LV-33:ガルミウム鉱山(後編)

「インディ! 魔法なら鉄格子を越えて攻撃出来るはずだ! アタシは何も出来ないけど頑張れ!!」


 ティシリィの無責任な声援が飛んできた。現れた敵はアイアンゴーレム。大きくは無いが、見るからに硬く、重そうだ。体全身が鈍い銀色で輝いている。


 その時、『バシィッ!!』と甲高い音が鉄格子から聞こえた。ナイリが放ったギラサンドスが鉄格子に炸裂したのだ。


「インディ、すみません! 魔法も届かないようです!!」


 俺はピンチに立たされた。もしかして、一対一でモンスターと対峙するのは、虹色のスライム以来かも知れない……


 とりあえず、ダメ元で希望の剣を叩き込んでみた。


 『ガンッ!!』という大きな音は立てたが、予想通りダメージは全然通っていなかった。すると、お返しとばかりに、アイアンゴーレムが強烈な右フックを放ってきた。


「うあああっ!!」


「インディ!!」


 俺がこれほどまでに、女子の視線を集めたことがあっただろうか。だが、良いところを見せることも無く、このまま死んでしまうのかもしれない。


 HPは残り半分。サーシャの回復魔法も鉄格子に弾かれてしまうだろう。


 一度も使っていなかった、アレを使ってみるか……


「サーシャ! 俺が勝てたら回復を頼む! デディケートソウル!!」


 俺は希望の剣をアイアンゴーレムに向け、デディケートソウルを唱えた。HPを1だけ残し、それ以外のHPを攻撃エネルギーに変えるものだ。


 希望の剣は洞窟内を照らすほどに発光し、剣先に光りの球体を作り出した。その球体は身体が仰け反る勢いで射出され、アイアンゴーレムの体に直撃した。アイアンゴーレムは体に大穴を開け、重低音と共に地面に崩れ落ちた。


「やったなインディ! 痺れたぞ!!」


「ナイス魔法でした。流石です!!」


「インディ、回復完了!!」


 皆が思い思いの台詞と共に、地面に下がっていく鉄格子を跨いで駆け寄ってきた。


「いやあ……ギリギリだった……何より、皆に見られてて緊張した」


「ハハハ、何が今更緊張だよ! それより、さっさと開けようぜ宝箱!」


 中から出てきたのは『ブレイブソード』だった。ナイリが予想していた通り、ナイリ専用の剣だ。タイミング的にも、これがナイリの最強武器になるだろう。


「アタシは『光りの剣』で、インディが『希望の剣』。なんでこれだけ横文字なんだよ、考えた奴センスねえな」


「まあまあ、そう言わずに。これが、これが……私の剣……」


 その剣を掲げたナイリの目は、キラキラと輝いていた。




 モンスターとの戦闘を繰り返し、やっとの事で洞窟の突き当たりまでやってきた。放置されたトロッコの中には、銀色に輝くガルミウム鋼がゴロゴロと入っている。


「あれだ……普通に持ち帰れると思うか? 皆?」


「んー……手を出すと何か出てくるよね、きっと」


「そうだね、俺もそう思う……」


「では……さっきはインディが行ってくれたので、私が行きましょう」


「ま、待てナイリ。今度はアタシが行く」


 二人は俺とサーシャを置いて、トロッコの方へと行ってしまった。


「サーシャは行くって言わないの?」


「やだよ、『どうぞどうぞ』って言われるもん、きっと」


 そういやサーシャは、ゲームとお笑いが大好きだと言っていた。


 そして、ナイリとティシリィがガルミウム鋼に手を触れた瞬間、洞窟の天井が眩しい光りを放った。


 見上げると、目にもまばゆい銀色のドラゴンが宙を舞っている。


「こいつが、ここのボスか! シルバードラゴンとか、格好付けた名前しやがって!!」


「インディ! サーシャ! MPは全回復しています、惜しみなく魔法を放ちましょう!! いかづちよ落ちろっ、エクササンドス!!」


「了解! 凍てつけっ! エクサブリザード!!」


「嵐を呼べっ!! エクサウィンディス!!」


 三つの最上位魔法が連続で放たれた。


 エクササンドスの直撃で、シルバードラゴンは眩しく光り、エクサブリザードで凍ったかと思うと、エクサウィンディスの強風でシルバードラゴンは激しく体を揺さぶられた。洞窟内にシルバードラゴンの咆哮が響き渡る。


「くっ、来るぞ!!」


 怒り狂っているであろう、シルバードラゴンは大きな口から火炎を噴き出した。かなり高い位置からにも関わらず、強烈な熱風が俺たちを襲う。


「かっ、回復は後です! もう一度いきますよ! エクササンドス!!」


 俺たちは再び、最上位魔法を連続でシルバードラゴンに浴びせた。ナイリのエクササンドスが直撃した直後、俺のエクサブリザードで凍らせ、最後はサーシャのエクサウィンディスでシルバードラゴンの体はバラバラに引き裂かれた。


「すげえなイロエスは……ちょっと感動したよアタシ。お……奥に宝箱が出てるぞ」


 ティシリィが宝箱を開けると、『エクサファイラスの書』が出てきた。これで最上位魔法は全て揃ったはずだ。ずっとファイラスを使い続けてきた俺にとって、エクサファイラスの書は、今までの書とは違った喜びがあった。


「じゃあ、ガルミウム鋼でも持って帰るか……な、なんだ、重いぞコレ!」


「どれどれ……げっ! 俺でも重いよ、これ! そもそも、いくつ持って帰ればいいの?」


「い、いや……数は聞いてない。でも、何度もここに来るのは嫌だろう。頑張って一人、一つは持って帰ろう」


 ガルミウム鋼が入ったトロッコの横には、ご丁寧に革製のリュックのようなものが置いてあった。俺たちはそれにガルミウム鋼を入れ、それを背負って出発した。



 日が傾き始める中、俺たちはモルドーリアの村を目指す。そして20分程が経ち、クロトワ集落の横を過ぎた頃だった。


「わ、私もう無理……ごめん、先行って」


 とうとうサーシャがリュックを降ろして座り込んでしまった。


「インディ、右手でリュックの片方持ってくれるか? アタシは左手で持つ」


 結局、サーシャの分は俺とティシリィが持つことになった。日は落ち、体力も使い果たした頃、やっとモルドーリアに辿り着いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る