LV-26:アスドレク(後編)

「分かっただと……!? 適当な事をほざくなっ! フィアネイル!!」


 今だ……今、試してみるか……


 アスドレクが右手を振り上げた。他の三人が防御をするなか、俺だけがアスドレクを見据えて希望の剣を向けた。


「凍てつけっ! エクサブリザードっ!!」


 ティシリィの時とは違い、アスドレクのフィアネイルが発動したのを見てから魔法を放った。案の定アスドレクは攻撃を止めることが出来ず、鋭い4本の爪が俺たちに襲いかかった。


 サーシャ、ナイリ、ティシリィと防御をしている三人に対して、フィアネイルが次々とダメージを与えていく。そして俺もそのフィアネイルの餌食となった。


「うわああああっ!!!」


 カウンター気味に食らったフィアネイルは、俺が今までで受けたダメージで最大のものだった。やばい、即死したかもしれない……そう思ったが、端末は静かなままだ。大丈夫、俺はまだ生きている……!


「インディ! アスドレクにダメージを与えているぞ!! しかも1/4もだ!!」


「インディ、ブレスリカバリーで回復は済んだわ!」


「ど、どういう事ですか!? 私たちにも説明してください!」


「あ、ああ……アイツは右手で攻撃、左手で結界のようなものを作り出している。ただ、同時には発動出来ないようだ。だから、さっきのは相打ちになった」


「そ、それに気付いたからどうしたと言うのだ!! 相打ちを続けたら死ぬのはお前たちの方だ!! こうなったら一人ずつ殺してやる、ピアスネイル!!」


 アスドレクは右の手のひらを上に向けると大きく後ろに引き、目にもとまらぬ速さで前に突き出した。狙われたのはサーシャだった。


「きゃああっ!!」


 サーシャが貫かれた瞬間、俺たちの端末が震えた。俺への回復を優先したサーシャは一撃で殺されたのだ。


「こ……このクソモンスターがああっ!!」


 ティシリィは部屋に響き渡る程の大声で、アスドレクに斬りかかった。だが、ティシリィに対して向けた左の手のひらは、軽くティシリィをはじき返した。


「そんな無謀な攻撃を仕掛けてていいのか? 重要な回復役が居なくなったんだぞ?」


 回復役のサーシャを倒したことで、アスドレクは最初の余裕を取り戻したようだ。次にナイリがやられるような事があると俺たちは終わる。


「……インディ? 左手は手のひらを向けた方向にしか、壁を作ることが出来ないのでしょうか?」


 この期に及んで、ナイリは落ち着いた声でそう聞いてきた。


「た、多分! 俺が見ていた限りではそう思う!!」


「分かりました……ティシリィ! インディ! 今からエクササンドスを放ちます! 落ちる瞬間、二人はアスドレクに斬りかかってください!!」


「ど、どういう事だ!?」


「いいから、準備を!! さあ、アスドレク! どちらを食らうかは自分で決めなさい!! エクササンドスっ!!」


 部屋の中央、アスドレクの頭上に暗雲が立ちこめた。


「ティシリィは右手を!! 俺は左首元を狙う!!」


「分かった、インディ!!」


 俺とティシリィは跳躍し、二人同時に剣を大きく振りかぶった。……ん? 部屋が少し明るい。ティシリィの光りの剣……? い、いや、俺の希望の剣だ。何が起こっている……!?


 アスドレクの頭上からは、いままさにエクササンドスが落ちようとしていた。そうか……アスドレクは頭上に左手を上げてエクササンドスを防御するか、俺たちの剣を防ぐかの二択を迫られている。流石だよ、ナイリ……


 結果、アスドレクは左手を上げて、エクササンドスを防御した。


 ティシリィが狙った右手は、SCHスーパークリティカルヒットが表示され、4本の爪をまとめて木っ端みじんに弾き飛ばした。一方、左の首元から斬り込んだ俺の剣は、鳩尾辺りまで食い込んでいた。


「ぐはあっ!! そ、その男の剣……人々の想いが蓄積されたあの剣だったのか……我らの仲間が呪いで封じ込めたと聞いたが……気付かなかったとは、迂闊だった……」


 体中から体液を吹き出しながら、アスドレクは黒い煙となってこの部屋から消えた。


 俺たちは静かにサーシャの元へ集まった。


「サーシャ、守ってやれなくてすまなかった……」


 そう言って、ティシリィはサーシャの肩に手を置いた。


「何言ってるの……ちゃんと勝てたじゃない、それで十分よ。それより……ティシリィの攻撃も凄かったけど、インディの攻撃には驚いた……半分近く残ってたアスドレクのHPも一気に持って行っちゃった。アスドレクを倒すには、必要だったんだよ。希望の剣が」


「ヴァントスたちは持ってなかったからな、希望の剣。まあ、持ってたとしても勝てたかどうかは……それにしても、よく気付いてくれたインディ」


「どのタイミングで気付いたのですか、インディ? アスドレクの左手が透明の壁を発生させている事に?」


「最初におかしいと感じたのは、ナイリがハイリカバリーを放った時だ。それまでは両方の手のひらをこちらに向けていたのに、あの時だけ左の手のひらを少し下に向けたんだ。決定的だったのが、ティシリィが強引にアスドレクの攻撃を止めた時だ。振り上げた右手を引っ込めただけでなく、左の手のひらをティシリィに向けた」


「ずーっと黙ってると思ってたら、そんなとこ見てたんだな。見直したぞ、インディ」


「謎は解けたけど、どうすればいいか分からない、って言われたときは唖然としたけどね!」


「フフフ、確かに。とにかく、アスドレクに勝てたのはインディのお陰です! 今日は私がインディに一杯奢りましょう!」


「なんだよナイリ、アタシも普段頑張ってるじゃんか」


「アハハ、いいですよ。今日は全員分、奢ります! 皆で乾杯しましょう!!」


 笑顔で炎の剣を突き上げたナイリに、俺たちはそれぞれの剣を重ね合わせた。

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