LV-28:カイとティナ

 俺たちはしばし休憩を取った後、レストランに集まっていた。


 ヘルド・ガルーラの話を聞いたからだろう、全員が一様に暗い顔をしている。


「一旦、ヘルド・ガルーラの話は忘れて、私たちの事を整理しましょう。まず、ダブルドラゴンからのドロップアイテムが『ツイン・イヤリング』。攻撃でも魔法でも、時々ですが2回発動するようです。回復なんかは運に頼らない方がいいので、これはティシリィに着けてもらいましょう。あと、アスドレクからのドロップアイテムが『黒騎士の鎧』と『エクサウィンディスの書』ですね。鎧は……これもティシリィ、魔法の書はサーシャですね。かなり強くなりましたよ、私たち」


「エ、エクサウィンディス!! 私もとうとう、最強魔法を手に入れたのね!!」


「ツイン・イヤリングはなかなか面白いアクセサリーだな。あとは、神父がアップデートしてくれた地図か」


 新しい地図には、とうとう最後の城、バルナバ城が表示された。島全体が表示されていることから、これが最後の地図になると思われる。


 プラス、モルドーリアという村が追加されていた。カタルリーアから航路が延びているので、また船での移動になるのだろう。この新しい地図が、モルドーリアへのチケット代わりになるはずだ。


「また、この村から船が出るのね。明日には出発する?」


「そうだな、明日一番に出して貰えるよう、村の奴に言ってみよう。……じゃ、乾杯するか! 暗い顔していても仕方ないし!」


「そうですね! 私の奢りです、どんどん飲んでください!!」


 そう言ってナイリが店員を呼ぼうとした時、ヴァントスさんたちのパーティーがレストランに入ってきた。


「アスドレクに勝ったそうじゃないか。正直言って、ノーヒントでアイツに勝てたなんて凄いよアンタたち。アスドレクの秘密に気付いたのは誰だ? メガネのお嬢さんか?」


「……ヴァントスさん。私にはナイリという、立派な名前があります。以後、お見知りおきを。謎を解き明かしたのは、ここにいるインディ、魔法のスペシャリストです」


「ハハハ、そうか。俺たちも明日、朝イチで再戦してくる。今日の内に『希望の剣』も取ってきたしな。すぐに追いつくから、そのつもりで。とりあえず、おめでとう」


 そう言うと、ヴァントスさんたちは他のテーブルへと移動した。エクラウスさんも、俺たちに「おめでとう」と一言残していった。


「——なんだよ。急に良い奴アピールし出したな、ヴァントスの奴。エクラウスと一緒にパーティー入れてくれとか言うんじゃないだろうな」


「いや、今日のは素直に受け止めていいんじゃない?」


「そうそう、ティシリィは好戦的過ぎるの」


 サーシャはそう言って笑った。




 ビールが運ばれてきて、俺たちは乾杯をした。


「とりあえず、今日はアスドレク戦勝利、お疲れ様!! ……とうとう、ベテルデウスの尻尾が見えてきたな。ベテルデウスと対戦出来るのは、早くて明後日あさってくらいか。先頭にいるアタシたちでも2週間はかかるって計算だな。まあ、タイムリミットには充分間に合いそうだ」


「タイムリミットって、ちょうど一カ月だったよね。私、20日間しか有給取れ無かったから、このパーティー以外だと途中でリタイヤしてたかもしれないな」


「サーシャ、そういう現実的な話をすると、『エンディングが終わってからにしろ』ってティシリィが怒るよ」


「それはそうと……皆さん、そろそろ『イロエス』を定着させませんか……? すぐに、『このパーティー』だとか言い出すんだから……せっかく、イロエスという立派なパーティー名があるのに……」


 ナイリの目は少し据わっていた。ビールはまだ半分ほどしか減っていないにも関わらずだ。前回のように、口調が変わる寸前なのかもしれない。


「そっ、その通りだ、ナイリ! アタシたちのパーティーはイロエスだ。間違い無いぞ!」


 そう言ってティシリィはナイリをなだめた。酒を飲んでいる時は、ナイリが一番面倒なのは言うまでもないだろう。


「……そうそう、サポートセンターには文句を言っておいたぞ。全体攻撃の時も酷いことになってるから、調べ直せって」


「サポートセンターは何て?」


「『物語も後半なので多少はキツいかもしれません』とか言い出しやがった。開き直りやがったんだよ、アイツら。まあ……正直言うと慣れてきちゃってるとこあるんだよな、アタシ……」


