LV-32:ガルミウム鉱山(前編)

「ヘルド・ガルーラが、結界の石を抜いて回ったのと同じくらいの衝撃だな……この世界の正しいエンディングって、アタシたちがヘルド・ガルーラを殺すことじゃないのか?」


「その考えに至っても仕方ありませんね……本当に、何が正しいのか……」


「時間も時間だし、とりあえず鉱山に行って、ガルミウム鋼を取りに行こう。今からでも、帰る頃には日が落ちているかもしれない」


「ああ、そうだな……クロトワの事は後で考えよう……」


 俺たちはガルミウム鉱山を目指し、西へと進路を取った。




「ここですね……どの辺りまで洞窟は続いているのでしょう……奥深くなければいいのですが」


 クロトワ集落からガルミウム鉱山まではさほど遠くなく、20分ほどで辿り着いた。洞窟の入り口はとても大きく、そこそこの長丁場になると予想される。


 洞窟の中は、ガルミウム鋼を運ぶトロッコのレールが敷かれている。ただ、ここ最近は稼働していなかったからか、そのレールは少々錆びていた。ただ、洞窟内のランプは稼働時のまま、柔らかい光を灯している。


松明たいまつが必要無くて良かったね。そんなの再現されたら、バトルの度に地面に置かなきゃいけないとこだった」


「ハハハ、昔のゲームにも詳しいんだね、サーシャは」


「動画サイトで昔のゲーム実況見るのも好きなのよ。そういや、リメイク版も結構やりこんだなあ」


「サーシャ……そんな話をしてると、またティシリィに——きっ、来ましたよっ!!」


 前方に砂煙を上げ、スコーピスというモンスターが現れた。その姿は、まるでサソリだ。俺が慌てて戦闘態勢を取る頃、ティシリィは既にスコーピスに斬りかかっていた。


「いっ、痛っ! なんだコイツ!!」


 ティシリィの攻撃はスコーピスにダメージを与えていたが、同時にティシリィもスコーピスの尾に刺されていた。そして、今までにない着信音が左手の顛末から聞こえてきた。


『ティシリィ:毒』


「こっ、こんな終盤で毒におかされるのね……えーと、解毒するのは何て魔法だったかしら……」


「サ、サーシャ、早く!! ティシリィのHPがもの凄いスピードで減っている!!」


 伊達にこんなタイミングで出てくる攻撃では無かった。解毒魔法を早く唱えないと、ティシリィが死んでしまう。


「こっ、これだ! エリミネイション!!」


 サーシャがそう叫ぶと、ティシリィから毒が排除された通知が端末に届いた。


「やっ、やばいなコイツ……攻撃は魔法にしぼって、少し距離を取ろう」


 そう言うと、ティシリィにしては珍しく俺たちと同じ位置にまで後退してきた。

 

「あとは任せてください! ギラサンドス!!」


「来い水流! ラピオード!!」


 ナイリと俺は、敵を甘く見たのだろう。そこまでMPを消費しない魔法をスコーピスに唱えた。だが、スコーピスは魔法耐性があるらしく、HPはまだ半分近くを残している。すると、スコーピスは自分の尾をムチのようにしならせ、その先から毒液を噴射した。


『ティシリィ:毒』『サーシャ:毒』『インディ:毒』


 端末は連続で、ナイリ以外が毒に犯されたことを通知してきた。


「ちっ……! ウゼえな、こいつは!!」


 再び毒に犯された事で吹っ切れたのか、ティシリィは再びスコーピスに斬りかかった。そのティシリィの剣は、SCHスーパークリティカルヒットの表示と共に、硬そうなスコーピスの身体を真っ二つにした。


「最初の敵がこれとは、なかなか厄介な洞窟ですね……サーシャ、私の『αの書』を貸します。複数人が毒に犯されたときは使ってください」


 そう言って、ナイリは『αの書』を手渡した。サーシャはナイリ以外を解毒すると、俺たちは再び洞窟の奥へと進み出した。




 その後に出てくる敵もスコーピス同様、一癖も二癖もある敵が多かった。スコーピス以外にも毒を使う敵がおり、僧侶がいなければ攻略は不可能に近かったかもしれない。


「……みなさん、ちょっと待ってください。この左手、通路じゃありませんか? ちょっと覗いていきましょうか」


 ナイリが進んでいったのは、長身の男性なら少しかがまないといけない程度の小さな横穴だった。


「やだなあ……私、こういうの苦手……」


 サーシャはそう言いつつも、俺たちに続き横穴から入ってきた。中は思いのほか天井が高く、奥行きもある。そしてその一番奥には、きらびやかな宝箱がポツンと一つ置いてあった。


「怪しいな……怪しすぎる、どこからどう見ても……」


 ティシリィの言葉に、俺たちは無言で頷いた。これは何かしらの罠だと、皆が思っているのだろう。進んで宝箱の元へ行く者はいなかった。


「——分かったよ、俺が見てくる。意外だなあ、ティシリィはこういうの好きそうなのに」


 俺はそう言って宝箱の元へと進み出した。そして、空洞の中央を過ぎた当たりだろうか、地面から鉄格子が突き出してきた。


「きゃあっ!」


 そう叫んだサーシャたちは入口側、俺だけが宝箱側と、空洞の中で二手に分けられてしまった。


 すると、嫌な予感通り、俺がいる方にだけモンスターが現れた。


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