LV-40:城内

 城に入ると、左側には2階へ上がる階段、右側には地下へと下りる階段があった。アスドレクが居た城同様、ホール沿いに弧を描いた大きく立派な階段だった。1階自体は通路が全て破壊され、2階もしくは地下に進むしか選択肢は無い。


「ヴァントスたちはもう城に入ってるんだろうか」


「どうでしょうね……? ティシリィはどちらがいいですか?」


「んー……今回も2階かな? どうだろう皆」


「俺も2階がいいと思う。ナイリとサーシャは?」


「私は問題無いです。サーシャもいいですか?」


 サーシャが頷いたのを合図に、俺たちは2階への階段を上っていった。そして、アスドレクの城同様、2階に着いた途端にモンスターが現れた。


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◆インディ(魔法使い)LV-83

右手・希望の剣[ETA]

左手・神秘の盾

防具・希望のローブ

アクセ・守りの指輪/神秘のネックレス

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◆ティシリィ(戦士)LV-81

右手・神秘の盾

左手・光りの剣[ETA]

防具・黒騎士の鎧

アクセ・幸運のブレスレット/ツインイヤリング/神秘のネックレス

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◆ナイリ(賢者)LV-80

右手・ブレイブソード[ETA]

左手・神秘の盾

防具・ブレイブアーマー

アクセ・神秘のネックレス/雨の恵

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◆サーシャ(僧侶)LV-76

右手・氷塊の杖

左手・聖母の杖

防具・聖母の法衣

アクセ・祝福の指輪/神秘のネックレス/雨の恵

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「な、なんだこいつら凄い数だな……ナイリ、αの魔法でぶっ放してやれ!」


 2階に着いて直ぐに現れたのは、ロットバットという小さなコウモリ型のモンスターだった。少なくとも20匹はいるように見える。


「ダメです! αは敵の数に比例してMPを消費するので、あっという間にMPが無くなります!」


 その為、ティシリィは光りの剣を横にはらって全体攻撃、サーシャは氷塊の杖を使っての全体攻撃を試みた。だが、HPはまだ半分くらい残っている。


「そこそこHPも高いんだな……効いてくれよ、メテオレイン!!」


 希望の剣から飛び出した水流は、無数の隕石となってロットバットたちへと降り注いだ。


「まっ、まだHPが残っていますか! 私の魔法はαを使わないと単体攻撃のものしか無いのです。αの書に、こんな弊害があったなんて……」


 ロットバットは僅かだが、HPを残していた。そして、そのロットバットたちは驚きの行動を取った。超音波のようなものを発すると、同じ数のロットバットが現れたのだ。しかも、俺たちの後ろ側に……


「痛っ!!」


 ロットバットは、代わる代わる俺たちに攻撃を加えてきた。一体一体から受けるダメージ自体は大きくないが、何よりこれだけの数だ。このままではなぶり殺しにされてしまう。


「ち、小さな敵だと思って侮っちゃいけないのかも! 蹴散らせ、エクサウィンディス!!」」


 サーシャは新しく現れたロットバットの集団に、最上位魔法を唱えた。風魔法は相性が良かったのか、ロットバットたちは体をバラバラにされながら吹き飛んでいった。


「ナ、ナイスだ、サーシャ!! 墜ちろ、メテオレイン!!」


 最初からいたロットバットは、俺のメテオレインで一掃した。この城に着いて、初戦からかなりのMPを消費する事になった。


「最初から強烈な奴らが出たな……この調子じゃ、MPカプセルいくつあっても足りないんじゃないか?」


「とりあえず、味方を呼ばれる前に、全力を注ぐようにしましょう。エクサウィンディスの相性の良さを見ると、ハイウィンディスでもかなり効果はあると思います。何度か対戦して、ベストな組み合わせを探していくしかなさそうですね」


「確かに、エクサウィンディスは手応えがあったわ。次は一度、ハイウィンディスを試し——ちょ、ちょっと見て、外!」


 サーシャが窓に張り付くと、俺たちも同じように後ろから覗き込んだ。


「ヴァ、ヴァントスたちじゃ無いか! あそこへはどこから入ったんだ……アタシたちより先に進んでるんだろうか」


 ヴァントスさんたちは、俺たちに背中を向ける形で、1階の中庭を進んでいる。1階自体は破壊されているので、そこに辿り着くには地下から、もしくは2階からの移動となる。そして、中庭突き当たりにあった扉を開けると、城内へと入っていった。


