試行錯誤してるところって言いますか……その……もうちょっと……」


「アハハ、そうかそうか。全然気にしなくて結構。こんな爺さんがいたら雰囲気も丸つぶれじゃもんな、忘れてくれ。それより、明日の予定は決まっているのか?」


 エクラウスさんに落ち込んでいる様子は無く、少しばかりホッとした。申し訳なく思ったが、ティシリィの気持ちも尊重しなくてはいけない。


「明日はガッテラーレを目指そうと思ってます。先日も、ガッテラーレ目前まで行ったので問題無く行けるんじゃないかと」


「おお、そうか! すまんが、ワシも同行させて貰えないだろうか。もちろんパーティーじゃなく、別行動で構わない。ガッテラーレの武器や防具も見て見たいんじゃ」


「ああ、そういうのなら全然大丈夫だ。一緒に行こう」


 ティシリィは快く受け入れてくれた。


「わ、私も一緒について行っていいですか? 先ほどやっと賢者になった所だから、回復魔法なんかで多少のサポートは出来ると思います」


「じゃ、この4人でガッテラーレに行こうじゃないか。ナイリにはレアアイテムをゲットさせて貰った借りもあるしな!」


 俺たちは、この4人でガッテラーレを目指すことになった。

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