「えっ、そうなの!? 私は絶対イヤなんだけど」


「確かに、多少の緊張感出るし、悪くないかなって俺も思い始めてる……」


「ええっ!? 本気で言ってるの、あなたたち!? 信じられない!!」


 本気で嫌がっているサーシャを見て、ティシリィは笑った。


「それはそうとさ、アスドレク戦のインディ、ナイスプレイだったけど……一歩間違えてたら死んでたぞ、アレ」


「そうそう! 私も思ったの! 他に試し方無かったの? って!」


「ハハハ……今思うと、正直焦ってたと思う。もっと落ち着かないとね」


 本当にその通りだった。少しでもHPが残ってくれていたのはラッキーだったと言わざるを得ない。ちなみに、残っていたHPは僅か2だったそうだ。


「まあ、勝てたのはナイリのお陰だよね。俺とティシリィの剣と、エクササンドスの二択に持っていったのは凄いと思ったよ。アスドレクも、剣の方を防御すれば即死は無かったと思うけど。ねえ、ナイリ。——ナイリ?」


 ナイリはジョッキ片手に、器用な姿勢で寝息を立てていた。



***



 レストランで解散後、俺はバーに来ていた。レストランを出る際、エクラウスさんに後で飲もうと誘われていたからだ。


「インディ待たせたな、すまんすまん」


「いえいえ、全然大丈夫ですよ。良かったです、またこうやってお話が出来て」


「俺もだよ。……すまなかったな、パーティーに出たり入ったり、ややこしいことをして」


 エクラウスさんはそう言うと、俺が聞いた事も無いお酒のロックを注文した。


「どうして、あのパーティーに入ったんです? エクラウスさんは」


「うーん……そのつもりは無かったんだよ。最初は全く新しいパーティーを組もうと思ってガッテラーレに行ったんだ。だが、ガッテラーレでは既に、殆どのパーティーが固定されていてな。余っていた……って言い方は悪いが、カイとティナっていう男女2人のパーティーがいたんだ。ほら、インディも今日会っただろう」


 カイとティナは、今朝初めて見た男女の事だ。今は、エクラウスさんと共に、ヴァントスさんのパーティーに入っている。


 エクラウスさんは最初、カイとティナの三人でパーティーを組んだという。カイとティナは新婚さんで、新婚旅行代わりにこのアトラクションに参加したそうだ。運が良いことに、彼らも虹色のスライムに出会ったことで、スムーズにここまで進めたらしい。


「でも、この三人じゃ厳しいだろうから、新しいメンバーがガッテラーレに来るのを待っていたんだよ。僧侶二人に魔法使い一人っていう、いびつなパーティーだったしな。そこに戻ってきたのがヴァントスたちだったんだ」


 ヴァントスさんは、カイとティナの二人に声を掛けたという。彼らに好条件を出し、エクラウスさんを含めた三人で入ってくれないか? と。


「彼らは新婚で金も無かったしな。ヴァントスが出した条件は魅力的だったんだろう。そこで彼らに頼まれて、ヴァントスのパーティーに入る事になったんだ。

——まあ、これを逃すと次にパーティーを組むのは難しいかも、っていうのも正直あったんだが」


「——じゃあ、エクラウスさんが俺たちのパーティーに戻ってくるのは、難しいって事ですよね……」


「インディがよくても、ティシリィがダメと言うだろう」


「いえ……実はティシリィも、エクラウスさんと一緒に旅を続けたかったようなんです。エクラウスさんを追いかけようとしたナイリを引き留めた事を、後悔しているようでした」


 エクラウスさんは驚いた顔で俺を見た。


「そうか……だが、今となってはカイとティナに頼りにされているしな……彼らもいい子たちなんだ。……誘ってくれた事は、本当に嬉しいよ。インディ、ありがとう」


 今のヴァントスさんのパーティーなら、俺が思っていたほどエクラウスさんは居心地が悪くないのかもしれない。俺はそれだけで、心が少し軽くなった。

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