「中庭へは、どこから入ったのでしょうか……2階から進める場所だとしたら、かなり先行しているという事です……ところで皆さん、見ましたか? 彼らの装備を」


「ああ……魔法使いも、賢者も市販の鎧だったな。アイツたちの道中には、アイテムが無かったのかもしれない」


「そうですね……その代わり、他のアイテムを獲得した可能性も無くはありませんが」


 確かに、ロクサスもティナも市販の防具を着けていた。もし、俺が着ているローブを手に入れたなら、どちらかが装備しているはずだ。




 中庭を見下ろせる廊下を過ぎると、城内は再び暗い世界となった。アスドレクの城を回ったときと同じような、息苦しい感覚がよみがえってくる。


「サーシャ、平気か? こういうの苦手なんだろ?」


「へへ、やっぱり得意では無いよ。でも、前よりは随分マシかな。ティシリィって、案外細かいところに気がつくよね?」


「ハハハ、アスドレクの時と同じ雰囲気だなって思ったからさ。——出てきたぞ! またコイツらか!!」


 再びロットバットが現れたため、俺たちは戦闘体勢に入った。息苦しさを敏感に読み取ったティシリィ。ワクワクすると言っていた彼女も、本当は苦手なのかもしれない。



 2階で戦闘を繰り返すうち、ロットバットをはじめとするモンスターたちとの戦闘の最適解も分かりつつあった。ただ、MPカプセルは徐々に数を減らしている。まだまだ数に余裕があるとは言え、心理的には楽では無い。


「多分……ここが2階のメインイベントだろう……アスドレク同様、ベテルデウスは地下にいるようだな」


 2階の突き当たりにあった、扉の前でティシリィが言った。その扉は豪華な装飾で施され、明らかに他の扉とは違って見えた。ただ、その扉は小さく、最後のバトルをする部屋には見えない。とりあえず安全を期し、俺たちは扉の前でHPとMPを効率良く回復させた。


「中ボス戦になるだろうな。ここはナイリが開けるか?」


「いえ、ティシリィが開けてください。私たちも続きます」


 ナイリの言葉に頷いたティシリィは、勢いよくドアを開けた。


 だが、その部屋は扉同様小さく、ガランとした部屋の奥には祭壇があった。


「な、なんだ、調子狂うな。この部屋の大きさじゃ、敵は出そうに無いぞ」


「み、見て。祭壇の前の床。少し光ってない?」


 サーシャが言うとおり、その部分だけ床がうっすらと輝いていた。


「上に乗ったら何か起こりそうですね。いえ……絶対に何か起こるでしょう」


「わ、私は遠慮しておこうかな」


 サーシャはそう言うと、ナイリの背中に隠れた。


「分かった分かった……俺が最初に乗るよ」


 ガルミウム鉱山の時に、部屋の中で二手に分けられた事を思い出したのか、ティシリィたちは俺のすぐ後ろを付いてきてくれた。


「じゃ、じゃあ乗るよ……」


 俺はゆっくりと、右足から乗せ、左足もその光る床に乗せた。次の瞬間、床からの光量が増し、光りが俺を包み込んだ。


「ん……? 何か変わった?」


「もしかして、HPとMPを回復してくれる床だったのかもしれませんね。MAXに2だけ足りなかったインディのMPが満タンになっています。部屋に入る前に回復させたのが無駄になりましたね……」


 俺の次にナイリが乗り、ティシリィが続いた。


「アタシが回復するHPは5だけか……なんか勿体ないことしたな」


 そう言ってティシリィが乗ると、床からだけは無く、祭壇からも光りが放たれた。


「ティ、ティシリィ! 鎧が!!」


 驚いたサーシャが指さしたティシリィの鎧は、黒から黄金へと色を変えていた。


「な、なんだこれ……すげえな……」


 端末でティシリィのステイタスを見ると、ティシリィの鎧は、『黒騎士の鎧』から『光りの鎧』へと名前が変更されている。防御力も格段にアップしていた。


「わ、私も乗ってみる!」


 乗るのを嫌がっていたサーシャも、ティシリィの変化を見て気が変わったのだろう、光りの床に勢いよく乗った。


 サーシャが乗ると、ティシリィの時と同様に祭壇から光りが放たれた。


 サーシャの氷塊の杖が、氷塊の杖[ETAエンハンスメント]に書き換えられている。杖自体も装飾が豪華になり、最強の杖の雰囲気を醸し出した。


「これで、ハッキリしましたね……ヴァントスさんたちは、地下から進んだのでしょう。この部屋に来ていたなら、グラウの鎧も光りの鎧に変わっているはずですから。この床を、素通りするとは考えられません」


 そしてサーシャが床から離れると、祭壇のとなりの壁が独りでに開いた。入ってきた扉は既に閉まっており、強制的にこちらから進めという事なのだろう。


 そしてその先には、階下へと向かう階段があった。

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