LV-35:燃えるクロトワ

 俺たち五人を乗せた馬車は、小高い丘を力強く駆け上がった。お世辞にも乗り心地は良くなかったが、徒歩ならばクロトワの危機に間に合わないだろう。


「どんな奴が来たんだ? 大型のモンスターか!?」


「いや、仲間を率いているモンスターは小柄だ! ただ、そいつは言葉を話す」


「言葉……!? ベテルデウス以外で言葉を話すのは、アスドレクだけと聞いていましたが……きっと、頭の良いモンスターなのでしょう。急ぎましょう!」


「分かってる! こいつの出せるスピードはこれが限界なんだ!」


 丘を越えると、クロトワ集落から立ち上る煙が見えた。




「カウロ、大変だ! 魔物がウーラの家に入った!!」


「何をやってる! 死んでも守れ!! イロエスたち、こっちだ!!」


 馬車を降りた俺たちはカウロを追い、ウーラの家まで駆けた。周りには倒れているクロトワ族が何人もいる。もしかすると、彼らは既に息を引き取っているのかもしれない。見るのが辛いのだろう、サーシャはカウロの背中だけを見て走っていた。


 ウーラの家に入ると、一体の小柄なモンスターがいた。


「——何ダ、オ前タチハ? 邪魔ヲシニ来タノカ?」


 体はアスドレクのように漆黒で、大きな目だけが鮮やかな紫色をしていた。細い体からは大きな翼が生え、爪もまたアスドレクのように鋭くとがっている。デビラという名前らしい。


「話せるってのは本当だったのか……話す事が出来るのは、ベテルデウスとアスドレクだけだと聞いていたが……」


「ドウシテ、俺タチハ進化シナイト考エル? 何様ノツモリダ、オ前タチ?」


「だけど、話せた事はこちらにとっても都合がいいです。どうして、昔は共存していたクロトワ族を襲うのですか!?」


「何ヲ言ッテル! 裏切ッタノハ、コイツラダ! ガルーラ王国ト共ニ、我ラニ、牙ヲ向ケタ!」


「クロトワ族だって被害者なんだ! 決して、お前たちと戦いたかったわけじゃない!!」


「ソンナ事、知ルカ……ベテルデウス様ハ、父上ノ甘サガ、滅ボサレタ原因ト考エテイル。今回ハ、優秀ナ魔族以外ハ、仲間デアッテモ生カシタリハ、シナイ。モチロン、オ前タチモ含メテダ」


「さ、最後に一つだけ聞かせろ。じゃ、どうして今日までクロトワの集落を襲わなかったんだ」


「魔族ニモイルンダヨ、甘ッチョロイ考エヲシタ奴ガナ。ソウイウ奴ラハ、片ッ端カラ処分シタ。俺様ガナ……クロトワノ人間ヨ! 今マデ、生カサレタ事ニ、感謝スルンダナ! ……サア、掛カッテコイ! 人間共!!」


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◆インディ(魔法使い)LV-77

右手・希望の剣

左手・魔法の盾

防具・魔法の鎧

アクセ・守りの指輪/神秘のネックレス/雨の恵

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◆ティシリィ(戦士)LV-78

右手・魔法の盾

左手・光りの剣[ETA]

防具・黒騎士の鎧

アクセ・幸運のブレスレット/ツインイヤリング/神秘のネックレス

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◆ナイリ(賢者)LV-77

右手・ブレイブソード

左手・神秘の盾

防具・神秘の鎧

アクセ・神秘のネックレス

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◆サーシャ(僧侶)LV-69

右手・氷塊の杖

左手・魔法の盾

防具・神秘の鎧

アクセ・祝福の指輪/神秘のネックレス/雨の恵

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 デビラは宙に浮いた。カウロはウーラを連れて、既に部屋を出たようだ。


「今の話を聞けて良かった……もうコイツらに情けを掛ける必要は無い! アスドレクより下っ端だ、負ける要素は無い!!」


 その台詞を聞いた瞬間、デビラの表情が変わった。


「ア、アスドレク様ヲ倒シタノハ、オ前タチナノカ……? ツマラナイ冗談ハヤメロ……」


「冗談なものですか! アスドレクの左手の結界の秘密だって知っています! 覚悟なさい、デビラとやら!!」


「ソ、ソウカ……俺コソ、オ前タチノ話ヲ聞ケテ良カッタ。クチハ、災イノ元ダナ」


 デビラはそう言うと、両の手のひらをこちらに向けた。手のひらはみるみる発光し、次の瞬間、巨大な光りの玉を放った。


「まっ、眩しい!!」


 目を開けた時、既にデビラは居なかった。目くらましを放って逃げたのだろう。


「思ったより、賢い奴だったな……すまない、余計な事を言って……」


「大丈夫です、ティシリィ。いずれまた、あのモンスターとは戦うことになるでしょう。それより、ウーラたちは大丈夫なのでしょうか……」


 ウーラの家を出ようとすると、カウロが玄関に立っていた。


「カウロ、ウーラはどうした……?」


 カウロは首を左右に振った。


「も、もしかして……な、亡くなられたのですか……?」


 カウロは返事の代わりに、黒い瞳から大粒の涙を溢れさせた。




 俺たちはカウロに連れられ、クロトワの集会所へ移動した。中には、沢山の棺が置かれている。


「こ、これ……全部、そうなのか?」


 カウロは消え入りそうな声で、「ああ……」と答えた。


「カウロ、これからどうするのですか? ……モルドーリアへは行きますよね?」


「いや……俺たちは亡くなった仲間をとむらわなくてはならない。どうするか考えるのはそれからだ。それに……ここが襲われたのは、ガルーラ王国の人間のせいだと村民は思っている。——俺だって、その一人だ」


「でも……サウル神父はクロトワ族と一緒に生きていきたいって言ってたよ。一人一人が変わっていかないとダメなんじゃない? 私なんかが口を挟める事じゃないって分かってる。でも……」


 そう言って泣き出したサーシャの肩を、ティシリィが抱いた。


「そうです、このままではダメです。またモンスターが現れたらどうするんですか? あなたたちの戦力では……言いづらいですが、全滅してしまいます」


「俺たちは……もう、ここで死んでもいいと思っている。アイツら——」


 パーンッ


 ティシリィはカウロの頬を平手打ちした。カウロはどう返して良いのか分からず、複雑な表情をしている。


「す、すまない……色々な意味で……つい、手が……だ、だけど、死んでもいいとか言うな」


「わ、悪かった……そ、そうだ、お前たちにウーラから託されていたものがある、これだ」


 それは小さな麻袋だった。中を開けると、不思議な光を放つ緑色の石が入っていた。


「これは、パウロ・アルジャンテという者が置いていったものらしい。どんな時であっても、一度だけ命を吹き返すことが出来るそうだ。この集落で、ずっと大切に保管されてきたものだ」


「そ、そんな大事なものを私たちに……?」


「ウーラは、この世界を変えることが出来るのは、お前たちだと言っていた。俺もそう思い始めている。……サウル神父に伝えてくれ。クロトワの民は俺が説き伏せる。そして、俺たちも共に歩みたいと」


 俺たちはカウロと強い握手を交わした。

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